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魔王の城2

ある意味推理ゲーム。ごく一部以外には超難解。

 魔王の部屋はアルベルティーナ以外には極めて危険な場所である。それはその部屋の持ち主が亡くなっても後も変わらないようだ。

 もう一つの部屋には、亡きクリスティーナの思い出の詰まった部屋だった。

 赤子のアルベルティーナを抱いたクリスティーナとグレイルが並んだ肖像画があった。それ以外にも、グレイルとクリスティーナが並んだ肖像画がいくつもある。

 その一つのアルベルティーナを膝にのせているグレイルなどは、アルベルティーナにしか見せぬような柔らかい表情だった。事実、絵の中のグレイルは愛娘しか見ていない。

 ケースにはタイピンや簡素な髪留め、そして短剣が並んでいる。もしかしたら、昔のグレイルは髪が長かったのだろうか。肖像画を見る範囲では、それほど長髪にはしていない。


(……赤ん坊のころはあるけど、そのあとはちょっと成長したアルベルの肖像画しかないな)


 クリスティーナを偲ぶ部屋には赤ん坊から歩けるようになったくらいのアルベルティーナが一緒にいた。

 大抵はクリスティーナが手を繋いでいるか、抱っこしている。

 隣のアルベルティーナ所縁の品がある部屋は、五~六歳くらいに見える。幼い頃のアルベルティーナは小柄であったし、もう少し年上の可能性がある。引き取られるまでガリガリの浮浪児のようだったキシュタリアと背の高さも大して変わらなかったはずだ。

 かわりに、クリスティーナ単品の肖像画が多い。


(体が少し弱い人って聞いたし、三人の肖像画が難しかったのかな)


 クリスティーナの肖像画は、立っているものより座っているものが多い。

 そういう構図が好きなどというこだわりは、グレイルにはなさそうだ。

 それか、もしかしたら幼少期のアルベルティーナはもっと体が弱かったのかもしれない。


(ジュリアスは、昔のアルベルは酷く恐ろしい女の子だったって言っていたけれど……)


 虚弱であるとはいっていなかった。

 それか虚弱体質が霞むほどの苛烈な性格だったのかもしれない。

 だが、キシュタリアの記憶にある幼いアルベルティーナは、初めて見る人間に怯えている姿か、できた弟にお姉さんぶりたいちょっとませたように振舞う姿だった。

 飾られている肖像画に、やはりアルベルティーナは母親似だなぁとつくづく思う。

 もう一度アルベルティーナの肖像画がメインの部屋に戻ると、一枚だけそれほど大きく無いもののアルベルティーナとグレイルだけでなくキシュタリアとラティーヌも並んでいる肖像画もあった。

 意外だな、と自分の視線より少し下にある肖像画をまじまじと眺める。

 大して目立たない位置にあるし、大きくもない。少し手を伸ばせばとれる場所にある肖像画。額縁含めても、一番大きなアルベルティーナ一人だけの肖像画の四分の一以下のサイズ。

 父の好みではないのに、なんでここに紛れているのだろうと思いすらする。

 あの前妻と娘溺愛のグレイルならば、すべてを二人で埋め尽くして自分の肖像画すら置かなそうだ。

 そしてピンときた。

 これは『アルベルティーナが喜び好みそうな家族の肖像画』である。

 そして『アルベルティーナの視線』に入りやすく『アルベルティーナでも手を伸ばせばとれる場所』にあり『アルベルティーナでも持ち運べる大きさ』である。


(アルベルへの贈り物、だね。うん)


 その肖像画をとると絵の裏には鍵が括り付けられ、壁には何かが嵌め込まれていた。箱の中には紙片が折りたたまれていた。

 ちょっと宝探し感覚でワクワクする。

 これは完全に『アルベルティーナの嗜好と行動をいかに読めるか』にかかっている。


(……父様がアルベルに渡したかったものだ。ちゃんと教えてあげなきゃ。この肖像画だって、見たらきっととても喜ぶ)


 一応調べて、おかしな仕掛けがこれ以上なかったら渡そう。

 アルベルティーナが持っても平気でも、額縁を拭こうとした侍女や侍従の過激なウェルダンになるような仕掛けがあるとも限らない。

 キシュタリアは部屋を出ると、ソファとテーブルのある場所で一息つく。

 紙片を広げるとそれは遺言状になっていた。

 爵位に関しては意外なことにきちんとキシュタリアに相続させる旨があった。

 正式な遺言状は金庫にしまってあるから、キシュタリアに相続させていいなら公表し、他の譲りたい人間が居たらもう一つの遺言状をつかって一度自分で受け取るようにアルベルティーナへ指示があった。

 たとえアルベルティーナがラティッチェを相続しなくとも、アルベルティーナにはローズ商会をはじめとする事業や店舗、その他爵位を数多として受け取る形となっていた。

 ラティッチェからどうしても出たいなら、幾つか良い物件や街を用意してあると記載してあった。

 アルベルティーナの大人しい性格を鑑みても、普通に問題なく一生を過ごせる。

 改めて言っちゃなんだが、キシュタリアが添え物にも程がある。

 グレイルはそういう父親である。知っていた。

 それ以外にもラティッチェに伝わる当主の指輪やいくつもの契約書を金庫から見つけた。

 きっとこれらを分家の連中は欲しがっていたのだろう。

 見る限り鍵や箱にもアルベルティーナの魔力を感知する仕掛けが施されているようだ。アルベルティーナが手作りの贈り物をするのは極めて近しい人間に限られているし、他の人間が間違えて開ける可能性は極めて低い。

 魔力入りまで限られるとアミュレットくらいだろう。

 偶然か必然か。何処までグレイルの手の内なのだろう。

 ふと、最後の紙片はやけに空白が目立つ。持ち上げてしばらく眺めていると、するると音もなく文字が移動して余白に一文を記した。



『元老会は残らず潰せ』



「……僕へのメッセージはこれかぁ」


 王家よりフォルトゥナ公爵家より、グレイルにとって本当に疎ましいのは元老会なのだろう。

 フォルトゥナ公爵親子はそろってアルベルティーナに甘くなっている。それはグレイルを失わせた原因の一端を担っていることや、ラティッチェを奪いかねない事態になったこと、そしてそれによりアルベルティーナを肉体的にも精神的にも痛めつけた。

 溺愛の裏に渦巻く後悔。全てが後ろめたいのだろう。

 必死にアルベルティーナに集る強欲な貴族たちを払っている反面、アルベルティーナの成すことには手助けを惜しまない。

 キシュタリアにしてみれば「何をいまさら」と言いたいが、利用できるものは利用させてもらう。

 アルベルティーナにすり寄る元老会(死にぞこない)分家(ハイエナ)たちを思い浮かべて「分かっていますよ」とピンと指で紙を弾いた。

 それを合図の様に紙の中の文字がぐにゃりと歪んだ。


『元老会は死の商人とつながっている。

 血繋ぎの儀を行う前に必ず潰すか、アルベルティーナを連れて他国へ逃げろ』


 キシュタリアは絶句した。

 死の商人は色々と後ろ暗い裏社会の重鎮だ。国としてもきっても切れない厄介でありながら持ちつ持たれつのところがあるという。


(血繋ぎ? なんだそれは……随分物騒な名前の儀式だな。いや、血統的な事か? 継嗣、後継……つまりは婚姻か? それもと魔術的なこと? 生贄……いや、アルベルは貴重な王家の瞳の持ち主だ。殺しはしないはず……) 


 グレイルがラティッチェを捨ててまでして逃げろというくらいだ。

 アルベルティーナに致命的な傷を与える可能性が十二分にある。

 暫く考えたが、悩んでも仕方がないと一度断ち切った。元老会は引き続き警戒する。それは決定事項だった。

 テーブルに転がっていた当主の指輪を拾い上げ、指にはめようとして――何もないはずの輪の間に指が入らない。まるで、見えないガラスがあるように指がつっかかる。

 ためしに傍にあった羽ペンを通してみたらあっさり通過。タイピンも革紐も通る。

 恐らく、人の指だけ入らない様になっている。

 義父を思い出させるような青い輝きのカットジュエルがせせら笑う様に輝いている。

 でも、これは絶対アルベルティーナはあっさり付けられる気がする。一度、王都のアルベルティーナに会いに行くことにしたキシュタリアだった。




読んでいただきありがとうございました。

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