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主治医の主張

ヴァニアとジュリアスは同年代。



「病は気からだよ? 母は強しっていうし、案外ケロッと乗り越えちゃうかもだし。あと助ける方法としては、ゴユランとの戦争に勝つことかな?」


「戦争に勝ってどうする。あっちの治癒師でもあてにするのか?」


 魔法について各国で研究が積まれている。

 使い手や才能の人材が偏りがちなせいもあるが、未だに解明されていない謎が多くあり、古の時代に作られた魔法具や魔法に、現代の魔法は全く追いついていない。

 また、その国独自の研鑽と研究が進んでおり、ひとまとめ回復や治癒など同一系統の魔法でもアプローチが違うことは多々ある。


「いやぁ、ゴユラン王家と死の商人たちがしこたま溜め込んだ魔法具だよぉ。古代のゴユラン王朝は、不老不死を求めて回復、治癒、蘇生、魂の輪廻、ありとあらゆる死を克服する研究をしていた。

 結局、悲願は達成されず出来上がったのは中途半端な死霊魔法や隷属魔法だ。

 古代遺跡の中には、失われた技術が多い。ゴユランはあの乾燥した土地柄、砂に埋もれはしたが腐食を免れた良質なものが多い。干害以外の天災が少ないからね」


「そんな確証のないモノに縋れと?」


 そういった伝説や伝承は、大なり小なり聞いたことが有る。

 ジュリアスも、幼い頃のアルベルティーナにそういった類を読み聞かせていた。

 娘に恋愛話はお伽噺でも地雷なため、ジャンルは非常に偏っていた。

 今思えば幼少期から、グレイル完全監修による恋愛ポンコツへの英才教育は始まっていたのだ。

 アルベルティーナの大好きなリスが主役の赤い絵本は、動物の仲間たちとのスローライフだ。スープを作ったり、パンを焼いたり、ジャムを煮たりしている。

 子供向けなのだが、柔らかな色使いでとても美味しそうに描かれている。

 多分、アルベルティーナの美味しいものへの願望はアレも原因の一つだと思う。


「ゼロではないよ。ゴユランの血族魔法は、後継者の劣化が酷い。周辺国の中でも特に落ちぶれたところだけど、その分をその遺物で補っていると僕は推測する。

 まあ、そのせいもあってサンディス王族は目の色や結界魔法が重要なファクターになるんだけど。

 もし、開戦でぶっ放して来たら『代償をもって願いを叶える』魔法具があると思って間違いない」


「そんな御伽話……」


「あるよぉ。今でこそ減ったけど昔は精霊や妖精は珍しくなく、天使も悪魔も存在が確認されていた。その一つが、サンディス王国にもある。といっても現存は一つだけだけど」


「それでアルベル様を癒せばよいのでは?」


「いや、ダメダメ。悪魔の天秤って言って、邪悪な存在を宿した代物だよ。下手に使えば、使用者や周囲の人間の魂を掠め取って、宿っていたナニカが復活する。

 そういった願望器系は、それこそ先ずは何か『ひっかけ』があると思った方がいい。無償なんて、それこそ神の領域だ」


 価値が高く、そして破棄の方法が分からないから厳重に保管されているという。

 王宮魔術師のヴァニアも封印の重ね掛けの時しか見たことがないが、それで十分禍々しさを感じた。


「重犯罪者の魂をくべてしまえ」


 レナリアなんて丁度いい、と真っ先にあの色狂いの少女の顔が出てきた。

 学園でジュリアスも散々付き纏われたし、聞きたくもない妄言や与太話に付き合わされた。

 今思えば、何度も渡されていた怪しげな贈り物は廃棄ではなく検品に回すべきだった。


「いや、悪魔にだって魂の好み有るらしい。下級はそうでもないけれど、階級が高いのはそれこそ奇跡の御業レベルの魔法を使う分、えり好みする。あのお姫様、そういうヤバイ奴の要らん興味を引きやすいし、悪魔と取引とか絶対しない方がいい。姫様の体は健康になったけど、魂は違う。体を乗っ取られていましたぁ~なんてオチとかありうるし」


「ならば、ゴユランの遺物も当てにならないかも知れないだろう」


 確かにジュリアスがもし悪魔だったら、レナリアよりアルベルティーナを狙う。

 納得しつつも、精神に異常が起こる可能性があるならばできやしない。

 しかし、やけに今日は饒舌だ。ヴァニアはいつもの砕けた、というよりだらしない態度は変わらないが何か隠そうとしている。

 会話をしながら、ジュリアスはヴァニアを観察した。


「いーや、ここ数年、あの魔王公爵がやけにゴユランの動向を気にしていた。基本姫様しか眼中にないなら、姫様関連だと踏んでいる」


「それだけで確定するには不十分過ぎる」


「だとしても、メギル風邪の薬は渡せない。主治医として黙認できない。流石に姫様がメギル風邪になったら渡さざるを得ないけど、それ以外はダメだ。姫様は魔力が強いから、投与する量も多くなる。終わりが見えない状態で投与し続けるにしては、薬が強すぎる」


 メギル風邪の高熱は長くて十日ほどだ。その十日間は意識朦朧として高熱に喘ぎ、やがて死に至る。その中で、特に酷い期間に投薬すればいいだけだ。

 強い薬というのは、臓器に負担がかかることが多い。

 毒と薬は紙一重なのだ。


「このまま、アルベル様が目を覚まさなかったら……」


「まああのお姫様の根性を信じるしかないんじゃない? そういうのと無縁そうだけれど」


「殴っていいか?」


「絶対ヤダ」


 いちいち癪に障る男だ。アルベルティーナは往診のあとに、彼と茶席を設けて喋ることが多い。

 珍しく、王宮の人間では比較的懐いている部類だ。

 性格や態度は少しアレだが魔法使いとしての技量は一流で知識量は豊富だし、何よりアルベルティーナを劣情交じりで舐めるように見ないからだろう。

 ヴァニアがしつこく付き纏うのは、アルベルティーナが王宮地下で見つけたという遺跡から持ってきたものに興味があるからだ。


「フォルトゥナの末坊ちゃん。まだ過程の状態だからハッキリ言えないけど、下手にメギル風邪用のモノを投薬すれば、姫様は悪化する可能性がある」


「悪化?」


 腕を組んだジュリアスが、眉根を寄せる。

 ヴァニアは立ち上がると、研究所に案内する。

 雑多に書物や素材が転がり、相変わらず汚い。また鼠が出てきてもおかしくない有様だが、何やらヴァニアが準備しているので黙っておく。


読んでいただきありがとうございましたー!


月末にはまた新たな情報が解禁になるかもー! 


ブクマ、評価、レビュー、コメントありがとうございます! 日々の糧です!


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