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ダナティア家の因縁3

一歩間違えばグレイルVSガンダルフの決闘があったかもしれない。


 ある意味究極の選択である。

 互いに方向性は違っても、相当際物であった。

 コーディーの執着はシスティーナに起因する。前の女の影をズルッズルに引きずって、よく似た娘のクリスティーナに強引に求婚した。やることが卑怯であるし、ガンダルフやシスティーナだって、そんな義息子欲しくないだろう。

 グレイルは愛情が超絶極端で、人の心があるかちょっと微妙。基本、ごく限られた相手以外は冷酷無比の魔王公爵である。軋轢もなんのその妻の実家だろうが、絶縁状態になっても気にしないマイペース男である。

 ミカエリスには娘はいない――が、もしジブリールをどちらかに嫁がせるとしたら、後者のほうがマシだろう。

 ガンダルフはある一点において、グレイルをコーディーより評価していた。

 まだ、妻にする女性をちゃんと見ている。

 かつてラティッチェ邸――といっても、領地の本宅ではないが――に滞在した時、第一夫人の部屋には亡きクリスティーナの肖像画があると聞いた。ラティーヌと不仲ではないが、あくまでビジネスパートナーという意味合いが強い印象を受けたのもあり、ガンダルフは後妻には恋情としての愛はないと結論付けた。

 グレイルの中では、今も妻はクリスティーナだけである。


「……ドミトリアス伯、貴公からみてグレイルは良い父親だったか?」


 娘を目に入れても痛くないほど愛して――むしろ目に入れていたいくらい溺愛していた。

 忙しい中でも常にアルベルティーナのとの時間を作って、心を砕いていた。

 

「ええ、とても」


 即答だった。

 アルベルティーナにとっては、間違いなく良い父親だっただろう。

 グレイルは過保護で束縛激しい父親であったが、怖がりで引き籠り令嬢だったアルベルティーナには居心地の良さを感じているように見えた。

 ミカエリスの言葉に、ガンダルフは視線を落とす。


「そうか。クリスが亡くなってすぐに再婚したあげく、養子まで取ったと聞いた時は殴り飛ばしてやりたかったが……」


 すぐに再婚したと言うと不義理に聞こえるが、全ては最愛の妻の忘れ形見のためである。

 トラウマで危ういアルベルティーナのためだった。彼女が安心して休めるよう、後継者と女主人を用意したのだ。

 アルベルティーナは後継者の重責が無くなったし、彼女が社交ができなくてもラティッチェは問題なく回るようになった。

 二人ととても仲が良いし、グレイルが不在の時はだいぶ慰めになっている。

 極度のファザコンにかすみがちだが、相当ブラコンだしマザコンだった。


「それは、アルベルの為でしょう」


「そうだな。あの子に公爵家を継がせるのは無理だろう。社交が難しければ、女主人になるのも大変になる」


 遠くから見守っていたガンダルフは、アルベルティーナのことを少しずつ理解していったのだろう。

 風の噂や憶測だけでなく、生身のアルベルティーナを見て納得した。

 だが、そんな彼女が何の因果か王太女である。

 ガンダルフはアルベルティーナを保護したかったが、王家に組み入れさせる気まではなかっただろう。

 義務と庇護が暴走し、最悪な結果になった。

 あそこまでアルベルティーナを打ちのめさせる原因となると知っていたら、絶対しなかったと今なら断言できる。やるせない愛情と哀切を飲み込み、そっとラティッチェの箱庭に戻していただろう。

 ミカエリスの知るガンダルフは、冷静な不動の精神をもっていた。この年齢でも戦場に立ち、若者が引くような激しさで敵を蹴散らす。彼の姿を見るだけで軍勢が怯むという逸話すらあった。 


「しかし、グレイルの再婚云々はまあいい。問題はダナティアだ。今の時期に出てきたとなると、やはり王配狙いか?」


「そうでしょう。血筋を鑑みれば、けして悪くはありません」


 ちらりと見るダナティア伯爵は、やや古典的な――悪く言えば少し流行遅れだが、豪奢な衣装である。長らく社交に出ていなかったと考えると、型が多少古いのも仕方ないだろう。

 若いが不思議な貫禄というか、落ち着いた振る舞いをする。そんな彼にあの装いは良く似合っていると言えた。

 それにああいった古典的なデザインは年配には馴染みがあり、受けがいい。

 アルベルティーナのローズブランドから始まった衣装革命は最近のことだ。女性の衣装にやや遅れて、男性の衣装は波が来た。ここ数年で一気に新しい風が吹いている。

 ダナティア伯爵はその美貌もあって目立っている。宝石を縫い付けた見事な金の刺繍や大きなイエローダイヤのブローチや、指の太さほどある石のついたサンディスライトの指輪など、かなり財力があると察せられる。

 挨拶に来ている貴族にファウストラ公爵家やトールキン侯爵家を始め、元老会と繋がり深い家がひっきりなしに来ている。そして、大御所と言われる貴族との繋がりを見て、他の貴族たちも列をなして挨拶しに向かっていた。

 鷹揚に対応する姿からは、人の上に立つのに慣れている気配がした。

 どことなく、この会場全体に彼を歓迎するムードが漂うようになっている。


読んでいただきありがとうございました。


コミカライズ版は、第六話が12月3日にゼロサムオンラインで更新予定です。

炬とうや先生が担当してくださっております。

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