面会拒否の理由
束の間の平穏ターン。ほんと僅かな。
当の二人は、ヴァユの応接室で憮然としていた。
ずっと長い間、お預けを食らっていて業を煮やしているのだ。
「なんでアルベルに会えないわけ? あれから一週間経ったよね?」
「キシュタリア様、申し訳ありません。こればかりはご了承ください」
「それでドクターストップかけたヴァニア卿も、クロイツ伯爵もいないけどどこ行ったの?」
アンナに当たっても仕方ないのだが、長年の付き合いの気安さもありぶすくれてクレームを入れてしまう。
社交界では絶対見せない子供っぽい仕草だが、同じように腐れ縁のミカエリスも似たり寄ったりの心境なので窘めずにいた。
「そんなにアルベルティーナは重症なのか?」
だが、この一点はどうしても気になるので聞いてしまう。
「いえ、快方に向かい大分熱も下がりました」
その言葉に、二人はほっとする。
だからこそ、会わせてもらえない理由が分からず首を傾げる。
二人の圧のある視線を受けて、アンナは少し目線を下げて答えた。
「姫殿下の御病気はメギル風邪です。どうやら、先の宴で誰かからうつされたようでして」
「は!?」
「え!?」
二人は座っていたソファから腰を浮かせて、茶器を鳴らしてしまう。
幸い割れたり落ちたりはしなかったが、少し紅茶は零れた。掛って汚れたかもしれないという心配より、アンナから齎された情報が重要である。
メギル風邪は王侯貴族を悉く殺すと言われた死病の一つ。
体力がなく、ただでさえ弱っていたアルベルティーナが快癒に向かっていることが驚きだ。奇跡と言っていいほど良い事なのだが、そんな病気に罹ったということがショックで仕方がない。
「幸いなことに前々より姫殿下が研究を推奨していた薬により、症状が軽く済みました。高熱ではなく微熱が続く程度です。メギル風邪は魔力持ち……強い魔力の持ち主ほど重症化しやすいので、完治するまでお二人のお見舞いを拒んでおられます」
アンナからの一言一言が、極大のハンマーで頭をぶん殴られる衝撃を持っている。
安堵すればいいのか慌てればいいのか感情が迷走するキシュタリアは、半泣きだ。
でも、はっきりと喜ばしいことがある。
「そ、そっか……良かった。無事なんだね。あの病気は死亡率が高いのに……薬が効いて本当に良かった」
その薬がなければ、間違いなく死んでいただろう。
アルベルティーナが前々から気にしており、何かと調べていたのは知っていた。王太女になってから、貧民街の開発に伴って住居や医療施設や学校なども建設していた。
魔力が起因するのではという話は以前聞いた。そして、医療施設で平民の中から治験者を集って、研究していた。ある意味最高の形で効果が出た。
(王太女のアルベルが使って治ったんだ。今後、貴族間でも多く使われるだろうな)
治療薬と言うより、症状の緩和薬と言ったほうがいい。魔力を魔素と言うより小さい形に散らし、高熱を防ぐ。
大抵の罹患者は高熱の間に、体力が尽きて死んでしまう。それを抑えてくれるのだ。一般的な解熱剤は効果がなく、ポーションすら一時しのぎか悪化の原因になるので打つ手なしと言われていた。
アルベルティーナはかなり強力な魔力の持ち主だし、女性の中でも体力が低い。そのアルベルティーナでも耐えられるほど熱を抑えられるのだから、相当有効な手立てだ。
「アンナ……その、もしやヴァニア卿やクロイツ伯爵をここ数日見ないのは……」
恐る恐るといった具合のミカエリスに、残酷なほどあっさり頷くアンナ。
「はい。恐らくですが診療で感染したようです。二人とも発熱して、周りにうつさないように引っ込んでいます」
アルベルティーナが二人を拒むはずだ。
主治医二人(共に高魔力持ち)の若い男性を轟沈させたのだ。これでは二人に会うのも怖かろう。
アンナは誇らしげに「私は魔力が低いので全く何もなく平気です」と胸を張っている。ずっとアルベルティーナのお世話をできて嬉しそうだ。
読んでいただきありがとうございます。
まだまだごりごりの原稿中です。頑張ります。
四巻は来年になりそうです。詳しい情報の許可が下りましたら、ご連絡させていただきます。