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毒蛇の姦計2

これで完全に息の根を止めるつもりはない。




 マクシミリアン家の豪遊と横暴ぶりは王城にすら届いた。

 その品のない言動に眉を顰めるものは多かった。どうやって王太女殿下を騙したのだという噂でもちきりになるほどだった。

 国王ラウゼスの耳にもそれは入っていた。元々、要注意人物として様子は見ていた。余り構ってやれないが可愛がっている義娘の周囲に度々現れていては随分な狼藉を繰り返していたと聞く。

 はっきり言って、心象は最悪といっていい。

 ラウゼスにしてみれば、義娘に集る悪い虫以外の何者でもない。

 そんな折、当のアルベルティーナがラウゼスに内密に会いたいと先触れを出してきた。

 嫌な予感しかしない。


「では、マクシミリアン侯爵家嫡男のヴァンを王配候補へあげたいと?」


「……ええ」


 その表情は浮かないものだ。

 しかしすぐ取り繕われた。顔は笑っている。微笑んではいるが、作り笑いだ。

 ラウゼスがアルベルティーナの本当の笑みを知らなければ騙されそうな上手な表情だった。

 剣技大会の会場の貴賓室で、グレイルの話をしたときのアルベルティーナの笑みはとても愛らしかった。グレイルが天使だと臆面なく言っていたが、その通りの見ているこちらが幸せに満ち足りるような、花咲くような笑顔だったのだ。

 不自然なアルベルティーナを眺めながらも、ラウゼスは声を上げてその話を棄却はしなかった。

 腹の中では結論が出ていたが、そのどこか悲しそうな目を見て事情を察したのだ。

 良い相手ができたなどと、とてもではないが言祝ぎを掛けられる様子ではない。


「良かろう。一度話は預からせてもらう」


「お願いいたします」


 そういって優雅にカーテシーを披露する義娘。

 いつ見てもその所作も雰囲気も優美で典雅だ。まさに貴婦人というべき姫君だ。

 ラウゼスはほとんど手も付けられず残った紅茶と焼き菓子に息を吐く。甘いものは好物だと聞いていたし、好みの銘柄の紅茶も押さえたはずだ。

 愛娘の話となると饒舌になる今は亡き家臣から聞いたから違いないはずだ。

 少し背もたれに身を預け考え、信用ある配下にとあることを調べさせた。

 数日後、アルベルティーナの元に「今のヴァン・フォン・マクシミリアンは王配に値する器ではない」とかなり却下寄りの保留という返事が来た。

 アルベルティーナからの申し出によりマクシミリアン侯爵家の王配候補への打診を行なった。余りの素行の悪さに温和な国王ラウゼスや、元老会すら大反対してその話は一瞬で立ち消えになった。

 未だにポーター子爵家の令嬢との婚約を白紙に戻していないのもあっただろう。破棄でも白紙撤回でも、それなりの手続きは必要なのだ。

 しかも、マクシミリアンは多額の負債を抱え、ポーター家から持参金を前借している状態である。それを清算した形跡もなく、交渉にすら手を付けていないようであった。

 踏み倒そうという魂胆だろう。

 そうでなければ、アルベルティーナから出させるつもりとしか思えない。

 いずれにせよ、アルベルティーナや王家に泥を塗るのは明白だ。

 ラウゼスは念のためヴァンの装飾品にサンディスライトがないか調べさせたが、無かった。その代わりに、アルベルティーナから貰った事業資金で買い漁った成金じみたいかにも趣味の悪い貴金属は多くあったらしい。もはや溜息と頭痛しかない。

 やや辛辣なほどの却下を下したラウゼスの判断は程なくしてヴァユ離宮に届けられた。

 その手紙に安堵したアルベルティーナである。

 だが、逆に真っ青になって飛び上がったのはマクシミリアン侯爵家だった。

 国王直々にヴァンは勿論オーエン達も素行が悪いとお達しが来たのだ。このような男に王太女でもある義娘をやることも、隣に立たせることもできないとはっきりと忠告されたのだ。

 王籍に属す気があるなら、それなりの品位が求められる。

 そうでなければ、黙らせるほどの力が必要だ。

 一番は両方を具えていることだが、マクシミリアン家はどちらもない。

 元老会からもこのような人間を王族に迎え入れることは看過することはできないとの判断があったのだが、そこは黙っていたラウゼスだ。

 追い詰められ過ぎた人間は碌な事をしないと知っていたからだ。

 大慌てになって何か実績を出そうとするオーエン。だが、付けられた会計士から衝撃の通告があった。


「もう資金がありません。王太女殿下からいただいたものは底を付いております。

 未払いの請求が来ておりますが、こちらで払いませんのでそちらに回します」


 マクシミリアン侯爵家の税収の数倍の金額の請求書が、オーエンに回されてきたのだ。

 中には酒に酔い過ぎていたのか見覚えのない請求もあった。

 だが、ダントツに多かったのは夜の店――歓楽街でも、特に花街関連だった。それを見た侯爵夫人はカンカンに怒って実家に帰ってしまった。

 その際に、さり気にドレスと宝石類はきっちり回収していった。

 今まで、散々と一緒に贅沢をしてきたのに今更そっぽを向いて知らないふりをし出したのだ。離縁まで求められたが、当然認めない。何せ、請求書の中にはたくさんのドレスや貴族御用達の高級ジュエリー店の物もあったのだ。


「ふざけるな! お前だって散々使い込んだだろう!」


「買っていいっていったのは貴方でしょう!」


 妻の実家に乗り込んで、醜い罪の擦り付け合いが始まった。

 大醜聞の気配に周囲が面白がっていることなど知らず、声高に罵り合いを度々起こすようになった。

 両親の離婚の危機だというのヴァンは入れ込んでいた娼婦の元へと通い詰めていた。

 なんでも長いブルネットと緑の瞳をした大層美しい女性だという。人気の高級娼婦に手玉に取られに体よく絞り取られている馬鹿なお坊ちゃんとヴァンはもっぱらの評判である。

 ヴァンの婚約者はまだカルラのままである。ポーター家とも切れていないというのに、すっかり高級娼婦に相当入れ込んでいるようだった。回されたものの中にはヴァンが使わないような宝飾品店や女性用ブティックからの請求書がある。

 オーエンは多少の火遊びも男の甲斐性だと思っているが、これは完全に手の付けられない山火事状態になっている。

 色々な知り合いや金貸し、癪であるが一応ヴァンの婚約者のポーター家にも融資や資金援助を頼んだがなしのつぶてだった。

 金を湯水のように使っていた時はたくさんいた『友人』たちも一斉にそっぽを向いた。

 最後の砦であるアルベルティーナに追加の資金の申し出をしたが、会計士から全く進んでいない事業の様子を聞いて援助は打ち切りになった。

 周囲からは王太女殿下からラティッチェ公爵家の分家という立場を盾に事業をもぎ取ったものの、大コケしたと失笑の的となることとなったマクシミリアン家。

 散々事業を寄越せと強請っておいて、いざ渡せばこの散々たる有様である。




読んでいただきありがとうございました。

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