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囁くもの 後

その男、怪しいですよ。レナリアさん。


 美形なうえ、優美な物腰や上品な所作から察するに間違いなく貴族。

 レナリアと約束があって会う時は銘菓と呼ばれる手土産や宝石やドレスを惜しみなくプレゼントしてくれる。

 今日も老舗のジャムクッキーを持ってきてくれた。

 ローズブランドのチョコレートやマカロンなど方がここ最近は流行している、王都でも数量限定の薔薇ジャムは手堅くも人気の商品だ。

 勿論、レナリアも食べたことがある。

 学園に居た頃、ルーカスがよく茶請けとして用意してくれていたものだ。

 王妃メザーリンやエルメディアの好物らしく王室御用達だと言っていた。

 あの時は良かった。男爵家とは言え、国の第一王子に気に入られていたレナリアの前に誰もがひれ伏した。

 マナーが悪いと女教師のように五月蝿い上位貴族など鼻で笑えた。

 余りに五月蝿ければ、ルーカスたちに言えばどうにでもなったのだから。

 あの時、アルベルティーナさえ来なければ今もレナリアは学園の女王として君臨で来ていたのだ。

 だが、レナリアは過去の栄光だけにするつもりはない。

 ずっと、一番のヒロインとして輝いて見せる。

 『君に恋して』のヒロインはレナリア・ダチェス――自分なのだから。それ以外の存在は、自分を引き立たせるだけのものだ。


(でも、この男は私のモノよ。攻略キャラクターじゃないけど、やっぱりこの世界ってイケメンが多いわよね)


 腕を取り、無い胸に押し付けるようにしてつかまえていたレナリアはうっとりとすり寄る。

 彼はコンラッド・ダナティア伯爵。彼の捉えどころのないところは、レナリアが手に入れることができなかった魔王に、どこか似ていた。


「ねえ、コンラッド。折角だからお出かけしたいの」


 小首をかしげて見つめれば、大抵は言うことを聞いてくれる。

 男への取り入り方をよく知っているレナリアの、十八番の仕草だ。

 コンラッドはパーティなどではあってくれるが、なかなかデートはしてくれなかった。

 レナリアは自分がお尋ね人だということを棚に上げ、潤んだ瞳でしなをつくる。


「デートですか?」


「そう、デート!」


 ここにジェイルが居たら「ふざけんな」と怒鳴り散らす提案である。

 まだ来たばかりのコンラッドはほとんど中身の減っていない紅茶を揺らし、困ったように微笑む。


「ふふ、解りました。他でもない貴女のお願いならば」


「嬉しい!」


「そういえば、以前お渡しした聖杯の使い心地は如何ですか?」


「凄くいいわ! 肌も髪もすっごく綺麗になったの!」


 だが、その代償として奴隷をいくつか手放すこととなった。

 ほとんど薬漬けで愉しみ甲斐のなくなったゴミなので、レナリアはさして気にしない。

 あの『聖杯』は少し欠陥がある。願いの代償が必要なのだ。

 レナリアは美と引き換えに奴隷の命を捧げた。

 だが、お陰で肌の調子もすこぶるいい。水煙草やお菓子を食べ過ぎると、すぐに顔にニキビができたし、浮腫むことがあった。

 水煙草は吸っているときは気持ちいが、途切れると頭痛や吐き気がする。

 レナリアは聖杯を指先で弄び、見せびらかすように軽く振った。


「ねえ、これで私を王女や聖女にできないの?」


「それに直接願うには、その願望器では厳しいですね。だが無理ではないですよ」


「方法があるのね?」


 コンラッドは笑った。そうだと言わんばかりに。

 レナリアは唇に笑みが浮かぶのが抑えられなくなった。

 この聖杯は生命や魔力などのエネルギーを捧げればそれ相応、もしくはそれ以上の願いを叶えてくれる。


「この聖杯を使って、聖女の奇跡を起こせばいいのですよ。

 レナリア・ダチェス――貴女は本物の聖女になるのです」


 コンラッドの言葉は甘美に響いた。

 レナリアの仄暗い自己肯定感を、歪んだ虚栄心を満たしていく。

 耳にささやかれた甘い言葉は、どんな美酒や水煙草よりもレナリアの心を蕩けさせた。

 そして何より安堵した。


(聖杯があれば、正しいヒロインルートに戻れるわ!)


 こんな溝鼠のように、暗がりで息をひそめなくてよくなる。

 ヒロインらしく、正しく皆に愛され尊敬される存在に返り咲けるのだ。



読んでいただきありがとうございました!


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 本編、そろそろガツンと大騒動を淹れたいなーとか思っています。伏線回収いっぱいできるといいなー

 でも入れ切れていない分もあるので、色々考え中。

 ブクマ、評価、レビューありがとうございます。

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