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毒蛇と大熊の協定2

ジュリアスは動物なら絶対猛毒を持っていそう。




 話し合いは思ったよりスムーズに終わった。

 最初は畏縮気味だったのですがちょっと放置するとどことなくジュリアスとフォルトゥナ親子が静かに喧嘩をするのですわ。どうやら、この四者会議はわたくしがストッパーとして頑張らねばならないようです。

 幸いジュリアスはこちらの事業でも辣腕を発揮してくれそうなので良かったですわ。

 貧民街の区画整理に伴う清掃と再開発。住民の生活基盤の立て直し。その中でも比較的直ぐに社会復帰できそうな人材は医療関係を学ばせるのが大筋だ。

 体が健康でさえいれば清掃や建物の解体、立て直しの手伝いをさせて職業訓練を行なえばいい。人がいれば食事や洗濯などでも雇用が生まれる。

 わたくしとしては、そこに人を投入して我武者羅に行わせるのではなく、もともとそこに住んでいた方々にも協力いただきたいのです。

 そうすることによって、自分で自分の衣住居や居場所を作ることにって、愛着を持って欲しいのです。

 ヒトって苦労せずに貰ったモノってあまり大事にしない傾向がありますもの。苦労して作り上げたなら、多少歪でも愛嬌というものですわ。住めば都です。

 わたくしが色々と一生懸命に伝えるのですが、ジュリアスが腹の読めない笑みで、クリフ伯父様が目を白黒させ、フォルトゥナ公爵がなんだかついていけなさそうな顔をしています。

 大丈夫かしら、本当。


「街路だけでなく上下水道まで整備するつもりかい、アルベルティーナ」


「やるなら徹底的に、ですわ。資金は問題ないのでしょう?」


「ドミトリアス領から木材や石材についての確認しをしましたが、問題ないそうです。

 砦の建設などでも使用しますから、今後は値上がりするでしょう。品薄が予想されますので少々多めに抑えておきました」


「病院だけでは人が余りそうですわね。一部は備蓄作りの枠でも作ったほうがいいでしょうか」


「そうですね、噂を聞いた浮浪者や職にあぶれたもの達や難民も集まる可能性があります。ですが、備蓄ですか?」


「ええ、最近では各国の緊張が高まっておりますでしょう? 小競り合いも増えていると聞きます……出兵する方が増えればそれだけ戦場でも食べられるような簡易で、かつ栄養素の高いお腹の膨れるような保存食があるとよいでしょう?

 兵糧は大事ですわ。鞄のように硬い干し肉と保存性重視にしたカチカチの黒パンばかりでは、士気の低下にもつながりますわ。ただでさえストレスが多いはずですもの」


 所謂レーションですわね。携帯食料や、軍などの配給品ですわ。

 干し肉と黒パンかなり昔から製法は変わらないそうですがローズ商会には食品を取り扱うノウハウがあります。触感や味を多少妥協すれば、作れないことはないはず。

 ジュリアスは思案顔ですが、あからさまな否定は見られないです。ここはプレゼンですわね。


「悪い案ではないですが、どのようなものをお考えで?」


「基本的なものはビスケットや乾パンのようなもの。あと、チョコレートや飴。

 お湯を注ぐだけで温かいスープが作れるようなインスタント……簡易食? 即席料理とかでしょうか?」


「ビスケット類や甘味類は解りますが、いんすたんと? はどのように?」


「野菜を乾燥チップにして塩と干し肉や干物を入れるだけでだいぶ変わるはずですわ。

 味付けはそうですわね……」


 お味噌は作ってはいるのですが、あれは人様に出していいレベルではないのですわ。

 出汁が足らないのかしら。鰹節と昆布や煮干しがあればさらにグレードアップするポテンシャルを感じる品ですが……味噌玉にしてもいいかもしれない。


「……いえ、ローズ商会で作っている味噌で試してみましょう」


「あの苦節七年ものですね。十分美味しいと思うのですが」


フォルトゥナ家は「ミソ?」と首を傾げている。ジュリアスは早く商品化したがっていますが、わたくしという味覚大臣からの許可が得ていないのですわ。

ローズ商会の食品は基本わたくしの味覚基準ですので、わたくしがOKをださないものは商品にならないのです。

西洋文化寄りのサンディスではメジャーではないようですわ。

極東にはあるらしいと渡り人の本でちらりと見たような気がしますが、残念ながらこちらにまでその手法は流れてくることはなかったようです。


「お嬢様こだわりの調味料ですよ。醤油は何とかOKを貰えたのですが、こちらはなかなか難しくて」


「……まさかローズ商会とは」


「正真正銘、姫様の玩具ですよ。地位と財力を持て余す亡き公爵様が全力バックアップで用意した、壮大なおままごとセットの一つです。

 とんでもない金の生い茂る木となりましたが、ほぼアルベル様個人所有のものですよ」


「ラティッチェの物ではなくて?」


「ラティッチェにも権利はありますが、ローズ商会関連の建物や土地の権利書はほとんどがグレイル様とアルベル様の連名かアルベル様のモノです。

 誰が喚こうがアルベル様の許可なく触れば、処罰していいんです」


「まぁ」


 それは言い過ぎではなくて? わたくし、何か事業を大きく動かしそうなときは一人ではできません。相談をするときはジュリアスやセバスやキシュタリアやラティお母様に相談いたしますわ。

 おっとりと声を上げるとクリフ伯父様は非常に沈痛なお面持ちだ。


「……それはここで言っていいのか?」


「おや? なにができるというのですか? アルベル様にますますそっぽ向かれたいのでしたらどうぞ?」


 流行に疎そうなフォルトゥナ公爵でも、ローズ商会の大きさは知っているのですね。

 フォルトゥナから一部食料品や資金援助という形で協力を取り、ジュリアスはわたくしの代理でありこの事業顧問という形になりました。

 これで何かと離宮を行き来していても不審がられないと思います。隠し通路があるとは言えど、なるべく控えたいところですもの。


「マヨネーズと同じ製法の特殊保存容器なら、おそらく食中りもなく色々できますね」


 生卵はサルモネラ菌というものが付着しているときがある。

 マヨネーズの保存には生活魔法で品質保存と浄化という名の解毒・滅菌を施して出荷する。この生活魔法は初歩の無属性なので魔法使いだけど就職先がない方や、バイトしながら研究している場合や、怪我や病気で冒険者を辞めた魔法使いの方を雇っている。

 浄化は基本、光や聖魔法のような魔物や悪魔や悪霊をやっつけてしまう凄く強力な物から、ちょっとしたシャワーや洗顔、お掃除感覚のものまで幅広くあるのです。

いつだったかキシュタリアが「あれ使えないと旅先とかダンジョンとか戦場とか地獄だからね」と言っていた気がしますわ。

 確かに、何日もお風呂に入れないと辛いですわ。


(でも、公子であるキシュタリアがそんな経験あるのかしら?)


わたくしはそんなことを思っていたけれど、アリよりのアリでした。

わたくし以外には基本スタンスが標高八千メートル級の空気のお父様。クレバスは標準装備でどんなに美しく麗しく見えようが、一歩間違えば吹雪もついてくる。


「マヨネーズは瓶で保存していますから輸送や保存には気を付けなくてはいけませんね」


「前線であっても砦や城にはいいでしょう。野営できれば、野草や狩りによる現場での食料の供給もある程度可能です」


「フォルトゥナ公爵は戦場をご存知なんでしょう? あったら嬉しいでしょうか?」


「あればある程ありがたいな。食糧難は指揮に影響が出やすい。

緊張が続き、みな張り詰めて疲弊する。神経をすり減らして戦線から遠のく者もいるからな――アルベルティーナ、お前は戦争が起こると思っているのか?」


 少しだけ顔を苦々しくするフォルトゥナ公爵。

 お飾りのお姫様でいて欲しいのでしょうか、この熊公爵は。


「起こらない方がおかしいですわ。どれほどの規模で、どれほどの期間かはわかりませんがゴユランはお父様が亡くなってから随分と活発な様子。

 歴史書を見てもゴユランは我が国が低迷する気配を察すると、何かと理由を付けて侵略を目論んできました。

 戦場で異名を馳せるほど存在を数多に響かせていたお父様が亡くなり、国内が騒がしいいまなんてまさにうってつけと思っているでしょう」


「知っていたか」


「少し噂話に耳を澄ましていればわかることですわ」


「それが分からん王妃と王女はいるようだがな」


「一緒にしないでくださいまし!」


 思わずきぃっと吠えてしまいましたわ。

 生ぬるい視線でわたくしを落ち着かせようとするジュリアス。顔が笑っていましてよ。なんでそんなに嬉しそうですの。





読んでいただきありがとうございました。

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