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行方と考察2

なんだかんだで仲がいい二人


 ミカエリスは聖水晶の相場は知らないが、キシュタリアが高いと断言するくらいなのだから相当なのだろう。

 ラティッチェは多くの事業を持つ非常に裕福な貴族である。ドミトリアスも肥沃な大地に人気の観光施設があって裕福だが、ラティッチェには及ばない。


「そうするくらいなら、いっそ普通の棺のほうが無難だと?」


「黒い木製の棺は一番一般的だからね。先入観が強い。棺桶といえば、普通はそう思う。

 父様はラウゼス陛下の御意向により国葬だった。それにかこつけて、霊廟に入れるまで取り仕切れるよう干渉したんだろう。

 墓守は霊廟を開くことと閉じること。この二つだけしか許されず、ほとんど遺体を安置するときに立ち会えなかった。

 恐らく故意に遠ざけられていたんだろう。

 何も知らなければ、普通の黒い棺に入っていると思うはずだ。事実、案内をしてくれた墓守は父様の棺に違和感を覚えていなかった」


 喪主は国葬なのでラウゼスの名ではあったが、花や棺の手配はラティーヌやキシュタリアの意向を汲んでくれていた。

 分家や元老会がだいぶ口を挟みたそうにしていたが、しっかり睨みを利かせてくれていた。


(……父様が少なからず王と認め、信じた人を疑いたくない)


 アルベルティーナも、ラウゼスには比較的懐いている。

 あの二人あまり似ていないようで、人を選ぶところはよく似ている。しかも、その判断力が結構馬鹿にできないのだ。

 甘いな、と苦笑しながらも気を引き締めた。

 キシュタリアは改めて自分の推察の結果を述べた。


「替え玉の死体と聖水晶の棺。この二つを用意するのは苦労するだろう。

 聖水晶の棺など間違いなく特注品になるし、値も張る。資金繰りが噂になることや、棺を依頼したところから足が付く可能性がある。

 棺と死体、どちらかにでも違和感を持たれてしまえば危ういのであればいっそのこと黒い棺に適当な遺体を隠した方が無難と踏んだのだろうな」

 

 透明な棺だと中身は丸見えだ。副葬品だって見えてしまう。

 不自然に無くなっていたり配置が動いていたりしたら、置いていたものが置いていたものだけに気付くだろう。

 中が透けない黒棺にしたのは、そういったのも理由かもしれない。


「いつ入れ替えたんだ?」


「母様と僕は、霊廟の入り口までしか見ていない。

 だけど、入れる前の棺桶には国葬を意味する王家の紋章入りの白い布がかぶされていた。

 あの霊廟にあの時以外で出入りするのは相当難しいから、その時には入れ替わっていたんだろうと思う。

 父様の姿を最後に見たのは、棺に蓋をして……」


「布が掛けられるまでだな」


 頷くキシュタリア。

 確か、そのあとは霊廟にという運びになっていた。ラティーヌとキシュタリアは親族として、色々と儀式的な手続きをしていた。その後、グレイルが入っているだろう棺桶が霊廟の中に運ばれるのを見送っていた。

 人の心に付け入るようなやり方だ。

 家族の死に喪失感を味わっているなか、どうしても目を背けてはならないこれからのことにラティーヌもキシュタリアも心中は苦しいことだったろうに。


「いくら国葬だからって葬儀が初めてだからって、任せすぎた。僕の失態だ」


 自責の色をにじませ、キシュタリアが呟く。


「だが、公爵の行方に気づいたのはお前の手柄だ。危険を冒してまで霊廟に踏み入ったその度胸は称賛する」


「行方って、遺体が盗まれたって知っただけだ。ラティッチェの墓を暴いたという事実は変わらない。

 しかも父親の遺体を奪われたなんて、間抜けもいいところだ」


「腐るな。私と話すまでお前は自分を律した。怒りに吞まれなかったのだろう。感情のまま当たり散らさず、今後の為に耐えた。大したものだ」


「気持ち悪いくらい褒めてくるな。なに? ゴユラン兵と徒党を組んでる流民崩れでも焼き払ってほしいの?」


「解っているじゃないか。ついでに廃坑ごと潰してくれ。奴らの根城だ。そこそこ追い詰めてはあるが、歩兵であそこに踏み込めばそれなりの被害は免れぬ」


「いいよ。丁度イラついてるし。多少地形が変わっても文句言わないでよ」


「望むところだ。あとはグレグルミー辺境伯が何とかするだろう。彼の領地だ。不幸な事故だが、恐らく廃坑のどこかにガス溜まりでもあって崩落したのだろう」


 キシュタリアはグレグルミー辺境伯がそんなことを望んでいないことなど分かっているのだろう。

 胡乱な目でミカエリスを見ているが、それが強引に縁を結ぼうとした意趣返しと気づいたのか何も言わなかった。

 理解ある幼馴染である。

 すっかり切り替えたのか、長い脚を組んで小生意気な笑みをたたえるキシュタリア。

 魔王ジュニアと称される相応しい不遜な笑みは、甘い顔立ちに危険な艶を乗せる。

 ミカエリスは一枚の地図を懐から出す。概ね頭に叩き込んであるが、仔細まで書いた自分用の地図を持ち歩いているのだ。


「奴らのアジトは概ね分かっている。ここと、ここ」


 そういって指さしたのは森に覆われた廃坑。

 その中でも落盤事故が起きていない、比較的新しいところだ。

 そして、斥候達が何度か敵勢を目撃した場所だ。

 入り組んでいる為、下手に近づいたら四方を囲まれ狙い撃ちにされる。足場も悪いため数でゴリ押すにも難しい。

 緑が生い茂り詳しい出入り口は隠しているがこの周辺を攻撃されたら、元は少数で自分の砦や街を持つことすらままない集団だ。致命的な事となるだろう。

 廃坑にいる敵対勢力は複数の少数部族や、逃げ出した奴隷たちが殆どだ。

 グレグルミーの砦を落とすという共通の目的の為に、ゴユランとは一時協定を結んでいる可能性が高い。

 本当の意味では結託していないとミカエリスは踏んでいる。

 どちらかが極めて危機的状態になれば、共倒れは御免だとみて見ぬふりをするか、自分だけでも助かろうと突き放すだろう。


(ましてやゴユランは獣人や亜人だけでなく少数部族らも見下している。

 分が悪いと分かればさっさと見切りをつけるだろう。利がない限り、危険を冒してまでは手を貸さない)


 奴隷や亜人のゲリラ部隊が撹乱や陽動をしたところで、後ろからゴユランが狙う。

 たまに役割が逆転するが、他方から攻め入って隙をネチネチ狙うのが彼らの得意戦力だ。下手に深追いすると、罠へ誘い込まれ砦を陥落させようとしてくる。


「奴隷や亜人などの部族が今後の助力を見込めない被害を受ければ、ゴユラン兵は引くはずだ。

 自分たちの犠牲を覚悟し、食糧や物資を分けてまで加勢しようとしないだろう」


「ふぅん、確かにちょっと広範囲火力がある魔法使いがいればそう難しくないね。応援が来なかったの?」


「ああ、最初にグレグルミーに来た時からずっと要請しているが一度も来ない。そのせいで無駄過ぎるイタチごっこをする羽目になった」


「了解。山火事になったら困るから、火はやめとこうかな。本当に爆発しても困るし」


 鉱山にガスが出ることはけして珍しくない。

 掘削中に散った火花に引火して爆発し、崩落事故が起こることは実際にある。


「ミカエリス」


「なんだ」


「貸し一つね」


 甘い美貌に悪戯っ子というには、いささか毒の強い笑みキシュタリア。

 いつもの彼に戻ったな、と内心嘆息しながらもさらりと切り返す。


「アルベル関係以外なら、考えておこう」


「ケチ!」




読んでいただきありがとうございました!


書籍化の方ですが小説以外にも動きがあるかもです。

一部では情報公開がありますが、明確な告知は申し越し先になりそうです……

滅茶苦茶喋りたいですが、少々お待ちを。

告知詐欺のようで申し訳ないですが、ちゃんと企画は進んでおります。

楽しみな私が空回っているだけです!




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