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謎の侵入者

レイヴンとミカエリス。隠し通路にて。




 ミカエリスを超える巨躯、浅黒い肌に鋭く野性味のある顔立ち、光を吸い取るような黒髪――アルベルティーナが黒猫のようだと可愛がる元従僕がいた。


「レイヴンか?」


「はい。申し訳ありません。まさか、こんなお時間に来るとは知らず」


「いや、私が宴を抜け出して先触れ無しに来たのだ。アルベルも知らないのだから、お前も知らないのは仕方がない」


 主の私室や寝室のある方向に真っすぐ向かっていく気配があれば、レイヴンの強烈な殺気も分かる。しかも、相手は隠し通路を使ってきたのだ。警戒もひとしおだ。

 今日の宴にはミカエリスは勿論、ジュリアスやキシュタリアも出席できるならば出ているはずだ。三人であれば、手紙一つで宴後にヴァユの離宮を訪れてそのまま宿泊することだってできる。

 レイヴンもまさかこんな半端な時間に、しかも先触れもなく入り込んでくるとは思わなかったのだろう。

 僅かに表情を曇らせ、無礼をわびた。


「申し訳ございません。まさか来ていると思わず……ミカエリス様、誰とも会いませんでしたか?」


 歯切れの悪いレイヴンに、違和感を覚えるミカエリス。何か気がかりになることがあるのだろうか。そう思いつつも、質問に答える。


「宴の場でジュリアスやフォルトゥナ公爵家の方々とは会ったな。キシュタリアは見掛けなかったが――」


「違います。この隠し通路で、他の侵入者を見ませんでしたか?」


「……この通路は知られていないものではないのか?」


「そのはずですが、稀に」


「暗部の者か?」


「それだけではありません。中には貴族らしき者もいるのです。アルベル様が知るはずのない下級の者が多かったですが」


 王城の隠し通路が誰かにバレているとでもいうのか。

 アルベルティーナが誰かを誘い込むような人間ではないことは重々承知している。むしろ、そんなことを知ったら真っ青になって震え上がるだろう。

外にある入口――あの場所は曰く付き扱いで、人が足を踏み入れた気配はほとんどなかった。それとも、ミカエリスと同じように、王城の仕掛け扉や隠し入り口でも使ったのだろうか。しかし、この通路はサンディスライトがないと入れない。偶然は入れたとしても、容赦なくトラップ類が発動する。


「どのあたりまで入り込んでいた?」


「中庭あたりです。その前後から仕掛けが多いので、殆どは生きた姿ではありませんでした」


 安心はするが、それはそれで厄介だった。生きていたのなら、拷問にかけてでもどうやって侵入したか吐かせるところだ。


「貴族は、どこの家か分かるか?」


「それが、発見できても判別が難しく……五体満足の方が少なく、顔が潰れているのも多いのです。遺跡の機能なのか、隠し通路には死体を片付ける魔法や仕掛けが施されているので、体の一部や衣類の切れ端ばかりで……」


 貴族と平民の纏う衣類は、当然布の質からして違う。レイヴンはそこで判断したのだろう。

 さらに言うと名門貴族であれば、衣装に家紋や家名を入れたボタンや刺繍を施すのは珍しくない。だが、貧乏貴族であればそんなことはできない。精々、一張羅に上着に付けるかワッペンなどで代用する。


「逆に暗部関係の人間なら、生きている場合もあるのですが身分を証明するものを持ち合わせないことが多く、口を割る前に自害をするのも多いです。ですが、王妃や元老会が疑わしい所です」


「分かるのか?」


「暗器や戦い方に癖があります。グレイル様が彼らの勢力とやり合った後に放たれる暗殺者と似ています……もしくは、同じ組織の人間を使って行っているのかもしれません」


 不確定要素は多いが、元老会や王妃達にはアルベルティーナに人間を送り込む理由はたくさんある。己の勢力に属す若者がアルベルティーナと懇ろになれば、彼らは絶大な権力を有することができる。ハイリスクだろうが試す価値はあるだろう。


「……陛下は、関わっていないな?」


「可能性は低いかと。陛下は余力が少ないはずです。今の王家は代々受け継がれる暗部を、元老会に奪われています。ラウゼス陛下の持っていた兵は悉く元老会が潰してきましたから」


 元老会はそうやって、自分の意にそぐわない王の力と精神を削いできたのだろう。

 暗愚な傀儡は気にしないが、国の未来を憂いたラウゼスは抵抗してきたのだ。貴族たちに軽んじられながら、どれだけ耐え続けていたのか。今もアルベルティーナを守ろうと、彼らの矢面に立っている。


「元老会は随分腐っているな」


「貴族を扇動し、王家を傀儡やスケープゴートにして増長していった組織ですから」


 そして、元老会の新しい玩具がアルベルティーナ。薄々は気づいていたが、改めて気分が悪くなる。

 ラウゼスが長らく王座にいたのは、代替できる存在がいなかったのも大きいだろう。歳を重ね老獪になった王より、世間知らずの王太女の方が扱いやすい。


「レイヴン、随分詳しいな?」


「奴らが頻繁に会合と言う名の皮算用をしている場所があります。あれは敵です。アルベル様の害悪です」


 ミカエリスは軽く目を見張る。普段、感情が浮かびにくいレイヴンが、はっきりと嫌悪を示したのだ。次の瞬間には消えていたが、確かに獰猛な憎悪が渦巻いていた。

 少し見ない間に、すっかりと高くなった後頭部を見る。もう、少年とは言えない巨躯はミカエリスを超える。しかし、その歩きは驚くほど足音がしない。野生動物のネコ科の肉食獣を思い出させるしなやかさだ。

 ラティッチェの影は優秀だ。この若さでアルベルティーナの護衛を務めているレイヴンは、その中でも突出した才能を持っている。そして、二心なくアルベルティーナに忠誠を誓い、敬愛しているからこそ今も傍にいる。


読んでいただきありがとうございました。


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