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『ジュリアス』となった子供6

ネチネチ系ジュリアス。拗らせてます



 みっともなく縋った。

 どうか考えを変えて欲しいと願って、提案をした。

 でも、どこかで納得していた。アルベルティーナは父親が、家族が、ラティッチェが大好きなのだ。その為なら自分の人生を捧げるのも厭わない。

 もし修道院に入ってしまえばジュリアスが会うのは難しいだろう。

 血縁でもない、義理でも繋がりもないただの一介の使用人であるジュリアス。

 彼女の身の上を考えれば、生半可なところでは無理だ。誰にも脅かされず、そして手が出せぬようにと堅牢な場所へ行くだろう。血を残すと今後のラティッチェだけでなく、サンディスの継嗣問題を脅かす。

 グレイルだって、アルベルティーナの安全は抜かりなくするだろう。当然、異性の出入りはかなり厳しくなるだろう。


「働きが足りませんでしたか? 従僕として、御傍に侍るものとして力不足でしたか?」


 無様に、なりふり構わず考え直させようと説得するジュリアスに、アルベルティーナは激しくはないが、明確な拒絶を示す。

 ジュリアスを大切だと、十分過ぎる程のお褒めの言葉を頂いた。

 でも、それ以上に彼女を悩ませ、苦しめるのは彼女の自身の境遇だった。

 使用人ではどうしようもない。アルベルティーナのせいでもない、生まれついての業。生まれてからの柵。あらゆるものが、とぐろを巻いてひしめいていた。

 ジュリアスでなくていい。他の男でもいいからそれだけは、と浅ましく言い募る。

 つくづく無礼で、諦めの悪い己に、自分で驚いた。

 どうにもならないことは、分かっていた。


「ありがとう、その言葉で十分です。安心していけますわ」


 ジュリアスの欲しい言葉ではない。

 我儘でもいいから、縋ってごねて欲しかった。

 普通の少女のように自由を求めて、愛や恋を探して、あがいてほしかった。

 もし、その目に、表情に、声に迷いや躊躇いが僅かでも出たら付け入ることができた。

 それなのに、今日に限ってアルベルティーナは揺ぎ無い。


「アルベル様……俺の言葉は届かないのですか……?」


 分かっている。届いていているけれど、アルベルティーナはそれ以上に強い決意を持っているのだ。

 もともと、グレイルの激しい束縛もあって恋愛どころか婚約者すらつけられていないアルベルティーナ。

 グレイルの意向を重んじ、息をするように機嫌を取り、当たり前のようにその決定に従う。お人形のようだと思うものもいたが、ジュリアスは分かっていた。

 アルベルティーナはグレイルの心の安寧を、幸せを望んでいる。

 だからこそ、不安がらせない様に、心配させない様にとお人形でいるのだ。

 そして、それはラティッチェ公爵家というコミュニティにも多大な影響を与える。

 魔王の箱庭の生活は、アルベルティーナの自由を犠牲にして成り立ったものだ。丁寧に、残酷に囲い込まれていた。実に大切にされた生贄だと言える。

 ラティッチェ父娘は共依存に似ていた。

 理解していても、それを壊す術をジュリアスは知らない。


 本当は、解っていた。


 ジュリアス自身すら、アルベルティーナにとって鎖だった。

 ずっとグレイルから守られていた。

 アルベルティーナの心だけは慮るグレイルは、如何に腹立たしく思っていてもジュリアスを処分することはなかった。

 ローズ商会の運営に携われていたのも、貴族として引き立てられたのも、アルベルティーナの従僕としていられたのも全てはアルベルティーナが望み、それを委ねたから。

 いつも、アルベルティーナから羨望と称賛のまなざしを注がれていた。

 だから、忘れてしまいそうになる。

 自分の程度というものを、勘違いしてしまう。

 それでも隙を伺い、捨てられない想いを抱えていた。

 大切で、幸せで欲しくて、だけど傷ついてほしくて――一人きりになった時に縋る相手になりたかった。

 公爵令嬢じゃなくても良かった。王女でも、ましてや王太女でなくてよかった。

 ジュリアスだけの唯一になってくれるなら、ジュリアスは何でも差し出しただろう。

 名前も、身分も、金も――


(それでも、足りない……俺の全てをなげうっても、頷いてはくれないだろう)


 その判断は正しい。

 だが、ジュリアスにとってはこの上なく絶望的な判断だった。

 アルベルティーナをグレイルから取り上げようとするのは、魔王の逆鱗に触れるに等しい。傷つけられるだけで凄まじく怒るし、王族相手に精神をへし折りに掛かるほどだ。

 幸運が重なりジュリアスがもし奪えたとしても、あの魔王は生きている限り執念深く追い詰めるだろう。王家の密偵や暗部よりも格段に精鋭な追手が放たれるのは容易に想像がつく。

 何度逃亡ルートや潜伏先を考えても、魔王の手から逃れられる未来は想像できなかった。

 だからこそ、ジュリアスにとってこのチャンスは一生に一度の最大の好機でもある。

 現状は問題が山積みで、グレイルの死で露見したマイナスは予想より遥かに多かった。甚大といっていい。

 窮地だからこそ自分が活躍できる場面が回ってきた。

 綱渡りも何度もしたが、その甲斐あってそれなりの成果はある。

 ジュリアスはアルベルティーナに選ばれた。傍にいて欲しい、信頼に足る人間であると求められた。

 なんだってする。

 なんだってしてやる。

 あの人の傍に居られるなら、なんだって。

 だからこそ、今更になってキシュタリアとミカエリス以外の人間が入り込もうとするのが嫌で仕方がない。

 能力がない、信用がない、覚悟がない。ないない尽くしの放蕩子息などもってのほかだ。

 彼女と共に地獄を歩み、時に命すら捧げる。それができないのなら、土台にすら立っていない。

 ジュリアス達ですら、アルベルティーナを支えるのにまだ足りないものが多いのだ。

 三人共闘しても、グレイルに及ばない。







読んでいただきありがとうございました!



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