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それぞれへの招待状

ちょっとずつ始まろうとしていますよ。





 草木も眠るような時間帯、とある屋敷で一人の男が物思いにふけっていた。

 鬱蒼とした森林の中にある屋敷は蔦で景色に擬態するようになっている。一見、廃墟に見える外観に似つかわしくない程、室内は掃除が行き届いている。

 僅かな光源だけ照らす部屋。浮かび上がる調度品は、重厚でありながらも豪奢である。

 このような薄明かりではなく、煌々と照らすシャンデリアが似合いそうな趣がある。

 だが、そもそも光源はそもそも明かりを作るための用途のものではなかった。

 それは、一見すると天秤に見えた。金属製であり、左右にまっすぐ伸びた棒の先に片方は何もなく、片方には煌々と赤い火が燃えている。平たい皿の上に僅かに見えるのは、羽の様なものだった。一見すぐに燃え尽きてしまいそうだが、普通の羽根ではないのか、もしくは何か仕掛けがあるのか。

 時折、天秤は僅かに揺れる。

 だが、決定に足るものはなく安定は欠くことはなかった。

 天秤の中央には祈りを捧げる女性の像がある。天使か聖母かと言わんばかりに笑みを浮かべて、伸びかけた翼を今にも羽ばたきそうである。 


「旦那様」


 後ろに音もなく人影が現れた。

 闇から浮かび上がるようにゆるりと、姿が見せる。それは常人の気配ではなく、そういった裏の世界を生業にする者独特の空気を持っている。

 声を掛けられた男は、特に驚くそぶりも見せず、天秤を眺めていた。

 だが、その思考が天秤を観察することにあるのか、思考に埋没しているのか、何か画策をしているのか定かではない。


「すべては整いましてございます」


「始末はどうした」


「滞りなく」


「しかし、あれもしつこいな」


 最後は独り言のように、彼はつぶやく。

 恭順するように、黒衣の人物も頭を垂れたまま粛々と言葉を聞いている。

 彼は天秤の前から立ち上がる。動きに合わせて死神を思わせる漆黒のマントが揺れた。その拍子にその腰に佩いた二本の剣が見える。

 その剣は、兄弟、もしくは番を思わせる姿をしていた。それぞれが黒と白を基調として、金の装飾が施されている。彫金が見事であり鞘だけでも価値がありそうだった。

 それだけで芸術的であり、儀式的な雰囲気を放っており、一目で名匠が手掛けるような逸品だと分かる。


「少々想定外のトラブルもあったが……これで迎えに行ける」


 冷ややかにどこか甘く、仄暗く――彼は笑った。





 ヒラリと舞い降りた猛禽類に似た魔鳥。

 足環に付加された、不可視の魔法によりその姿どころか、影すらもない。

 狩人としての側面もある魔鳥は音もなく空を飛び、あらゆる存在の目にも止まることなく空を駆ける。

 一羽はラティッチェの魔公子に、もう一羽はドミトリアスの騎士伯爵へ伝令を届けた。

 その魔鳥が姿を見せるのは、伝令先である相手の魔力に反応してからだ。

 彼らはそれぞれ、手紙というには烏滸がましい一枚の紙片を見てすぐその場で燃やした。

 









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