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弟は辛いよ3

地味に地獄に巻き込まれがちなゼファール。


 

(おそらく、連中は途中で誘拐したのが王女ではなく公爵令嬢だと気づいたはずだ。

 国内に居れば、必ず兄様の鉄槌が下ると思い一目散に国外を目指していたが、後の祭り……兄様はすぐに国境やあらゆる検問に伝令を流していた)


 グレイルも軍部、私兵、あらゆるものを使って捜索に当たる予定だった。

 サンディス王家や王宮騎士隊の顔を立てる為と、周囲から圧力を掛けられ一週間グレイルは沈黙した。それでも裏であらゆる手を回していた。

 もし、誘拐されたのがクリスティーナの方なら皆殺しにしてでもあらゆる制止を振り切っていただろう。

 アルベルティーナだから待てた――この時点では、グレイルにとって娘より妻の比重が圧倒的に関心が大きかった。

 だが、一週間たっても見つからないどころかなしのつぶてだった。

 クリスティーナが心労で倒れ、いよいよ我慢ができなくなったグレイルは、先手を打っていた情報をもとに動きだした。

 初動捜査の遅れは、着実に犯人たちに猶予を与えた。

 潜伏先を見つけてはギリギリで逃げられること数回、だがグレイルの猛追は確実に追い詰めに入っていた。

 その誘拐犯の仲間を確実に仕留め、退路を断ち、資金を断ち、包囲網を作り上げた。

 倒れたクリスティーナの体調は悪くなるばかりで、見舞いの面会さえできない程に衰弱していった。


(クリス義姉様は会うたびに酷く窶れていた……)


 見舞うグレイルは慰めの花と共に、気を紛らす玩具ゼファールを置いていった。

 ゼファールは引き継ぐ領地も爵位もないため、武官でも文官でもなれるよう士官学校に通っていた。そこから拉致されてきたのだ。

 グレイルは娘を案ずるクリスティーナの懇願を聞き入れて、断腸の思いでアルベルティーナの捜索に打ち込んでいた。

 だんだんと体調が悪化するクリスティーナ。ゼファールだけでなく、古くからの友人であるパトリシアや実家のフォルトゥナ公爵家の見舞いすら断られるようになっていった。

 グレイルからの励ましの手紙に返信する筆も減ってから、彼女が儚くなったのはそう遅くはなかった。

 それから間もなく、古い貴族の屋敷に潜伏していた犯人たちは捕まった。

 逃亡期間はおよそ一か月。

 裏から手引きしていた当時の大臣も捕まり処刑。主犯として妻子、そして分家たちも処刑となった。

 警護を担当していたダンペール侯爵は、王宮騎士団長の地位を追われ、家も二階級爵位を落とされた。格式を示す『フォン』を残すか爵位を落とすかと迫られ、後者となったのだ。爵位は金銭で賄うか、婚姻で比較的早く取り戻せる可能性があった。だが、『フォン』を一度奪われると取り戻すのは難しい。

 そして伝統ある侯爵家はダンペール子爵家となり、一族が重役から締め出された。

 愛する妻が眠る棺に縋るように背を丸め、娘を取り返したと報告するグレイルの後ろ姿。

 あの時、ゼファールは帰る場所を無くした子供のように見えた。

 いつも大きく悠然と聳え立つ兄が、クリスティーナと同じように儚くなるのではと危惧すらした。


(しかし意外だった……あの極度の人をえり好みする兄様が、クリス義姉様との実の娘とは言え代替になる存在に値するようになるなんて)


 外見の強力なアドバンテージがあるとはいえ、あの兄である。

 娘なのでクリスティーナに対するような異性愛は持っていないが、あの人でなしが今更になって父性を持ち合わせるとは思わなかった。

 そもそも、ゼファールにしてみればあのグレイルが人を愛することを覚えたのが奇跡だとすら思っている。どんな形でも二度目はないと思っていた。


(小さい頃は結構勝気そうな子だったけど、誘拐のトラウマで兄様にべったりになったって聞くし……いやいや、だとしても兄様が鬱陶しそうにする姿しか想像できない)


 実は中身が平和ボケした異世界産のポンコツの魂と入れ替わっているなんて知る由もないゼファールである。

 もとのアルベルティーナが勝気どころか性根から苛烈・傲慢・我儘の真正悪女の卵だったのが、グレイルの前だけふにゃふにゃに安心して笑顔を振りまく豆腐メンタル泣きべそトラウマ娘に変貌したのだ。

 その後は、魔王をはじめとするラティッチェの人々に溺愛されて、どこに出しても恥ずかしい世間知らずなファザコンポンコツの出来上がりである。

 

(良くないのは殿下の体調もだけど……元老会や貴族たちの足並みがそろい始めた)


 グレイルが死後、いがみ合っていたり手を組んでいたりしていた連中が一気に変化した。

 協力関係を強化する者達もいれば、グレイルがいなくなれば手を組む必要がないとばかりに決裂したところもある。

 水面下で足の引っ張り合いをしながら、派閥が出来上がり序列もできた。

 表はアルベルティーナの喪が明けるのを待って全面対決だが、誰もが抜きんでたいと思っている。競合相手を出し抜き、アルベルティーナに近づきたいと考えている。

 ヴァユの離宮に忍びこもうとした人間は両手両足でも足らない。

 ガンダルフが叩きだしているが、それでも後を絶たないのだ。

 滅多に離宮を出ないアルベルティーナだが、稀に王宮図書館などに足を向けることがある。

 最近は体調の悪さもあり使用人に頼むことが多いが、明らかに偶然を装って近づこうとする者達が見受けられた。

 

(既成事実を作ろうという馬鹿が出るかもしれない……幸い、社交には消極的で良かった。

 エルメディア殿下のように虚栄心が強いタイプだと、サロンやお茶会の振りして呼び出せば嵌め易い。

社交好きどころか、王太女殿下は敬遠しているから)


 既にメザーリンとオフィール、エルメディアが初回の茶会で盛大な失敗をしている。

 大暴れしたエルメディアの失態は知れ渡っているし、もとより消極的な社交を厭うように情報を仕向けても不自然でない。

 その辺の情報はパトリシアとジュリアスが上手く操作している。


(局面が動き出す頃合い……さて、お姫様の三人の王子様たちはどう動くかな?)


 丁度いい見せしめにできそうなのが一人、投獄されている。

 ミカエリスとキシュタリアは遠征から凱旋に相応しい功績を携えて帰ってくる。ジュリアスは手の内で研ぎ澄ました刃が獲物を探している頃合いだ。

 




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