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代打の広告塔

パトリシア・フォン・フォルトゥナ。クリフトフの妻であり、クリスティーナとは幼馴染。

可愛らしいふわふわした愛嬌のあるおばちゃま。迂闊な事をするとケルベロスが降臨する。





 今まではラティお義母様がお茶会や夜会で小まめに宣伝してくれていた。

 でも、そもそもそういった場に出る機会を減らさなくてはいけない現状。当然、いつもより宣伝力は落ちます。それをカバーしているのがフォルトゥナ公爵家。

 いくらクリスお母様の実家とはいえ、ジュリアスを養子に迎え入れてくれなかったら任せられなかったでしょう。

 うーん、意外なところで渡りに船です。ジュリアスの根回しの良さからして、計画範囲内なのでしょう。

 ラティッチェのローズ商会は流行最先端ですが、喪中の一年間も停滞してしまえば別のところが隆盛してくる可能性は十二分にあります。

 今まで冷え切っていたラティッチェとフォルトゥナの関係は、ここにきてちょっと修復し始めたそうです。原因、多分わたくしよね……。

 ラティッチェもそうですが、フォルトゥナの人たちも相当わたくしに甘いもの。

 その一人であるパトリシア伯母様はいつもニコニコと朗らかでいらっしゃる。

 わたくしの知らないクリスお母様のことや、システィーナお祖母様のこともお話ししてくれて、社交がお世辞にもできるとは言い難いわたくしのフォローをいろいろして下さるのです。


「パトリシア伯母様には感謝をいくらしても、足りないわ」


「笑顔でお礼を言うだけでも十分喜びますよ。あの狂犬様もアルベル様にメロメロですから」


「もう、おばちゃまは全然狂犬なんかではなくてよ? なんでそんな噂が染みついているのかしら」


 あんなにほわほわふわふわにお優しいのに本当に不思議だわ。

 わたくしが若干抗議を含めてジュリアスに言うと、なんだかジュリアスやベラだけでなくメイドや護衛の騎士たちまでもがそっと視線を泳がせていたことには気づきませんでした。

 わたくしには優しいおばちゃまであっても、王妃だろうが王女だろうがわたくしに手出しをしようとしたら歯を剥いて、ガウガウと容赦なく噛みつくお人なのです。

 なので、わたくしがヴァユの離宮で静かに過ごせたのは、伯母様の尽力が裏にあったからこそ。

 アポなしで来ようとしていた人間は上級貴族だろうが、王族だろうが大臣だろうが全て叩き返し続けていた女傑です。それでも強引に押し入るなら、御礼参りをしていたそうです。

 マクシミリアン侯爵家関係の人間が入ったのは、わたくしが原因ですが……。

 はっ! 暗くなってはいけませんわ!


「そうだ。二人が帰ってきたらアイスケーキでも用意して食べましょう! 冷凍したものであれば、多少日にちがずれても大丈夫ですし」


「アイスケーキ?」


「ええ、そのままアイスをケーキの様にして……食べ……あ、あの、ええと」


 ジュリアスの、ジュリアスの笑顔が……ニッコリな笑顔の裏でチャリンチャリンと金貨の塔が猛スピードで作られていくスケジュールが見える気がします!

 笑顔が! 笑顔なのに、さっさとその頭の中の考えを一からゼロまですべて吐き出せと言っているような気がします!


「とりあえず、お二人のお出しするアイスケーキはどのようなものをお考えに?」


「えーと、取りあえずバニラとチョコレートにブランデーやリキュールでちょっと大人な仕上がりのものを考えていまして!」


 良かったです! 製品化直行便は免れました!

 わたくしが前世で口にすることのできたアイスケーキは、嗜好品というよりご褒美枠の高級品でした。

二人への慰労を込めて、細やかながらも歓迎したいと思います。

クロッキー帳にさらさらと幾つかケーキのデザインと、どういった材料を使うか書いてみます。

 二人が帰ってくると思うとやはり嬉しくて筆が進み、十枚ほど仕上がりました。

 あれ? バニラやチョコだけのはずが、チーズケーキ風やビスキュイを使用したフルーツタルト風のアイスケーキができているような?

 一生懸命身振り手振りで説明して、ジュリアスにクロッキー帳を預けました。


「流石にこの案全てを仕上げるには時間が足りません。最初に出た尤もスタンダードなバニラとチョコレートのケーキを最優先でという形でよろしいでしょうか?」


「ええ、楽しみにしていますわ!」


「素案がこれだけ完成していれば、この二つは難しくはないでしょう。残りの分も、パティシエたちに良い課題となると思います。

 喪が明ければ盛大なパーティは避けられませんし、ヴァニア卿への差し入れも含めて良い目玉になりそうですね」


 その言葉に、ぴたりと止まる。

 喪が明けたら――わたくしには人が押し寄せるでしょう。

 いくらそれを遮ろうと網を張っても、それを出し抜いてやってくるはず。


「心配せずとも、我々も今までぼさっとしていたわけではありません」


 ……ちょっと胸にグサッときました。

 お父様のことばかり考えていて、ちょっとその辺を忘れかけていました。


「殿下、お客様がいらしております」


 スッとやってきたアンナが来客を知らせる。

 ジュリアスがわずかに目を眇め、わたくしは目を丸くしてしまう。

 今日は来客予定はなかったはずですし、先触れもなしに? アンナがわたくしの意向を窺う前に通すほどなのですから、そんな人物はごく限られているはずです。

 僅かに顔をこわばらせ、緊張した面持ちのアンナが告げる。


「ラウゼス陛下がおいでになられています」


 嵐の前の静けさというか、つむじ風の気配です。

 


読んでいただきありがとうございましたー!

ブクマ、コメント、評価、レビューありがとうございます!


『転生したら悪役令嬢だったので引きニートになります』の2巻が11月2日発売予定です。

出していい情報が出たら随時小出ししていきます!

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