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それぞれの闘病事情

アルベルティーナのステータスは体力低め、魔力高めの魔法使いタイプ。

隊列を組ませたら、物理攻撃が一番飛びにくい後列に配置される。




「解せないですわ」


 アルベルティーナがぷくーっと白い頬を膨らませ拗ねて見せると、傍にいたアンナが苦笑した。

 アルベルティーナのメギル風邪の症状は軽かったが、長引いた。微熱が続き、早二週間だ。一日の中でも高くなったり下がったりを繰り返して、なかなか完治しない。

 途中でアルベルティーナを見舞いに来て、見事に感染したキシュタリアやミカエリスが一週間も経たないうちに完治して今では領地できびきび働いている。

 アルベルティーナが治るより先に元気になっている。


「あとちょっとなのですわ! 体調はそんなに悪くありませんの!」


「その通りです、姫様。本日のメニューは白パンと野菜スープになります。デザートは蜂蜜と林檎入りのヨーグルトです」


 お盆に乗せられたスープカップも、パンもいつもより一回り小さい。

 アルベルティーナは拗ねるくらいの元気はあるが、やはり食欲は少し落ちていた。

 熱は少しずつ引いているし、ベッドに伏すことは減っているので快方には向かっている。

 だが、健康優良児たるキシュタリアやミカエリスと比べるとどうしようもない遅々としたペースであった。

 魔力に作用する薬ということもあり、主治医たちが投与量にかなり慎重になっているのもある。

 ちなみに、キシュタリアとミカエリスの面会を許可したのもその主治医たちだ。

 曰く。


「姫様も暇でしょ。やれることは精々読書と刺繍じゃん。執務は流石にダメだし、庭の散歩ももう少し体力が戻ってからね」


 銀髪の主治医はそう言っていた。


「二人の時間の猶予があるなら、今のうちに罹った方がいいかもね」


 金髪の主治医まで同意していた。

 ちなみに、この二人も真っ先に罹ったが、投薬後の症状は極めて軽微だった。

 アルベルティーナの用意させていたメギル風邪用の解熱剤は効果抜群で、二人もさっさと復帰している。

 王侯貴族の間で死病とまで恐れられていたメギル風邪が、随分かわいくなったものだ。

 二人も実体験から、面倒な時に罹るなら時間に余裕のある時に罹っておいた方が良いと判断したのだろう。

 仕事が立て込み、本当に疲れ切っている時に罹患したら地獄だ。


「怖いのは高熱より、炎症からくる多機能障害だね。後遺症が残ると、どうしても虚弱体質になる。目立つ高熱のほうに気がとられがちだけど、本当にヤバいのそっちだよね。臓器もそうだけど、意識の混濁や脳症もあるし」


 メギル風邪は魔力暴走が原因で発熱する。

 それは高熱だけでなく、多方に炎症も起こすらしい。死から逃れても、着実に相手にダメージを与えてくる厭らしい病である。

 アンナは魔力がない。有ったとしても微々たるものだ。

 もしかしたらメギル風邪に罹っていたかもしれないが、微塵も体調不良がない。そもそも罹らないのかもしれない。

 それくらい、至って平気だった。ずっとアルベルティーナの看病をしていたが、変わりない。


(魔力もない、力もない……なんて無力だろうと思ったけれど、たまには役に立つのね)


 診察後に即行で発熱しバタバタ倒れたヴァニアやゼファールとは大違いである。

 大人の男二人が、高熱に虫の息となりひいひい言っていたのだから相当きついはずだ。

 そんな二人も薬を投与後はケロッとしていた――薬が無かったら、危なかっただろう。

 ましてや、体力もなく気力も落ち込んでいるアルベルティーナなど、薬が無ければひとたまりもなかったはずだ。




 それから数日後、アルベルティーナが治った頃、入れ替わるように貴族の間ではメギル風邪が猛威を振るい始めた。

 アルベルティーナが用意した解熱剤はあっという間に奪い合いになる。

 争奪戦に負けた貴族の中には、砂漠の聖女と呼ばれているレナリアに頼み込む者も出てきた。

 薬の製造はフル回転で行っているが、予想より拡大が早い。

 死病と疎まれたメギル風邪に罹った家族がいれば、外聞が悪いとひた隠していた貴族がいた。しかし、薬があるとなると騒ぎ立てて要求してくる。

 声高に主張し、少しでも多くの薬を速く回して欲しいと訴えるようになったのだ。

 だが、それを隠れ蓑に薬の解析のために入手したり、横流ししたりしようとする者も出てきた。

 アルベルティーナは特に秘匿するつもりはなかったが、得た知識を悪用した買占めや乱獲が起こる可能性があるので厳しく取り締まられることとなる。

 安定した薬の提供の足かせになるので当然だ。

 一部では認可されていない違法な劣化薬を高値で売りつける悪徳商法を行なおうとする者が現れた。

 王宮はメギル風邪への対応と共に、詐欺師たちの対応にも追われていた。

 ちなみに、その対応のド修羅場真っただ中でメギル風邪に罹ったジュリアスは怨嗟の声を上げながら、根性で三日と言う最短で治して復帰した。

 アルベルティーナは自分との違いに理不尽さすら覚えて不貞腐れていた。


「お見舞いや看病に行く時間すらなかったですわ!」


 そういって頬を膨らませていた。

 ジュリアスが罹患したと聞いたのは、彼が完治後だったのだ。

 最初に発病し、最後に完治した箱入りポンコツの空しい不満である。




読んでいただきありがとうございました! 更新に時間があいて申し訳ない……

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