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杞憂

お待たせしました。


「わたくしはマクシミリアン侯爵に従っていた。今回も従うと思っているでしょう。わたくし、反撃するわ。あの男から陛下や貴族たちの前で言質を取り、罪を詳らかにすればあの男の全てを差し押さえられる」


 アルベルティーナは明確にマクシミリアン親子に敵意を口にしている。恐らく、彼女の縛られている契約はグレイルのことに関して強く定められているのだろう。

 契約の魔法は矛盾なく明確であってこそ強力な威力を発揮する。その性質から、極めてシンプルにするか非常に細かく定めるかに偏りやすい。中途半端な余地が一番命取りになる。今回の契約は前者なのだろう。後者は契約者もだが、締結するスクロールを作る術者も非常に頭を使うし繊細な配慮が求められる。

 勿論、スクロールに強い魔法使いもいるが専門の人間に頼むと莫大な費用が掛かる。

 実情が火の車のマクシミリアン侯爵家で賄うのは難しいだろう。きっと、そのお金もアルベルティーナに集るつもりだったのだ。


(アルベルティーナは気弱な女性だろうから泣き寝入りすると踏んだようだが、完全に寝た子を起こしたな)


 よりによって、魔王の子を。

 マクシミリアン侯爵親子は最初こそ横暴に振舞っていたが、行いが過ぎた。そのせいで二進も三進もいかない状態だ。周囲から睨まれ疎まれ、すでに詰みまくっている。

 言質以前に、アルベルティーナに接見禁止を言い渡されている。

 貴族の基本マナーとして、目上の人間に不作法な声掛けはご法度だ。謹慎処分の人間であればなおさらだ。勝手に近づいて、声をかけただけで投獄コースである。

 ヴァンが釈放されないことからして、マクシミリアン侯爵家の影響が及ぶ人間は少ない。

 マクシミリアン侯爵家がいくら歴史ある高位貴族とはいえ、今度こそ家のお取り潰しが現実味を帯びてくる。


「会場の検問を強化して、捕まえるのではいけないですか?」


 案は悪くはない。だが、アルベルティーナにあれを近づけたくない。

 過保護だと言われようが、過去のあれらの言動を考えればミカエリスの仕方がないだろう。


「これはわたくしの我儘よ。わたくしが引導を渡したい。陛下がわたくしの婚約者候補を発表する場所で、もっと絶望させてやりたいの」


 緑の瞳に苛烈な光が宿る。そういう表情をすると、グレイルに少し似ている気がした。


「でも、検問は強化して。マジックバッグを持っていたら必ず没収して。魔法使いを連れていたら、そちらも不審なものは紙一枚持ち込ませないで」


 その言葉にミカエリスは思い出す。確か、マクシミリアン侯爵の愛顧している魔法使いは異国出身らしい。

 恐らくスクロールは紙製なのだろう。これは少し厄介だった。折りたためば隠しやすい。盛装には飾りが多いから、隠しやすいのだ。それに、貴族が多いので無暗に衣装の中に手を突っ込めない。


「警備の者にそれとなく進言しましょう。今回はアルマンダイン公爵が主導として担当していたはず」


 だが、今日の宴のアルマンダイン公爵は見なかった。フリングス公爵もいなかった。喪中のラティッチェ公爵家は分かるが、四大公爵家の内三家もいないのは少し珍しい。


「フォルトゥナ公爵ではないの?」


「ヴァユが手薄になってはいけませんので、アルマンダイン公爵がクロイツ伯爵やダンペール子爵と相談して決めたそうです」


 クロイツ伯爵は貴族のバランサーを担っているし、武官としても文官としても有能なので折衝が得意なのだ。その使い勝手の良さから、忙殺されている。

 ダンペール子爵は以前王宮の警備を担当していたので詳しい。ダンペール子爵家は侯爵家だったが、アルベルティーナの誘拐が原因で爵位は下げられ、王宮警備を総括する立場から追われた。

 前回の失態もあり、アルベルティーナが出席する場で再び問題が起きないようにと神経を尖らせているだろう。


「そうなの。わたくし、何も知らないのね」


 アルベルティーナが結界魔法の応用で把握できる情報は、本当に上辺だけ。それでもゼロよりはずっといいのだけれど、最近はそれも疎かになっている。

 地味に書類系の執務が多く、喪が明けるのに向けてかどんどん量も増えている。


「知っているほうが少ないですよ。恐らく、謁見の間を襲われたこともあって腕のある騎士や兵をそれぞれの家から選別し、増員しているんです。それに警備の情報が漏れれば、逆に弱点となりますので伏せられていることも多いですから」


 ミカエリスは宮中の護衛たちに見知った顔と、見知らぬ顔が混じっていたのは気になっていた。全てを記憶しているとは言い切れないが主要な警備に配置される顔くらいは把握していた。

注意深く観察していれば、制服や鎧、手にしている武器などの細工から出所を割り出せる。

 その裏に、四大公爵家の中で王宮騎士や兵とはいえ、信頼できないという杞憂があるのだろう。

 レナリアが二度も脱獄したという事実と、この状況においても私利私欲に走る元老会。

 ガンダルフが目を光らせていても、多くの場所を受け持てば当然ながら穴ができやすくなる。


読んでくださりありがとうございます。


活動報告でもありましたが、体調不良が重なりかなり更新が遅れました。

お気遣いのメッセージありがとうございます。



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