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白日に

二人の公爵は「四大公爵家舐めるな、ゴルァ」と参戦。

アルベルのお守りのためにフォルトゥナ側は外されました。



「でも、可笑しなこともあるものだ。聖水晶の棺に入っていると聞いたはずだったのに、何故か粗末な木製の棺桶だった」


 アルマンダイン公爵の太く芯のある声は良く響きます。

 朗々と響く声は、重厚であり説得力と人を従わせる魅力がありました。


「それは奇妙だねぇ。色々あったから、そんな在り来たりな物に入れるわけないのに」


 フリングス公爵の相槌が空々しい。

 軽快でひょうきんだけれど、どこか突き刺すような鋭さを内包した声。


「そうですよ。間違いなく聖水晶の棺を用意し、入れました。葬儀の時に見たでしょう?」


 そうだそうだと四大公爵当主たちの寸劇は続きます。誰もが、その会話に釘付けです。

 彼らに囲われるようにして、オーエンは真っ青を通り越して土気色の顔で震えています。汗でまだらになった顔は、恐怖と狼狽に染まり切り、関与を証明していました。

 何かあると言っているようなものです。


「まあ、そもそも中身はグレイルではなかったな。奴は薬も煙草もせん。別人だ。なら奴はどこへ行ったのやら。副葬品もごっそりなかったぞ。

 中身を知った墓守連中は国葬だからと、案内だけで棺に触れさせても貰えなかったと悔やんでいた」


 嘆かわしいと言いたげなアルマンダイン公爵に、フリングス公爵が取り出したものを見せる。


「それなら、面白いものを見つけたよ。ほら、これ。魔王殿の愛用の懐中時計」


「おや……それは確かに、亡きクリスティーナ様からの贈り物によく似ています。中に王太女殿下やクリスティーナ様の肖像画があれば間違いなく、本物でしょう」

 

 キシュタリアの言葉に、開けて確認すべきだという流れになる。

 まるで世間話をするように、三人の公爵たちは続ける。

 足元で汗まみれで縮こまるオーエンに気付いているはずなのに、三人は不気味なほど朗らかに物騒で深読みしたくなる会話を続けています。

 フリングス公爵がパチンと音を立てて懐中時計の内蓋を開きます。

 三公爵たちは互いに中身を見ていますが何も言いません。それを確認しに行ったのは、ラウゼス陛下でした。


「……これは、アルベルティーナが生まれたばかりの頃だな。クリスは幸せそうだ」


 遣る瀬無い感情を溢れていました。涙を流さないように、目元にギュッと力を入れたラウゼス陛下。懐中時計を受け取りながら、じっくり見ています。

 わたくしには見えませんが、恐らくクリスお母様がわたくしを抱いている肖像画でも入っていたのでしょう。


「これは私も見覚えがある。間違いなくグレイルの持ち物だな……フリングス公爵、これをどこで?」


「質屋です。マクシミリアン侯爵夫人……今は離婚調停中なので元夫人になるかもしれませんがね? まあ、彼女が実家近くの店に売ったそうです。時計は見ていても、内蓋の仕掛けに気付いていなかったようですね。こんな超高級な一点もの、そうそうお目に掛かれないので、見つけやすかったですよ」


「私の記憶違いでなければ、グレイルの棺にあったはずだが」


 ラウゼス陛下が唸るように呟きが響きます。いつの間にか静まり返った会場では、嫌に大きく聞こえました。

 わたくしはお父様の国葬の際、昏倒したままでしたので実物を見ていません。

 ですが。ラウゼス陛下と同じく、見た方もいるようで同意の声がちらほら上がります。


「ええ、これは入れたものです。義父はいくつか持っていたので、その中でも特に気に入っていたものを副葬品にしました」


 キシュタリアは頷きます。それを合図にフリングス公爵は手荷物を開く。

 そこにはたくさんの剣や装飾品や宝石などがあった。わたくしも見覚えあるものがいくつもある。


「こちらの品は全てマクシミリアン侯爵家で押収したものです」


 オーエンに軽蔑の視線が突き刺さる。

 誰もかれもが、墓荒らしという最悪の禁忌を犯した男を睨んでいた。

 こんなにたくさんの物を盗ったのだ。だからこそ、管理も疎かで懐中時計の紛失にも気づいていなかったのでしょう。


「そして、これが――グレイルです。私とフリングス公爵で確認しました。間違いありません」


 追撃のようにアルマンダイン公爵も布を取り払い、手に持った液体に満たされた大きな瓶を見せる。

 そこには首があった。絶世の美を模った美しい男。液体に髪を僅かに揺らめかせている。閉じられて瞳の色は分からないが、傍らに立つ若き公爵と同じ色であることは誰もが知っていた。

 血の繋がらない親子でもそのよく整った造作は共通しており、髪色と瞳の色はよく似ていると評判だった。

 わたくしは目を見開く。ぼろりと目から涙が溢れたのが分かった。

 止められない。どうしようもない絶望が、ようやく引いたと思った痛みがまた心に空虚な穴を空ける。


「アルベル……」


 わたくしを抱き寄せるミカエリス。広い胸板や温かさは生きていた頃のお父様を思い出すけれど、やはり違う。

 瞬きをするたびに大きな粒が流れ出す。

 周囲は動揺と恐怖で満ち溢れていた。葬儀を行ったはずのお父様の首の出現に、誰もかれもがパニックになりかけています。

 真相を知っている一部を除いては、訳が分からないことでしょう。

 分かっていても、衝撃のあまりに脳が理解を拒否しているのかもしれません。


「ごめんなさい。大丈夫です。わたくしは見届けなければなりません」


 身じろぎをし、ミカエリスの体を押し返します。少し体は放すけれど、支えるように回された腕までは突き放せない。

 ジュリアスが真っ白なハンカチを渡してくれます。きちんとアイロンのかかった、でも柔らかい布地。有難く受け取り、目元と頬にそっと触れさせます。

 壇上より少し下がったところで、まだ糾弾は続いている。


読んでいただきありがとうございました。

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