不穏な雲行き
メッチャ暑くなってちょっと変な感じですね。また梅雨の時に一気に気温が下がりそう……。
取りあえず、日焼けと熱中症には注意します。毎年首や腕をだしっぱにして焼いてしまい、痒くなるというのをやってます。日焼け止めを良く塗り忘れます。
日焼けで痒くなるって、火傷一歩手前なんですよね……。
その後、隠し通路を通って今日の宴は終盤だろう会場へ向かう。
既に人はまばらであった。帰り支度をしている人も多く、窓の外で遠くに馬車が列をなして王宮を出ていくのが見える。
ジブリールを探そうと会場を見渡すと、殺気とも怖気を同時に感じ取り振り向いた。
そこには虚ろな顔をしてげっそりとした様子を隠そうともしないジュリアスと、輝く太陽のような笑顔――ただし、春の日差しではなく干ばつを連想させる炎天下のような――を浮かべたジブリールがいた。
どうやら、ミカエリスがいない間に尋問でもしていたようだ。
普段太々しいほどの精神構造をしているジュリアスの、消沈した様子からして相当絞ったのだ折る。
「まあ、お帰りなさいませ。何処へいらしていたのかしら? 探しましたのよ、お兄様――こいつからはある程度情報を毟り取りましたが、正確さを求めるなら一つの情報だけに頼るのはいけないと思いますの」
意訳:こいつはゲロったからテメーも吐け。
赤い悪魔が降臨していた。
ジブリールの笑顔が非常に危険だった。
実兄として長年付き合いのあるミカエリスですら、今までで指折りに危険な雰囲気を察知していた。本能が警鐘を鳴らす。
今のジブリールを唯一止められそうなレディは、すでに寝台に入って夢の中だろう。
だらだらと冷や汗が背中を伝うのを感じながら、じりじりと後退するミカエリス。それを容赦なくツカツカとピンヒールを軽快に鳴らして狭めてくるジブリール。
「さぁ、兄妹なんだもの……水入らずのお話しをしましょう?」
ミカエリスは逃げられない。
王宮で催される慰労の宴は連日に亘る。
ゴユランからのちまちまねちねちとしつこい襲撃で、社交界に出られなかった貴族たちのフォローでもある。
多くの貴族が集まる社交場。同時に、それは様々な勢力がぶつかり合うということであった。
陰湿に、絢爛に、凄絶に、華麗に。
贅と粋を凝らした衣装を鎧代わりに纏い、優美に微笑みながら互いの腹を探り合う。
ジュリアスは日中にアルベルティーナの手伝いをしながらも、宴に皆勤であった。
戦の慰労という名目で集まっているが、実質は次期に来る王配候補とその後ろ盾である勢力が火花を散らし合う場になっていた。
だが、ここで火花を散らし合っているのは小物ばかりである。
有力候補であればあるほど、その周辺は静かである。地盤が固まっているので、下手にぶつかり合う必要はないのだ。
フォルトゥナ公爵家を後ろ盾にしたジュリアスもその有力候補の筆頭であるが、やはり根強く第一候補に挙がっているのはミカエリスである。戦果を挙げ、陞爵を控えた彼はいま最も勢いに乗っていると言える。
キシュタリアも候補に挙がっているが、義弟という近すぎる立場や後継者争いが決着していないことがネックになっている。
そして、ここ最近急激に勢力を増してきた者がいる。
コンラッド・ダナティア伯爵。
日に日に彼の勢力は増していると言っていい。
コンラッドの支援者は分かりやすい。皆、サンディスライトの装飾品を身に付けているのだ。
国を象徴する宝石を身に付けるというのは、サンディス貴族にとっては一種の箔である。
サンディス王国のみで産出される魔法石は、非常に高価である。小さいアクセサリーでも、値が張る。それを支援者に広く配るということは、それだけの財源があるということであった。
同時に、彼は自分が王家の血筋に近いことに強い矜持を持っていると察せられた。
コンラッドは連日大きな宝石で着飾り、必ず大なり小なりサンディスライトを使用していた。
自分こそ、王家の血筋に相応しいと主張している。
そして、それを後押しするように元老会が何人もその派閥に肩入れしていた。
(ラウゼス陛下は、こうなることを見越していたのか?)
足並みがばらついていたが、ここ数日で一気に纏まっている。
コンラッドはそれだけのカリスマがあるのだろう。
ジュリアスはてっきり、元老会は各自の家からの候補者を擁立すると踏んでいたのだ。元老会は熱狂的な緑目信者だが、傀儡政治のための駒だからと言う注釈が付く。
コンラッドはどう見ても薄弱とした精神に見えないし、貴族らしくプライドが高そうである。傀儡には向かないように見える。そうでなければ共犯者と言うのが妥当だろう。
だが、あの老害集団が二十代そこそこの若造と対等に接するとは思えない。
どんな取引材料を使ったか気になるが、すべては憶測でしかなかった。
彼の出現はあまりに唐突で、ジュリアスの情報網をもってしても上辺の情報しか洗い出せていないのだ。
コンラッドは元老会の大好物である緑目でもないし、血筋は近くともそこまで気に入る理由が分からなかった。
ワイングラスに口を付けながら、ちらりと見る。
たくさんの支援者に囲まれて鷹揚な笑みで会話をするコンラッド――の後ろにいるヴェールの少女。今日も真っ白なドレスで大変目立つ。
挨拶で時折言葉に詰まったり、時折カーテシーがぎこちなくなったりする。貴族の社交に慣れていないのだろう。
元は平民だというのなら納得する。つけ焼き刃にしては良い出来だし、訛りが少ないだけ上等だろう。
最初こそ不審がられていたが、ここ数日で沙漠の聖女とやらは急激に受け入れられた。
それこそ、不気味なほどに。
読んでいただきありがとうございました。