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変わらない我儘王女

久々のエルメディア殿下。彼女は変わっていません。

性根も趣味もそのたもろもろも。


 わんわんと声を上げて涙を流すエルメディア殿下。くしゃくしゃに顔を歪め、盛大に泣く姿は小さな女の子のようです。

 その涙はアイライナーも一緒に流れているのか、グロテスクなほど真っ黒です。

 丹念に白粉を叩いて真っ白な顔に真っ赤な丸いチークを施した頬。その頬を横断するように真っ黒なラインができます。

 だんだんと足を踏み鳴らし、地団太の見本のような地団太を踏む。

 これが幼い子供ならまだよかったのですが、エルメディア殿下はもう十代半ばに差し掛かるレディです。お肉たっぷりなので、貫禄もどすこい級なのです。

 可愛く見えるかはその人の物差しにもよるのですが、わたくしは苦笑すら漏れません。

 御父上であるラウゼス陛下ですら、親の欲目や色眼鏡が吹っ飛ぶようでした。


「メザーリンよ。エルメディアに教育をし直すと言っておったな? なんなのだ、この様は。これでは嫁ぎ先を探すどころか、王族として王宮に置くことすらできなくなるぞ。

 ……いつかは変わると思い、ずっと見逃していたがもう我慢ならぬ。この沙汰については、お前も責任を取るように」


 苦渋がありありと滲む声で、教育の責任者もとい生産元を突き放しました。


「そんな! あんまりですわ! 陛下! 実の娘に対する情はないのですか!?」


 ラウゼス陛下の最終通告に、メザーリン妃殿下が追い縋ります。

 エルメディア殿下は陛下の厳しい対応に、ポカンとしました。しかしその後に「ぶわああああん」と号泣。もっと顔をしわくちゃにして泣き始めました。

 我儘が通らないと分かったから、一層その声は大きい。メザーリン妃殿下へ叱責が飛び火したことについては、気になさっていないのですね……。

 わたくしはラウゼス陛下は今まで親子の情があったから、こんな我儘なミートプリンセスを許容していたのだと思うのです。いつか、正しい方向を向いてくれるはずだと期待しては裏切られ、もう陛下も手遅れだと感じ始めているのでしょう。

 扇を広げて顔を隠してはいましたが、オフィール殿下は楽し気でした。人の不幸はそんなに美味しいですか。わたくしはちょっとお腹いっぱいです。


「アルベルティーナ、辛くはないか? 気持ちいいものではなかっただろうに」


 ラウゼス陛下は母娘を見やりながら、わたくしを労わります。


「大丈夫です。その、エルメディア殿下も突如わたくしが王族に加わったことに色々と思うことがあったのでしょう」


「騒がせてすまぬな。エルメディア。泣き止まぬようなら、部屋に戻り反省していなさい」


「いやぁー! チョコレートケーキ食べるのぉおお!」


 エルメディア殿下の絶叫。会場まで響いてないと良いのですが……。

 あの、これは国のためにと戦ってくれた者たちへの慰労の宴のはずなのですが?

 エルメディア殿下のこの返答には流石のラウゼス陛下も苦虫を噛み潰した顔をしています。彼女にとって重要なのは、父王の諫言よりチョコレートケーキ……。この催しにいらした目的は、御馳走なのですね。

 隣では怒気を超えて殺気をまき散らしているフォルトゥナ公爵。ええと、あのお方は王女殿下ですの。その、性格には色々難アリですし、素行もかなりおヤバい感じですが……。

 それを止めるどころか、同調して目に怒りをため込んでいる護衛たち。

 一番貶されているのはわたくしなのですが、わたくし本人より周囲の怒りが凄まじくそっちの方が気になります。

 うーん、どうしましょう。

 熊公爵のもっしゃもしゃの髭まで怒りで広がっています。隻眼が眼光だけで人を殺せそうな雰囲気に。

 この人、頑固爺かと思いきやわたくしにメロメロな孫馬鹿らしいです。ジュリアス曰くメロメロのデロデロらしいですが。

 少なくともこの人の中の優先序列ではエルメディア殿下より、わたくしのようですわ。

 うーむ。

 ダメ元な二番煎じになりますが……。


「お祖父様、落ち着きになって?」


 くい、と袖口を摘まんで小さく腕を引っ張ってみました。


「しかしだな、いくら王女とてあの態度……は……!?」


 腕を組んでむっすりとお怒り状態のフォルトゥナ公爵が、言葉を半端に途切れさせます。グリンと凄まじい勢いでこちらを見ましたが、わたくしはさっと手を離してプイッと余所見をします。

 わたくし何も言っておりませんわ。空耳ですわ。知りません。聞こえません。

 何か言いたげにうねうね上半身を動かして、こちらを窺っているフォルトゥナ公爵。

 アンナはそんな熊公爵に、既視感を抱いていたそうですがわたくしは知らないことです。ベラは必死に笑いを堪えて、顔はしっかり澄まし顔をしつつプルプル震えていました。腹の内では爆笑で転げまわっていたそうです。


読んでいただきありがとうございました

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