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損な役回り

ジェイルさんは下っ端ではないのですが、なまじ仕事ができるのでボロが出過ぎるレナリアを押し付けられている系。



 ビーンがなんとか大人を探して呼んでくると、床に点々と転がっていた奴隷たちはすべてこと切れていた。

 一人二人ならわかるが、一斉に息を引き取っていたのだ。その不自然さに背筋が泡立つのが分かる。

 レナリアは怯える女奴隷にドレスを着せてもらい、大きな宝石が付いたネックレスを並べて比べていた。自分にどれが似合うかと聞いている。

 レナリアは時折女奴隷を買って、『令嬢とメイドごっこ』をする。

 そして飽きると女奴隷をことあるごとに当たり散らし折檻し、処分する。

 女奴隷もそれが分かっているのだろう。今はまだ処分されずとも、レナリアの望む答えを出せなければ鞭打ちになる。御仕着せに隠しきれないボロボロの指先や、無数の赤い筋の残る手はまだ生々しい程だ。

 不興を買わない様に媚び諂い、引き攣った笑みでレナリアを褒めたたえている。

 ビーンはなるべく目に留まらない様にとこっそりと部屋を後にした。

 そこで、本来の部屋の主が戻ってきた。


「おい、ビーン。どこ行ってた」


「あの、ジェイル様のお部屋に。その、レナリア様が」


「チッ! アイツ、俺の部屋で奴隷遊びをしやがったのか」


 何か畏まった仕事なのか、いつものタンクトップやゆったりとしたズボンではなく礼服を纏っていたジェイル。

 ぱりっとした漆黒と臙脂のナポレオンジャケットと、トラウザーズ。ダークブラウンの革靴。

前髪はすべて上げ綺麗に撫でつけていた。きちんと梳り、整髪料も使っているのだろう。暗めの赤髪はいつもより艶がある。普段は隠れ気味になっている精悍で鋭い顔立ちが露になっている。

 いつものように半端な姿勢や猫背ではなく、きちんと背筋を伸ばしている。そのせいか、絞られた体躯と長身が際立つ。

 この姿を見ると、貴族に見える風格である。

 すこぶる風采豊かで、一角の人物のようだ。


「ジェイル様、かっこいい!」


「おう、ありがとな」


 レナリアのことで顔を歪めていたが、ビーンの羨望交じりの称賛にくしゃりと顔を柔らかくする。たったそれだけで、一気に気安い雰囲気になる。

 ビーンはジェイルが好きだった。仕事にはシビアだが、無茶なことを通してこないし気まぐれに折檻などしない。そして何より、強い。本物の実力者だからだ。


「恋人ですか?」


「オンナならそこまでしねぇ。旦那に会いに行ってたんだ。小汚い姿はみせらんねぇからな」


「旦那様、ですか?」


 ビーンには分からない、この組織の上役だろうと見当をつける。

 後ろ暗い組織にはあることだが、下はどこかで監視されるが上は靄がかっていて見えないのはよくあることだ。

 いつも上との遣り取りをするときは気怠そうなジェイルが、珍しく少年のように屈託のない笑みを浮かべる。


「ビーン、お前は見込みがあるから生き残れ。旦那に口利きしてやる」


 ビーンの帽子ごと頭を撫でる。大きなその手の平は暖かい。

 父に捨てられ、母に売られたビーン。彼にとって、この暖かい手の平はジワリと染みる。


「あ、あの旦那様は……」


「忙しいお方だから、今は無理だ。で、あのアバズレは?」


「今はドレスを着て、外出? いえ、あれは来客の用意をしていました」


「あいつ、アジトに男を呼んだのか……っ」


 先ほどの笑みが嘘のように、怒りに染まって凶悪な表情になるジェイル。

 ビーンの記憶にあったレナリアは、綺麗に装いを整えていた。だが、ボンネットやコートや日傘といったものは用意していなかった。


「ジェイル様の部屋で、その、奴隷でお戯れになっていたようで……」


「クソ、マジで追い出す」


 今にも殴り込みそうなジェイルは、足をレナリアのいる場所へと向けようとする。

 その後ろ姿にはっと気づいたビーンは、とっさに留めた。


「あ、やめた方がいいです」


「んだよ!?」


「今のジェイルさんを見たら、レナリア様がジェイル様に相手をしろといいます!」


 絶対に言います、と念押しするようにビーンは言った。

 レナリアは金のありそうな男が大好物だ。今までの見るからに荒くれ者のようなジェイルならともかく、今のジェントルスタイルを見ればすぐさま猫撫で声ですり寄るだろう。

 普段の粗野な姿ですら引っ掻けようとすることは何度もあった。

 想像ができたのだろう。ジェイルげんなりとした表情も隠そうとせず、整えた髪をぐしゃりと崩して、乱雑に混ぜた。そして上着を脱ぎ始める。ビーンの言葉に納得したが、思うところは多そうである。

 レナリアの見境のなさは、ますます悪化している。

 着替えてから行くことにしたらしい。





読んでいただきありがとうございました!


 <告知!!>

『転生したら悪役令嬢だったので引きニートになります』は2021年5月1日アイリスNEOより書籍化になります!

 イラストは八美☆わん先生が担当してくださってます!

 さらに詳しくは活動報告に改めて乗せさせていただきます!

 株式会社一迅社様の公式HPでも情報ありです!




 

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