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マクシミリアンの沙汰

マクシミリアン家のおわり。

 


 宴から二日後、獄中にいたはずの王太女脅迫と墓漁りの犯人たちの脱獄が伝えられ、さらに翌日には死体が発見される。

 城下の水路で発見されたが、当初は損傷が激しく人相すら不明だった。しかし、そのうちの二つの遺体に犯罪者の焼き印が押されており、元貴族用でかなり最近のものであると判明した。そこから芋づる式に、その死体が行方不明の三人だと判明した。

 それはあっという間に貴族の界隈で噂となり、様々な憶測が生まれた。

 この事件の真相究明にゼファールは乗り出し、一部の貴族の間では派閥が割れるようなもめ事がいくつも起きた。

 当然ながら王都の人々の間で貴賤なく噂でもちきりになった。誰が殺したかとか、黒幕は誰かなど考察合戦が行われる。


「あの魔法使いは外国の人間だそうじゃないか。なんでも、他所の国の王族と内通しているらしい」


 ある者がそう言えば、否と別の者が訴える。


「ラティッチェ公爵家の分家の人間が関わっているらしいぞ。なんでも、当主に伝わる品を盗む目的でオーエンを唆したそうだ」


 その意見にも、重ねるようにまた別の声が飛ぶ。


「ですけれど、ラティッチェ公爵――ああ、若いご当主のキシュタリア様が付けていましたわ。なんでも金庫に大切に保管されていたそうよ」


 真実と嘘が混じり合い、好奇と憶測で噂は飛び交う。

 開かれる予定の裁判は被告人が死亡したこともあり、一層噂への執着が増していた。一部にとっては人生を決めるものであり、大部分にはとっておきの娯楽なのだ。

 急にその娯楽が無くなり、燻った好奇心の消化先として噂が噂を呼ぶ考察合戦が過熱していた。

 だが、誰もがゼファールが自白後に始末したなど言わない。


「クロイツ伯爵も人が良すぎる。あのような罪人のために多忙な中、犯人探しなど……」


「兄君のことを考えれば仕方があるまい。首は見つかったが、体はまだ見つかっていないそうだ」


「どうせ元老会の仕業ではないか? ここ数十年、貴族の不審死には彼らが関わっている」


 お茶会で、夜会で、歌劇や演劇の観覧席で噂は色を変え、形を変えて広がっていく。

 そしてその中には、悪意を含んだ噂も出始めた。


「やはり殺したのはラティッチェの若当主では? 恨む理由ならごまんとある」


「いや、フォルトゥナ公子という線も。度々侮辱して随分な噂を吹聴していたではありませんか」


「意外とドミトリアス伯爵と言う噂もありますよ。王太女に相当いれこんでいますし、普段が真面目な分、箍が外れると恐ろしそうですよ」


 嫉妬や不満――王配候補に一躍踊り出た三人には注目が集まっていた。

 こそこそと話す噂は大抵がネガティブなものだ。

 馬鹿馬鹿しいと笑いながらも、噂はそうでなくてはと面白がって口にする。だが、その中に明確な悪意があると知りつつも、新たな火種はどうなるだろうと楽しんでいた。

 






 宴から一週間たった、

 キシュタリアによる告発によりマクシミリアン侯爵家は取り潰され、本家であるラティッチェに領土等は併合されることになった。

 財政赤字を抱えるうえ、長年惰性で治めていた埃がたんまり詰まっているだろうマクシミリアン家。キシュタリアは「貰っても嬉しくない」とぼやいていた。

 ただでさえ、爵位継承で慌ただしいのに余計な仕事が増えた。ラティッチェ領を治めていた前任のグレイルが優秀な分、杜撰な運営をされていたマクシミリアン領の有様が浮き彫りになる。

 マクシミリアン家は当主のオーエンと長男のヴァンは死亡。加担していた魔法使いギリアンも死亡が確認されている。

 マクシミリアン家には、ヴァンの異母弟の次男もいるが貴族籍を剥奪のみで放免されている。オーエンやヴァンの不信な行動を怪訝に思いながらも、実質家族扱いではない彼は何もできなかった。

 フリングス公爵が捜索のために屋敷に踏み込んできた時も、ただただ当惑するだけで反抗する様子も、慌てる様子もなかった。服装もオーエンやヴァンのように着飾っておらず、使用人と言われて納得するほど質素であったそうだ。

 だがマクシミリアン夫人――オーエンの妻は別である。アルベルティーナから巻き上げた事業費の使い込みが発覚していたし、彼女の持ち物からラティッチェの霊廟にあるべき貴金属が押収されている。

 夫人はオーエンの羽振りが悪くなり、きな臭くなるとすぐに実家に戻っていったが、その甲斐むなしく捕まった。その後、貴族籍を剥奪されて事情聴取後、労働刑に処された。

 死刑にすべきという意見もあったが「プライドが高く豪奢に着飾ることや浪費好きな貴族には、死より労働のほうが屈辱的で苦痛だから」と聞かされ黙る。

 事実、毒杯や絞首刑などの死罪より、貴族籍の剥奪や労働を課せられることを拒む貴族は多い。

 王侯貴族の血が『青い血』と呼ばれるのは、日焼けしない白い肌から、血管が青い血の色が透き通って見えるからと言われている。

 そして、労働刑は当然ながら陽の光どころか風雨にすらさらされながら肉体労働をする。そうでなければ鉱山掘りなどで汗や土や埃に塗れながら働くので、真っ黒になる。過酷な生活に白い肌は失われ、垢や汚れが溜まりこんでいくのだ。

 だが、重罪人は焼き印が押され、二度と社会復帰できないようにされている。運よくその場所から逃げられても、まともな生活が送れる可能性はほぼゼロに等しい。

 マクシミリアン夫人は生まれも育ちも貴族だ。年齢的にも老いと衰えが徐々にやってくる。過労死か、逃げ出した先で早々に野垂れ死ぬかのどちらかだろう。

 主犯格は軒並み死亡で消化不良感のある幕引きとなったが、取りあえず決着はついた。

 貴族の界隈ではすでに別の話題がメインになり始めていた。

 新しきラティッチェ公爵のキシュタリアと、陞爵してドミトリアス辺境伯となったミカエリスだ。


読んでいただきありがとうございました。

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