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凱旋の宴

ジュリアスの社交



 アルベルティーナが珍獣たちと晩餐を楽しんでいるとき、王城ではまるで戦に勝ったとばかりに華やかなパーティが催されていた。

 王城でも一際豪華なダンスホールでは着飾った紳士淑女が、軍服に勲章を並べた騎士や軍人が、優雅に笑みを湛えて談笑と駆け引きを楽しんでいる。

 その中にはジュリアスもいた。

 襟元に金糸の刺繍の入った漆黒のフロックコートに藍色のジレ、胸元にはフォルトゥナの紋章が入ったハンカチーフを入れている。黒いトラウザーズに、良く磨かれた革靴を履いていた。

 ワインを片手に、艶麗な笑みを浮かべて挨拶を交わしている。


(本番は今日ではないというのに、また随分と気合が入っているな)


 ラウゼスがアルベルティーナに参加するように招聘した宴は、一週間後だ。

 今はまだ前哨戦であり、本番はその日だ。

 一週間も宴を続けるのは、中にはけが人や戦死者が出た家もあるし、領土を長期に空け続けていた貴族たちもいる。急ぎでやらなければならないことがあり、最も盛り上がる最終日までいられずとも、王家の面子を立てたという理由で一日だけ参加する貴族も多い。

 同時に、一週間続けて出続けられるのは裕福で余裕のある貴族だけだ。

 これも一種の篩といえる。

 もとより貴族の関わる催し事は格付けのし合いばかりだ。

 祝賀ムードがあるなか、貴族たちは抜かりなく情報収集に余念がない。

 どれくらい参加していたか、以前出席した夜会や茶会と同じ服を着ていないか、宝石、装飾品、馬車、パートナーは誰かと財力や人間関係を探ろうと目を光らせている。

 先ほどから貴族たちが引かない。ジュリアスにひっきりなしに挨拶が来るのは、アルベルティーナが参加する可能性を調査しに来たのだろう。

 ガンダルフは見ての通り威圧感の塊だし、クリフトフは家族を除けば、頭の切れる偏屈な毒舌家である。しかし、その脳味噌はアルベルティーナの前では蕩け切っている。一見朗らかなパトリシアはフォルトゥナの狂犬と名高いので、甘噛みで重傷を負う可能性がある。

 その面子の中では、若造のジュリアスは声をかけやすいだろう。侮る人間もまだいるが、ジュリアスを『フォルトゥナ公爵子息』と認める人々も増え始めた。

ましてや、今はフォルトゥナ一家から少し離れ、一人でいるのだから油断してくる人間も多い。

 今回の宴の主役の中には、アルベルティーナの王配候補として名高いミカエリスもいる。

 ミカエリスもまた、たくさんの人々に囲まれていた。

 僅かに青みのあるブラックのナポレオンジャケットにはボタンや肩章には金の房飾りがついている。胸には若くして得た勲章が輝いていており、動くたびにシャンデリアの明かりに反射して存在を主張している。

 金飾りを抜けばほぼ暗色一見質素に見えるが、本人の鮮やか真紅の長い髪もあって、非常にコントラストが華やかだ。

 王配有力候補だと言われているのに、相変わらず女性からの人気がすごい。

 本人も戻ったばかりで疲れているだろうに、取り囲まれてもにこやかに対応している。どさくさにまぎれ、腕を取ろうとしてきた女性はパートナー役を務めていたジブリールにあしらわれた。

 社交界の華と言われるだけあり、いつものように物理的な排除はせず、あくまでも貴族的牽制にとどめている。


(毎度ながらに思うのだが、何故ジブリールさまはああも力強く逞しいのだ? 俺たちだって鍛えているし、あの公爵閣下の地獄のしごきすら耐えきった人間だというのに……)


 思い出した、自分たちの鍛錬を凌駕するジブリールの拳。

 受けるたびに、目撃するたびに、また強く鋭くなったと三人で青い顔で頭を付きあわせて悩んでいる。

あのパワフル令嬢を御せそうなのは亡きグレイルと、ジュリアスの大事な姫君くらいだ。だが、姫君の方はジブリールに滅茶苦茶甘い。

 アグレッシブシーンを目撃しても「活動的なジブリール、可愛い」で九割済ませてしまう。ジブリールの愛らしさの前に、しょっちゅう思考が蕩けている。そしてますます図に乗るジブリールという、悪夢のスパイラルであった。

 あのお転婆ぶりに振り回され、頭を抱えていた頃が今は遠く感じる。

 そろそろ自分も二人に挨拶しに行こうとした時、ジュリアスの近くに誰かが来た。


「フォルトゥナ公爵子息、ごきげんよう。よろしければ、バルコニーでおしゃべりしませんこと?」


 そこにいたのは、レンチェス子爵令嬢だった。

 水色の髪を豪奢に巻いて両サイドに大きなリボンで結っている。赤銅の瞳はツンとした猫のようなアーモンドアイだ。華奢さを引き立てる可愛らしい童顔だった。

 既視感を覚え、符合する。この令嬢は、レナリアに似ていたのだ。どことなくジュリアスの憎悪する女を思い出させる傲慢さが滲み出ている。

 だが、それは関係ない。ジュリアスは思考を切り替え、視覚的情報から目の前の人物を静かに値踏みした。

 鮮やかなカナリアイエローのAラインドレス。たっぷりとしたフリルがデコルテや袖で揺れており、肩や腕、胸元にオレンジの大きなリボンが付いている。

 一昔前に流行った、典型的なロマンティック系のドレスデザインだ。

 最近はプリンセスラインやAラインのドレスより、エンパイア、マーメイド、バッスルなどのスレンダー型や大きく膨らませ過ぎないスタイルが流行している。




読んでいただきありがとうございました!


先日、来月の11月2日発売予定である書籍について、情報を載せました。

表紙はミカエリスですよ!

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