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母娘、揃って

いらねーと思っています。祖母・母・娘と揃ってティーナに需要がないダナティア大公と伯爵。



(『愛の妙薬』……二人の王子や宰相子息に盛られたというのに、表に情報が出回らない。緘口令が敷かれているというより、有耶無耶にしたくて表ざたにしたくない誰かが操作しているのか?)


 そのきな臭い成り行きには、元老会が見え隠れしている。

 グレイルが亡くなってから、その動きは活発化した。今までグレイルを恐れて隠密な行動や、小細工をすることが多かった。しかし今は隠す気が無くなったので、ミカエリスの眼にもその傍若無人な振る舞いが分かるようになったのだ。

 宴の時だって、国王たちが来た後に王族をほっぽってダナティア伯爵の金魚の糞をしていた。


(そして元老会に最も狙われているのがアルベルだ。あのレイヴンの警戒具合からして、裏ルートを探しているのだろうな)


 だが、その道筋を見つけてもレイヴンが持ち帰らせぬように始末している。

 表はガンダルフ、裏はレイヴンがそれぞれの道を守備している。


(ダナティア伯爵は王家の血筋を引いているという触れ込みだし、父親が王家の瞳持ちと言うのは元老会としては魅力的なのだろう。てっきり、直系かその分家筋から候補者を見繕ってくるかと思ったが……)


 ダナティア伯爵と元老会トップのファウストラ公爵は随分親しげだった。

 王配候補にミューラー侯爵子息を推すのではという噂があったが、彼はまだ十四歳。二十代半ばらしいダナティア伯爵と比べれば年齢差は彼の方が小さいが、年下と言うのがネックになったのかもしれない。

 稚さの残る少年に初心な愛を囁かせるより、成熟した大人の美を持つ青年に愛を乞わせた方が年頃の少女を誑かすに適していると判断したともいえる。

 だが、ミカエリスの中では毛虫の群れを見つけたように顔を引きつらせるアルベルティーナしか想像できなかった。ダナティア伯爵がどんな素晴らしい睦言を囁いても、所詮は毛虫。アルベルティーナは靡かないだろう。


「どうしましたの、ミカエリス?」


 心配そうなアルベルティーナの声に、思考が引き戻された。

 ミカエリスは笑みを取り繕い、そっと彼女の髪に触れる。


「いえ、少し考え事を」


 折角アルベルティーナの傍にいるのに、余計な思考に嵌まり込んでいた。勿体ないことである。


「他に何か気になることでも?」


「気になることと言いますか……まあそうですね」


 どうせ遅かれ早かれ、アルベルティーナも顔を合わせることとなるだろう。

 ファウストラ公爵は元老会議長。彼の肝いりの王配候補者となれば、強引にでも顔を繋がせようとするのは十分あり得た。


「今回の宴で、クリスティーナ様と少々遺恨のある方のご子息がいまして」


「お母様と?」


 少し意外だったのか、アルベルティーナは首を傾げる。

 魔王と恐れられるグレイルと遺恨のある人間は腐るほどいるが、早世したこともあり実母クリスティーナの人間関係は不明瞭だった。彼女は結婚してからグレイルの意向もあり、社交をあまりしなかったし。そのうえ、共にいたのは五歳の頃まで。しかし、その記憶も誘拐事件で曖昧となり、知識は乏しかった。

 クリスティーナの兄であるクリフトフや、その妻にしてクリスティーナと交友関係のあるパトリシアから多少は聞いたことはあったもののそれも少ないものである。


「クリスお母様は何かトラブルを抱えていらしたの?」


「もう終わったことだが、ラティッチェ公爵と結婚するまでダナティア大公――ええと、伯爵の父親に随分絡まれていたそうだ。元婚約者で、ラティッチェ公爵に負けて諦めたそうだ」


「ダナティア伯爵のお父様は大公でいらっしゃるの? 大公家は若い後継者がいないと聞いたのだけれど」


「ダナティア大公は王弟殿下であらせられる。王家の瞳の持ち主であり、大公家を興したのだがラティッチェ公爵と幾度と決闘で負けて、その時に何度も不正をしたのを見咎められて大幅に爵位を下げられているんだ」


「……大公から伯爵まで? え? 王弟殿下でいらっしゃるとなるとクリスお母様とは伯父姪ですわよね?」


 情報量の多さにアルベルティーナが困惑している。

 かなり近い血筋だが、元老会マジック(別名癒着と圧力)でグレーゾーンに認定されたと説明するとちょっと引いていた。彼らは緑目大好き狂信者なのだ。そして権力と金も大好きなのである。

 だが、ミカエリスが頷くとちょっと複雑なものを感じながらもアルベルティーナは納得したようだ。


「ダナティア伯爵は王配候補に名乗りを上げるそうなのですよ」


 宣戦布告や明言はしていなかったが、そうでなければあれだけ精力的に動き回り、権力者たちとの友好をアピールしないだろう。

 あの場はあくまで戦場へ行った者達への慰労の催しだったのに、関係ないはずのコンラッドは目立っていた。


「家格を下げることとなった原因の娘の夫に?」


「国婿となれば王家になりますから、寧ろ家格は上がりますよ」


 アルベルティーナが余りに不思議そうに言うものだから、思わず間を入れずに言い返してしまった。

 王家と直接的な縁ができるというのは、たいへん名誉な事である。

 ミカエリスはアルベルティーナという愛する女性の夫ということに最も魅力を感じているが、大半は権力に紐づいている動機だろう。


「それはとても迷惑ね」


 眉をハの字に下げて、心底困ったように言うアルベルティーナ。

 恋愛にも結婚にも興味の薄い彼女にしてみれば、王配の立場を狙う輩は三人を除いて邪魔者でしかない。

 近寄られたくないし、触られたくもないし、喋りたくもないのだ。


読んでいただきありがとうございました!



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