表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
282/331

疑問

もう十月ですね



 完全に扉が閉まったのを確認し、ラウゼスの前に歩み出た人物がいた。膝をついて頭を垂れて改めて一礼をしたジュリアスは、静かに口を開く。


「ラウゼス陛下、恐縮ながら質問があります」


「申してみよ」


「アルマンダイン公爵と、フリングス公爵も家や派閥から王配候補選出していたはずです。我々を王配候補として推していただいたのは感謝しておりますが、お二方をどのようにして説得なさったのですか?」


 尤もな質問だ。アルベルティーナが実質の王権を握るのは難しい。本人の気質も柔弱すぎるし、体力的にも無理だ。

 アルベルティーナに求められるのは後継者を産むことなのは、暗黙の了解である。

 だから、その分王配には大きな権力が与えられる。それを望む人間は多くいるはずだし、あの二人も貴族であり家の勢力を伸ばすためにも欲しがるはずだ。


「次代の伴侶を必ず二人の家から出すということで決着した。なにせアルベルティーナが異性に対して非常に気難しいからな」


「よく納得なさいましたね」


「アルベルティーナが気を許すのに何年かかるか分からぬ。元老会がアルベルティーナを篭絡しようと、ヴァユへ選りすぐりの美男を使用人や騎士に紛れ込ませていたが相手にされない上、近づこうものならナメクジ扱いしていた報告があるほどだ。拒否している相手を無理に宛がえば魔法の暴発で王配を死傷させるリスクもある。強引に閨を共にさせるなど論外だろう――それなら、今代はラティッチェとフォルトゥナに譲り、次代で巻き返す予定なのだろう」


 今代は血筋も配偶者もラティッチェとフォルトゥナにかなり寄っている。

 アルベルティーナだって名家であるこのフリングスとアルマンダインが協力してくれたのは恩義に感じるはずだ。未来の国母を懐柔しつつ、幼い頃から王子や王女と良好な関係を築ける。

 一方、元老会は実に無駄な努力である。いくら選りすぐってもアルベルティーナの美形判定の基準は恐ろしくシビアだ。

 本人も顔面凶器のような美貌をしているし、両親家族もハイレベル。それプラスで人見知りは激しく、異性に関しては特に酷い。

 二人の公爵は正確に状況を吟味し、様々なリスクを考え、今は恩を売って次に好条件をもぎ取るという密約を締結したのだ。

 勝手にそんなことをと考えるが、今回は四大公爵家のラティッチェとフォルトゥナから出ているのだ。次はアルマンダインとフリングスとなるのは公平である。

 あの二家が王妃側や元老会側に回られるよりはずっといい。


「アルベルティーナもそうだが、お前たちが近づくのを許さぬだろう」


 全く持ってその通りだ。にこりと笑みだけは好青年で、しっかり肯定する。


「申し訳ありません。そちらに関しては非常に狭量ですので」


 キシュタリア、ミカエリス、ジュリアスの協定は三人が長年苦楽を共にした仲間であり、身分を超えた友情もあるからこそ結ばれた。

 一人の女性を愛するライバルであり、彼女の幸福を願う同志であると理解していた。

 その裏で、グレイルのパワハラ的なまでの地獄の特訓メイトという恐怖の歴史もある。

 アルベルティーナの悲しい決意や哀願もあるが、王太女であるアルベルティーナの夫が一人だけというのは政治的な状況が許さないとすぐさま理解した。ならば余計な外野が入ってこないように、三人で席を奪った方が得策だと切り替えたのだ。


「陛下にご配慮を賜り感謝を申し上げます。しかし、先ほどの反応からして王妃と元老会の反発は必至です」


 ジュリアスに倣い、ミカエリスも隣で膝を付いた。心配を滲ませると、ラウゼスは首を振った。


「それは王として私が黙らせる」


 ラウゼスには何か切り札があるようだ。

 しかし、王妃達は長年の宿願をそう簡単に手放すとは思えない。元老会はハゲタカやハイエナのように権力に浅ましい。貪り甲斐のあるアルベルティーナを放置などしないだろう。

 だが、現段階では話す気はないようだ。

 そんなラウゼスの様子を、ヴァニアとガンダルフが静観していた。

 特にヴァニアは気が気でない。その切り札についてよく知っていたし――何なら、自分がきっかけなので内心は複雑だった。政治には興味ないし、忖度しないが知ってしまった秘密が余りにも大きい。

 ヴァニアは昔から周りの空気を読まず、好き勝手に暴走しながら研究してばかりだった。実力があったから、運良く王宮魔術師になれた。

 それを羨ましがられ、疎まれもした。

 王侯貴族は特に後者が多かった。そんなヴァニアを嫌がらずに支援してくれているアルベルティーナのことは気に入っている。

 だから、何事もなければいいと願っていた。


(このまま王妃たちも元老会も大人しく引きさがって、あのお姫様は愛する王子様たちに囲まれて幸せに暮らしました――でいいじゃないか)


 ただ、その王子たちが物凄く腹黒く粘着気質そうなのは見て見ぬふりをした。

 特にいつの間にか隣に来て、やたらニコニコとしつつうすら寒い空気を出している若きラティッチェ公爵から必死に目を逸らすヴァニアだった。



読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ