強かな令嬢
切りよくするために短め。
ジブリールは自分の立場を分かってやっています。
「お兄様は、余り装飾品を付けない方なの。社交に出るときは着飾るのだけれど……ここ最近、銀と緑の宝石の指輪を肌身離さず付けているのよ。指に付けられなければ、チェーンまで用意して。ところで、お前の手にも指輪が付いているようだけれど――自分でわたくしに見せて説明するのと、腕と指をへし折られた後で尋問されて自白するの、どちらが宜しくて?」
銀と緑の宝石—―ミスリルとサンディスライトである。
そして、今ジブリールに捕まえられているジュリアスの手の指にも嵌められていた。しっかりと爪を立ててきている。
ジブリールは微笑んでいる。何も知らない初心な青少年ならば見惚れてしまう令嬢スマイル。だが、その微笑は圧政の微笑だ。
「……黙秘権は」
「あると思って? ぁああん? お姉様の前で、お前に意地悪されたって泣き喚きますわよ。拗ねながら怒られて、初恋レースに出遅れるがいいわ」
ジュリアスの逃げ道を容赦なくぶった切るジブリール。
ぎちりとジュリアスの肩に細指と爪が食い込んだ。今日の一張羅は特別なので、本気でやめてほしい。かなり切実なジュリアスの本音である。
ジブリールの嫌がらせが実に的確だった。もしジブリールが目の前で嘘泣きでもすれば、彼女を溺愛するアルベルティーナはその原因に怒りを燃やすだろう。
流石にジュリアスに当たる真似はしないが、可愛いだけのふくれっ面でお説教をしてきそうだ。そして、その隣でせせら笑う赤い悪魔の姿まで想像できてしまう。
「流石にここでは言えません。人払いを済ませた場所を用意しますので、信用できる使用人を連れてきてください」
「仕方ねーですわ。ついでに聞きますけれど、キシュタリア様も持っていますの?」
こくりと頷くジュリアスに、何やら合点がいったようだ。ジブリールは、ニタァとそれはもう面白そうに邪悪な笑顔を浮かべる。
他所から見れば、公爵令息と伯爵令嬢の逢引きだが、現実は恐喝現場である。
「ふぅん。成程。なんとなくですが予想が付きましたわ」
「では」
逃げようとしたジュリアスの首に、華奢な指先が伸びる。そして、のどぼとけを潰すのではないかという勢いで掴まれた。
同時に、話を終わらせようとするジュリアスに、再びジブリールのキレッキレに研ぎ澄まされた言葉のナイフが掠める。
「だからと言って問いたださないとは言いません。わたくしが納得するまで吐きやがれですわ」
逃げられないと観念したジュリアスは、思わず深いため息をつくのであった。
いつだったか、グレイルのジブリールが男でなくて良かったという揶揄いの言葉が身に染みる。もし男性であったのなら、ぞっとするとしか言いようがない。
この豪胆さと気の強さ。そして、アルベルティーナがとびきり弱い可愛らしさと年下属性の組み合わせは兎に角凶悪過ぎる。
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