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ダナティア家の因縁2

ここでラティッチェ夫妻の昔のあれこれ。



 どうやら、かなりクリスティーナに追いすがったらしい。

 騎士や貴族の決闘は、勝敗に矜持や契約が掛かっていることが少なくない。

 むしろ、譲れないものがあるからこそ起こることが多い。

 ミカエリスはガンダルフの様子に少し引っ掛かりを覚えた。ガンダルフは、グレイルとクリスティーナの結婚を反対していたのだから、ダナティア大公との婚姻を望んでいたと思っていた。

 大公というくらいだから、王家と近しい血筋で由緒ある人物であるはずだ。

 そんなに性格に問題があったのだろうか。


「フォルトゥナ公爵は、その、余りダナティア伯爵……いえ、大公? を歓迎なさっていなかったのですか?」


「あの小僧はもともと儂のシス……妻のシスティーナに付き纏っていたのだ。異母弟であったし、いくら王家の瞳を持っている王子とはいえ、実の姉王女と結婚させるのは問題だった。歳の差もあり、派閥の問題もあった。当時は王家の瞳の持ち主が少なくはなかったから、今のように継承問題が差し迫っていなかったからな」


 グワッと顔を険しくするガンダルフ。まるで冬眠明けの滅茶苦茶腹ペコで機嫌の悪い熊のようだった。その一瞬で、周囲から老若男女問わず人垣が離れた。

 中には多少聞き耳を立てていた人もいたが、それも一瞬にして消えた。

 ちらちらとミカエリスやジブリールを見ていた人々も、真っ青になって顔を背ける。

 ガンダルフは完全に思い出し怒り状態で、周囲の怯えた空気に気付いていない。


「え……と、では前当主をダナティア大公と呼びましょう。ダナティア大公はクリスティーナ様の叔父上であらせられるということですの?」


 ジブリールはこんな時でも怯まず問いかけた。

 かなり血筋が近い。それもあってフォルトゥナ公爵家も難色を示していたのだろう。

 素行から察するに、人格にも相当問題ある。ガンダルフとしては、ダナティア大公との婚約は苦渋の決断だったと察せられる。


「ああ、それもあり歓迎はしていなかったが……大公家からの圧力が酷くてな。過去に血族婚は問題が起こった。病弱であったり、早死にしたり……長生きしても、まともでなければ意味がない。魔力持ちの精神疾患者はとんでもない事件を起こすことが後を絶たなかったからな。そう説明しても、今度はクリスの婚約者候補に手を出す始末だった、何を言っても納得せず、あれと婚約をするまで他の婚約者候補に謎の失踪や死亡事件が相次いだ」


 古い文献を紐解けば、王族が血族婚を重ねるのは珍しくはない。だが、このサンディスは余程の理由がない限り王族と言え三親等内は避ける傾向にあった。

 過去に血族婚を重ね過ぎて逆に血を絶やしたり、生まれながらにして異常な疾患を持っており長生きできなかったり、精神が破綻している者が生まれたからである。

 そういった背景もあり、王族には血守の一族というセーフティシステムが作られている。

 そして、それに倣った貴族たちも自然と近親婚は避ける傾向にあった。


「そこまで強引に? そこまで力が強かったのですか……」


 ミカエリスは顔を顰めている。自分の意思を通そうとして、他者を害す。

 それは時には必要かもしれないが、なりふり構わなすぎる所業だった。

 フォルトゥナ公爵家に圧力をかけるとは、相当である。フォルトゥナ公爵家はサンディス王国でも譜代臣下として名高い。当主のガンダルフの気骨もあり、ちょっとやそっとでは脅せない。


「ああ。ダナティア大公にはよりによって元老会が味方していた。あれは王家の瞳の信者だからな……相当の金を積んだのも大きいだろう」


「彼らを味方につけていたにもかかわらず、王位継承争いには参加しなかったのですか?」


「あの男はシスやラウゼス陛下とは違い、妃との子ではなく愛妾の一人との間の子供だった。王家の瞳であったから、正式に王族として認められ、一代限りであったが大公家を興すことを許された。王家の瞳の王子や王女は王族か高位貴族に嫁ぐか家を興すのが慣例だからな」


 継承争いに除外されたのは、母方の身分がネックとなったのだろう。

そして、由緒ある貴族や他国の王族へ行くことができなかったのは、王家の瞳の持ち主とはいえ後ろ盾が心許無かったからだろう。

 もしくは、システィーナに執着して、そういった話を蹴っていたのかもしれない。

 いくら似ているとはいえ、懲りずにその娘のクリスティーナに求婚する辺り偏執狂じみている。


(若い頃とは言えラティッチェ公爵と決闘する人間がいたとは……)


 人外魔境と称される魔王は、その頃から魔王だったというのは想像がつく。

 ミカエリスなら、同年代にグレイルが居たら絶対歯向かわない。戦う羽目になったら、全力で準備を整えて差し違える覚悟を決めてからだろう。

 噂は聞いていたが、ガンダルフの口から聞くと、一気に現実味を帯びた。


「しかし、大公家が伯爵家にまで爵位を下げられるなんて……」


「あの男は、卑怯だった。グレイルに勝つためになりふり構わなかった。毒は仕込むは、暗殺者は送り込むは……未遂に終わったが、クリスに迫ったことは何度もあった。グレイルに出し抜かれて、悪事が露呈し、決闘に対するその不誠実な対応もあり、ただの伯爵になった」


王族が格を示すフォンも付かないのは、かなり珍しい。伯爵にまで落とされたのもかなり異例である。

ましてや、ダナティア大公は王家の瞳を持っていた。クリスティーナに執着しなければ、安泰だっただろう。

そして、クリスティーナを見初めた相手が最悪だった。

 才能と非常識の塊であるグレイル・フォン・ラティッチェである。やると決めたらとことんやるし、愛した人間に対する感情は極めて重い。そして、それ以外――特に敵認識した相手には塵芥より最下層の扱いをする。


「……グレイルは嫌いだ。だが、ダナティア大公—―コーディーにやるよりはマシだった」



読んでいただきありがとうございました!


パパンはバチクソに命を狙われていましたが、あーいう人なのでサクサク処理していました。

片手間半分にあしらっていた。


とっても寒い季節ですね。また寒さにやられて死にかけました。漢方の出番の季節です。

皆さまもお気を付け下さい。

寒さって本当に侮れない。

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