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魔王の弟

ゼファールさんはなんだかんだでグレイルに内面も近い部分がある。

ちなみにグレイルは滅茶苦茶母親似。




 執務室で山積みになった書類を片付けるべく、席についたゼファール。

 毎日綺麗にしても、小一時間もすれば追加の山が流れてくる。バランサーなんて言われているが、実質面倒な執務を押し付けられているだけだ。

 だが、ただ使われてやるほどゼファールは能天気でもなければ、自己犠牲の精神も持っているわけではない。


(責任は伴うけれど、それだけの権利も貰うけどね)


 複数の役職を掛け持ちしている状態で、本来なら数人の決裁が必要なものをゼファール一人で済むようになっている。

 ゼファールに委任や代理を頼み、仕事を放棄している貴族たちは権力争いに夢中だ。

 本来の仕事を疎かにし自分の足場を固めている権力や役職が消えていくことに、気付いていないのだろう。


「ゼファール様」


 仮面をつけた部下、ヴァイスが現れた。

 過去の事件により、ヴァイスの顔は焼け爛れている。それを疎まれ、有能で忠実な騎士である彼は爪弾きにされていた。

 騎士の中でも花形色である王宮騎士に見栄えの需要は一定ある。貴婦人の中ではごつくむさい騎士では嫌だと、美麗な容姿をした騎士を求めることは少なくない。

 ヴァイスはかつてその花形を務める美男子であり、美醜へのやっかみがあった。ヴァイスが剣技にも長けていたのも癪に障ったのだろう。半ば嵌められる形で彼は大怪我を負った。顔にも損傷が残り、その容姿は人が恐れる部類となったのだ。

 彼は外見に左右されず職務に専念できると、今の状況を気に入っているのがせめてもの救いか。


(容姿か……きっとアルベルティーナは今後、ますますあの美貌で苦労をするだろう)


 過去のシスティーナやクリスティーナの過去から見ても、避けては通れない。彼女は人を狂わせる美貌を持っている。ヴァンなんて可愛いもの。まだまだ序の口だ。

 ヴァンのことを思い出したついでに、拷問にかけている連中を思い出した。


「どれくらい喋った?」


「大体は口を割ったかと。ですが、もともと切り捨てる予定だったのかオーエンからは目ぼしい情報はありません。ヴァンに至っては、墓荒らしの件すら知りませんでした」


「ヴァンは口が軽いし、酒癖も悪いからね。親も信用していなかったのだろう。魔法使いは?」


「ミル・ドンスの元王宮魔術師だと自供しました。予想通り、オフィール妃殿下の命で動いていたそうですが、首のすり替えについては知らないと言っています」


「弱小国であるミル・ドンスではホムンクルスの研究は無理だろう。金も施設も文献もない――王妃ごと裏で糸を引いているのがいるな」


 そして、完全に手の平で踊らされているとオフィールも気づいていない。

 オフィールは属国のミル・ドンス出身とはいえ、元は王女だ。かなり気位が高く、伯爵家如きとメザーリンを卑下している。

 男性に好まれる肉感的な肢体と美貌に魅了されるものは多く、祖国ではかなり求婚者や信奉者がいたそうだ。


(ああいうタイプは自信家だからな。自分が騙されるはずがない、利用する側であってされる側ではないと思っている)


 大方、頃合いを見計らってヴァンを蹴落としてレオルドの株を上げて、アルベルティーナに恩を売りながら接近するつもりだったのだろう。

 父親から顰蹙を買ったなら、父親で恩を売ればいい。

 アルベルティーナのグレイルへの依存は大きい。彼女が愚かであればあっさりと騙されて、犯人を厚遇していただろう。

 思考を巡らせていたゼファールに、ヴァイスが声をかける。


「やはり元老会ですか?」


「そうだろう。いくら王妃とはいえ国葬にまで手を出せない。加担している議員がいるはずだ」


 国葬を指示したのはラウゼスだが、すべて直接目を通しているわけではない。

 死者を安置しに行ったラティッチェの霊廟で墓漁りが行われているなんて、思いもよらないはずだ。

 

「殺してでも、二時間以内にすべて吐かせろ。原型が無くなってもいい。毒でも薬でもなんでも使え」


 ひらひらと手を振って、どうでもいいことのように指示を出す。

 ゼファールにとって有益な情報を持っている可能性は低いと分かっているあの囚人たちは、すでに優先順位の低い存在だ。

 これはあくまで、事前に手に入れていた情報や予想の答え合わせだけ。


「畏まりました。ジョ……ジョゼ…………ジョーにも伝えておきます」


 真面目なヴァイスは、癖の強い同僚を未だにジョゼフィーヌと呼べない。

 親から貰った男性的な名前を呼ぶと無視されたり、訂正でしつこく絡まれたりするので妥協案として愛称を呼んでいる。男性とも女性とも取れる短い呼び方だ。

 ヴァイスは新たな指示を受けて、夜の廊下へ消えていった。

 その足音も気配も遠く消えた後で、一人でポツリとゼファールは呟く。


「……汚れ役は大人が引き受けるべきだしね」


 余計なお世話かも知れないが、ゼファールの部下にはその道のプロがいる。

 優秀な部下は、ゼファールの命令通り二時間以内に情報を搾り取り、その命も搾り取った。



読んでいただきありがとうございましたー!

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