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看破

 そろそろ二人が帰ってくるから、ジュリアスターンは減るかも。

 書きやすいです、ジュリアス。





 まさか、ジュリアスは気づいたの? どうやって?

 頭の中は、記憶を引っ張り出そうと必死だった。非常に混乱していて、整理されていない部屋から見えない物を探そうとしているような気持だった。

 魔法の、スクロールの契約の内容はなんだった? ジュリアスには言っていないはず。でもジュリアスはずっと傍にいた。いて、くれた。

 優しくされて、甘やかされて、口を滑らせてしまった? 気を付けていたはず。無意識の内や、寝言なんかでいってしまった? 契約を破ったらお父様が、会えない。お父様が傷ついて、更に辱められる。

 私のせいで、私が愚かで甘ったれだから。いつまでも寄生虫で、他人に縋って、頼って、馬鹿なままだから。わたしの、わたくしのせいで。

 呼吸がだんだんと浅くなり、言葉にならない喘ぎがはくはくと漏れる。


「貴女は何も言っていませんよ――ああ、やはりそういう『契約』なのですね」


 ジュリアスの瞳が紫電のように鋭い光を宿す。眼鏡のレンズの奥がどんどん冷ややかなものに変わる。

 それはわたくしではなくて、わたくしを追い詰めた人間に向かっているのが分かる。

 わたくしを優しく見つめながら、その記憶の人間を探っているようだった。

 爛々と妖しげなほどに輝くジュリアスの双眸が、わたくしを捕らえる。絡めとられ、捕まる。慈しむように優しく頬を撫ぜる一方で、その瞳はどこまでも凍っている。その落差に、混乱し、倒錯してしまいそうだった。

 視線を外すことができず、只管その双眸を見つめることしかできない。


「魔法による契約は、その契約者同士の行動は制限できますが、第三者は難しいのです。いわば、不特定多数の曖昧な要素の塊ですからね。契約者による自発的な行動の制限は――例えば契約の暴露・反故、特定事項の情報漏洩などは最たるものですね。後ろ暗い契約であれば、これらを押さえるのは定石です」


 なんで。

 どうやって気付いたの。

 もしかしたら、気づいてくれるかもしれないと思ったけれど、今まで窺う素振りや調べる気配は見せなかったのに。

 わたくし、頑張ったのよ。

 お父様のことを、契約のことを言ってしまえばお父様を取り戻すことができなくなってしまうの。

 怖くて、恐ろしくて、縋り付きたくて、何とかしたくて。でも、誰にも言ってはいけない。

 だから、王配候補にと望んだ三人――ジュリアスにも、ミカエリスにも、義弟のキシュタリアにすら黙っていた。

 嘘つくことも、隠し事も苦手だけれど、お父様の為なら耐えられるって、耐えて見せるって。

 言葉が胸に詰まってぐるぐると回る。

 お父様のことにも、気づいているの? 決定的な言葉は、ジュリアスは言わない。

 穏やかに微笑みながら、ゆっくりとわたくしの輪郭をゆっくり辿る。


「悪いようにはしませ――!?」


 不自然に途切れたジュリアスの言葉に、飛び上がるほど驚いてしまいます。

 何かしらと思ったら、ジュリアスが恨めし気に足元を見ています。

 そこにはずんぐりむっくりな緑のミニ怪獣が。その小さなあんよがジュリアスの足を踏みつけていた。革製の良く磨かれた靴が、小さなあんよに潰されている。

いつになく険しい緑の瞳が、キッと鋭くジュリアスを睨んでいる。


「……ハニー、貴様……」


「ジュリアス、この子はチャッピーでしてよ?」


 もう、このちょっぴりひょうきんな垂れ目はチャッピーですのに……何故かジュリアスは覚えてくれないのよね。今はちょっと鋭い目をしていますが。

 本人曰く「覚える以前に、見分けがつきません」と断言しましたが……あの頭脳明晰なジュリアスが? 覚える気がないの間違いではないかと思いましたが、本当に見分けがつかないようなのです。

 それにしても、チャッピーはジュリアスを怖がっているのに、悪戯するなんて珍しいです。

 チャッピーは相変わらずむぎゅっとジュリアスの足を踏みつけている。

 あ、ジュリアスが怒っています。これはマズイ。咄嗟にチャッピーを抱き上げて「めっ」とする。

 ジュリアスが隙あらばチャッピーを奪おうというオーラをまき散らしながら、こちらを見ている。

 しばしの膠着状態が続いたとき、別の声が降ってきた。


「チャッピー、お話の邪魔をしてはいけませんよ?」


 アンナ、そう言いつつそのお盆にみっちり並んだ来客用のお菓子は何でしょうか。

 さらりとわたくしの御膝からチャッピーを取り上げるアンナ。

 口では軽く叱りつつも、にこやかにチャッピーの頭を撫でて、チャックの中にざらざらとお菓子を流し込んでいます。

 普段であれば、角砂糖の一つでもこっそり盗ろうとしただけで、足を掴んで逆さ吊りにするのに。

 そのお仕置きがあってか、チャッピーはアンナに冷たい重低音で名前を呼ばれると、すぐさま土下座をすることを覚えるようになりました。

 アンナは悪戯した時のチャッピーとハニーだけは、絶対に見間違えないのよね。


「あのドングリトカゲ……!!! 池に投げ入れてやろうか」


 ジュリアスが呪詛の様に文句を吐きつけていますが、チャッピーはいつもなら乗るなと降ろされるソファに乗せられてご機嫌です。可愛いあんよが揺れています。次々と目の前にお菓子が運ばれ、すっかり虜になっております。

 アンナが珍しく、せっせとチャッピーのお世話をしています。

 クランペット、スコーン、クッキー、カップケーキ、チョコレートと積まれていき、流れるような給仕でケーキスタンドが整います。

 ああ、いつもなら絶対に使わせない・入れさせない・触らせないの鉄壁三拍子のシュガークラフトの瓶をそのまま渡しています!

 そんなアンナとチャッピーの様子を苦々しく見ていたジュリアスですが、嘆息した後こちらに向き直りました。

 苦笑をしたジュリアスは軽くわたくしの頭を撫でると、するりと一房を摘まんで軽くキスをする。

 それ以上は何も言わないけれど、何かが動き出す――そんな予感がしました。




読んでいただきありがとうございました!


ブクマ、評価、コメント、レビューありがとうございます。励みになります!

コミカライズ版は、ゼロサムオンラインにて9月3日更新予定です。

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