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国王の決断

陛下、やる時はやります


 視線を戻す。そこには今回の戦いの功労者たちがいます。

 今回の紛争は、全面戦争レベルではないものの、かなりギリギリだったと聞きます。互いの国の兵が争っているのですから、わたくしからすれば十分戦争な気がしますが……。

 まだどちらも宣戦布告や宣言をしていない以上は戦争になっていないそうです。

 国が戦争と銘打ってしまえば、互いの領土を奪い合う侵略が始まる。今回の諍いのレベルではなくなる――と言っても、前世から戦争を体験したことのないわたくしでは想像しかできないこと。

 でも、血は流れている。命も失われている。

 だからこそラウゼス陛下は功労者たちを称える場所を設け、褒賞や勲章といったもので報いて鼓舞しているのだろう。次がいつあるか分からないのです。

 ダレン宰相が真紅の絹張の台座に並ぶ勲章を持ってくる。

 デザインが色々あり、大きなものから小さなものまで様々だ。小さなものはバッジやボタンにリボンが付いた程度。大きなものは、握りこぶしくらいのブローチくらいある。

 あら、ゼファール叔父様もいらっしゃいますわ。

 ……みんなあの方とお父様は似ているとおっしゃるけど、そんなに似ているかしら? 造作はまあまあ似ていますけど、あちらは金髪で瞳も淡いブルーですが紫がかっていますわ。

あと、ちょっとぽやーんとしています。ぽやーんです。末っ子と言われて納得でした。

 アルマンダイン公爵家と、フリングス公爵家のご子息も叙勲を受けておりますわね。

 四大公爵家の内、フォルトゥナ公爵家だけいないような? 基準は結構幅広い感じなのに、とちらりと隣の熊さんを見てしまいます。


「フォルトゥナ公爵にも話は出ていたが、当人から辞退の申し出があったのだ。勲章より大事な用事があるとのことでな」


 潜めた声で教えてくれたのは、レオルド殿下でした。

 用事とは、と一瞬思ったけれどフォルトゥナ公爵から無言の圧力が。主にその先はレオルド殿下でしたが、言われたくない気配を察知です。


「孫より大事なものがあるとおっしゃいますかな?」


 フォルトゥナ公爵のばっさりとした言葉に、レオルド殿下は小さく肩を竦めます。

 知っていますのよ、わたくし。孫は他にも男孫がいらっしゃいますわよね?

 ですが今言うタイミングではないのでお口にチャック。

 まだお会いしたことのない従兄殿はどんな方なのかしら。出来れば髭伯父様よりトリシャおばちゃまに似たふんわりした方だと嬉しいです。

 わたくしたちがこそこそと会話をしている間も、ずっと拍手は続いています。

 ジュリアスが先に小さな勲章を貰い、その後しばらく別の方々が授与され、ミカエリスの番が来ます。

 ひときわ大きく煌びやかな勲章は黄金の十字架の真ん中に六角形のサンディスライトがはめ込まれ、周囲に小ぶりなダイヤがぐるりと囲っています。そして、十字架にも無色のダイヤが真紅のルビーを囲うようにライン上に三本並び、その十字架に後光が差すように金細工が施されて非常に豪奢な作りとなっております。

 ミカエリスの勲章は彼の黒いシックな礼服に燦然と輝いています。

 ラウゼス陛下から二三お言葉を頂いて、それに対し儀式的な礼を返すミカエリス。

 どこか他人事のように、別世界のように見えてしまう。彼は本当に、わたくしの知っているミカエリスなのでしょうか。

 このまま、授与式は終わるかと思った。

 その後、ミカエリスは下がるかと思いきや、顔を上げた後にラウゼス陛下に並ぶ。

 一瞬、ミカエリスとラウゼス陛下が目配せをする。


「皆に伝えることがある。余の娘、第一王女にして王太女アルベルティーナの王配が決まった。

第一王配は此度の功労者、ミカエリス・フォン・ドミトリアス伯爵。第二王配にキシュタリア・フォン・ラティッチェ公爵、第三王配にジュリアス・フォン・フォルトゥナ公爵子息だ。これはアルベルティーナも承認し、王色石の譲渡も済ませておる」


 ラウゼス陛下のそのお言葉に祝賀ムード一色だったが一気にどよめき、熱気、困惑、緊迫に塗り替わります。

 特に元老会のファウストラ議長の目のひん剥き方はすごいです。そのまま昇天しそうなほどびっくりしています。

 相変らず豪奢な装飾品やお召し物ですが、纏っている人間は骨と皮のミイラのよう。そして目だけはギラッギラで怖いです。


「陛下! 我々は聞いておりませんぞ! そのような独断行為など……!」


「独断も何も、王位継承権はそもそも国王にあるものだろう。だが、国王の決定が余りに荒唐無稽だった場合に元老会が異議を申し立てる。本来の仕組みはそういうものだ」


 本来は――つまり、ここ数代では元老会が圧力をかけ、王位継承権を自分たちで操っていたということでしょう。

 歯噛みしそうなファウストラ議長はこちらを振り向くと、縋るように近づこうとしてきました。


読んでいただきありがとうございました

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