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王太女としてのアルベルティーナ

原稿作業も佳境に入りつつ、修羅場に突入中。更新が不定期になる恐れあり。



 アルベルティーナの呼びかけに動く人たちはいる。

 彼女は行動をしている。ミカエリスの耳にも、彼女が貧困街を再開発し、区画整理に尽力していると聞いた。そこには貧しい人たちでも利用できる住居や学校、医療施設を立てていると聞いた。

 それ以外にも、出兵した兵たちのための食糧援助や保存食の開発などに力を入れている。

 本人は喪に服して慎ましいほどの生活をしている反面、民のための慈善事業や公務は王妃や王女よりよっぽどやっているというのがらしいと言えばらしい。

 引き籠り気味なので慰問などはしないが、あれこれと民のために行っている。それが一過性の政策ではなく、循環型で巡りに巡って多くに還元されるものだ。

 民の間でも、その人気や人望はじわじわと火が付いている。

 血統や格式を重視する貴族主義の風が強いサンディスに、実力主義の風が吹くのではと新興貴族たちや能力は有っても家柄に恵まれなかった人々も期待している。

 側近として実力叩き上げのジュリアスを擁しているのも大きいだろう。


(あの曲者のジュリアスが入れ込んでいるのもな……)


 ジュリアスの辣腕は商業の世界だけでなく、貴族の世界でも響いている。

 彼を自陣に引き込もうとした人間は多いだろう。実力もそうだが、見目も良くラティッチェやローズ商会で培った人脈は広く、顔が利く。

 だが、ジュリアスは一貫してアルベルティーナ以外に膝を付くことはない。

 アルベルティーナは力がないと嘆いているが、着実に元老会や王妃たちが取り込めなかった陣営を引き寄せている。それをどんどん取り込んでいるのがジュリアスだ。フォルトゥナの人脈の旧家貴族とも顔を繋いでいるが、新興貴族が多くジュリアスへ流れている。

 かくいうミカエリスもそれなりに派閥を築いていた。

 軍人出身者の貴族や騎士でもある貴族などと親しくしている。


「きっとマクシミリアン侯爵は最後までわたくしに縋り付くわ。一番ゆすりやすいもの」


 王太女という肩書きは強い。マクシミリアン侯爵を唆した人間は、彼を助けないだろう。そもそも、唆されていたとあの愚鈍な男が気付くかも怪しい。

 アルベルティーナは賢かった。かなり精神的に追い詰められていた状況で、魔法のスクロールによる誓約を短時間で学習した。信頼できる人間を選出して、課せられた誓約に引っかからない情報を落として不信感を植え付けて動かした。

 確かに甘いところもあるが、いかにも温室育ちのお姫様がここまで動くなんて思っていなかっただろう。

相手の最大の誤算は、薄弱としたアルベルティーナに火が付いたことだ。

 ヴァンやマクシミリアン侯爵の過信や吹聴具合からして、完全にコントロールできると侮っている。今でも、周りが遮っているとしか思っていないだろう。


「マクシミリアン侯爵家は宴に来るかしら?」


 謹慎は解けていないが家に兵が送られて監視されているわけではない。自主性に判断されている。


「今日は見ませんでしたが、ヴァンを解放するように擁護者を募っているでしょう。彼にしてみれば、この催しほど都合が良い場所はないはずです。多くの貴族が出席しますからね」


 見栄っ張りそうな侯爵のことだ、自分の息子をラティッチェ当主や王配にという夢を捨てるとは思えない。

 なまじ、一度甘い汁を知ったのだ。アルベルティーナから脅し奪った事業を見事にダメにしかけたが、資金を使い込んで楽しんでいたと聞くし、ここで踏ん張れなければ転落しか待っていない。


「そう。……ねえ、ミカエリス。わたくしが宴に出ることをあの男の耳に入るようにできる?」


「できますが……賛同は出来ません。あれは愚か過ぎて話にならない。釣る価値はあるのですか?」


 使い込んだ金の返済より、頭の腐った夢を追いかけている男だ。

 何もしなくとも勝手に首を絞めていくだろうし、ジュリアスが楽しげに手を回していた。


「親子で同じ場所に入るべきだと思うのよ。まだどこかで元気にしていると思うだけで、とても目障りなの」


 アルベルティーナはいつになく辛辣だが、理解できる。彼は明確な敵なのだ。

 マクシミリアン当主と次期当主が投獄されれば、残るは影の薄い次男だけが屋敷に残る。

 その状況であれば家探しはずっと楽だろう――隠していたグレイルの遺体を見つける手がかりも探しやすい。

 マクシミリアン侯爵は謹慎の身。それを破って宴にうろうろしていれば、咎める理由になる。仮装パーティや仮面舞踏会でないから、露骨な変装は出来ないから探せる。


「あの男はわたくしに直訴するわ。ヴァンを釈放して欲しいって。もし本当に王配に関して陛下のお言葉を聞けば、ヴァンこそ婚約者に、王配にすべきだって厚かましくも訴えるでしょう」


「そこまで愚かでしょうか」


 そこにはアルベルティーナだけでなく、王侯貴族たちがひしめいているのだ。

 常に表面上はにこやかに狸と狐の化かし合い。如何に相手の揚げ足取りからマウントを取るかに情熱を燃やしている。


「ラティッチェとフォルトゥナに睨まれてまでマクシミリアン侯爵を庇う人なんていないわ。それに、あの男はわたくしだけには強く出られるでしょう。

 キシュタリアもそうだけど、フォルトゥナの人たちもわたくしに甘いわ。その、信じられないけどフォルトゥナ公爵もわたくしには甘いそうなのよ」


「そうですね」


 ガンダルフは孫娘が可愛いだろう。それはミカエリスも感じている。ふとした時、アルベルティーナの話題が出た時や、姿を見た時に優しい目をするのだ。

 当のアルベルティーナは理解できないらしく、眉根を寄せている。


読んでいただきありがとうございました!

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