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アルベルティーナのお願い1

命令より断りづらい『お願い』。



 サンディス王国の重鎮が一人、クリフトフ・フォン・フォルトゥナ伯爵。

 ちょっと厳めしい強めの眼光とカイゼル髭がトレードマークのイケオジ系貴族です。

 次期四大公爵の一人であり、わたくしの伯父に当たるお方です。

 わたくしの前では始終顔面崩壊といわんばかりにデレデレですが、それ以外には結構キツイところがあると聞きます。事実、初対面の時にお父様やキシュタリアを詰ってきました。

 一応は反省しているようなので様子見です。

 お父様や義弟のキシュタリアとは仲が悪いというのに、クリスお母様に似ているというだけでわたくしを溺愛しているようです。

 正直、複雑ですわ……

 ですが、わたくしの取り柄はこの外見と家柄くらいです。今更と開き直りましょう。


「クリフ伯父様、お願いがありますの」


 二番煎じですがアンナやベラのお墨付きである必殺『伯父様呼び』を駆使して、クリフトフ・フォン・フォルトゥナ伯爵に頼むことにした。

 まだ効果はあるかしらと不安だったのですが、鈍色の瞳にぱぁあああっと分かりやすく喜びを宿して、座っているわたくしに視線を合わせるために膝をついてくれます。


「勿論だよ、アルベルティーナ。伯父さんに何でも任せなさい!!」


 ………いいんでしょうか、安請け合いにも程がありますわ。

 内容も確認せずに即答します。クリフトフ伯父様の迂闊さに不安を覚えながらも頼むしかありません。

 親玉のフォルトゥナ公爵は怖くて無理ですが。すっかり眦下がってデレデレの伯父様の相手は馴れてきました。

 アンナがすっとトレーに乗せた一通の封筒を持ってくる。それをわたくしが一度手に取り、クリフ伯父様にも見やすいように差し出す。


「こちらを、フォルトゥナ公爵にお渡しお願いしますわ。

 その、少々お話したいことがあり……取次をお願いしたいのです。頼まれてくださいますか?」


「父上に? いや………構わんが……席を設ければいいのかな?」


「ええ、ですが相手はわたくしではありませんの。必要ならわたくしも同席しますが、その、まだフォルトゥナ公爵は怖くて……」


「紹介ということかい? 誰かな?」


「ジュリアスですわ」


「ああ、あの……んんっ! うん、アルベルティーナが望むならば……うん、伯父さんは頑張るよ。父上も家柄ばかりの無能ならともかく、有能な人間は嫌いじゃないかならな」


「良かったですわ! 是非、ジュリアスをフォルトゥナ家の養子に受け入れていただきたいのですわ!」


 あ。

 うっかり。

 ぽろりとうっかり口からまろび出た言葉。ブレーキ間に合わず、ポーンと出てしまいましたわ。人のこと言えないポンコツ……

 まあいいですわ……伯父様は固まっていますが、出てしまった言葉は戻せないのです。


「……マクシミリアン侯爵家か?」


 固まるのは、私でした。

 クリフトフ伯父様が可愛い姪をみる甘々な顔ではなく、フォルトゥナ伯爵の顔をしてこちらを見ています。

 きっと、わたくしの顔は強張っている。クリフトフ伯父様の鈍色の瞳は、静かにわたくしを見ていた。責めるわけでもなく、怒るわけでもなくわたくしを慮るものがあった。

 わたくしは何も答えられない。

 唇を小さく噛んで堪える。俯きたいのを必死に押さえて見返す。


「では質問を変えよう。あの男をフォルトゥナの王配候補として推すことを望むのか?」


「……はい、良しなに取り計らっていただきとう存じます」


「今までの慣例と鑑みるに私の見立てでは、喪を空けた時点でおそらく三人から五人選ばれる。

 実際にすぐに婚儀を結ぶのは一人だが、それらと順次婚礼を上げる形となるだろうな。

 いくら王家の継嗣問題がかなり厳しい状況とはいえ一度に数人と同時に婚礼はあげないとは思うが、元老会がどんな汚い忖度をするかは分からないところだ。

 だが、フォルトゥナ公爵家の力をもってしても必ず第一王配として付けられるかは分からん」


「はい、承知しております」


「王配候補の枠は暗黙で決まっている。基本は四大公爵家、そして血守りと呼ばれる王族分家たちだ」


「血守り……?」


 聞きなれない言葉だ。王族分家というのだから、それなりに格式高い貴族なのだろうか。


「メギル風邪で王族が滅亡するのはあってならないことだ。王家としては普段さして力を持たない傍系だ。

 だが、奴らは血守り――つまり、王族の血を守るためだけの仮初の王族だ。上級貴族と同程度の生活や教養はあるが、王族としての財産や実権はない。

 だがそれのみを重要視している為、濃い血を持っている」


「あの、その方々の中に王家の瞳は……っ?」


 俄かに期待したがその期待はあっさり散った。

 王族の濃い血筋を守るためにのみ存在するのであれば、居てもおかしくないはずだ。

 あっけなくクリフトフ伯父様は首を横に振られました。


「あったらとっくに元老会が担ぎ出している。令嬢であれば王子殿下らの婚約者に、令息であれば王女殿下の婚約者になっていたはずだ」


「いないの、ですね」


「ああ、可能性の段階はとうに過ぎている。恐らく王家の瞳を守る意味もある分家筋からいないからこそ、自分の息のかかった家を宛がおうと躍起になっているはずだ」


「あの、他の貴族は可能性としては?」


「今代は血守りの一族は余り良くないらしいからな……それでも王家筋というのは稀少価値が付いている。力のある家が密約を結んでいる可能性は高い。

 血守りの一族は王族筋だが普段は日陰者だ。王族となるに相応しい家柄へと養子に入れてから王族へと迎え入れられる。

 生家に力を与え過ぎないように、敢えて段階を踏むからな……今回はアルベルがはっきりと王家の瞳と能力を持っているから、重視されるのは血の濃さより相応しさだろう。

 だが、それはあくまでも今のところの見解だ。それぞれが有利になるように情報合戦をしているからな」


「そう、ですの」


 頭では分かっているが、納得いかない。

 だが、マクシミリアン侯爵家をはじめとした分家の裏に元老会がいる可能性は一層の濃厚となった。

 そうやって王家の婚姻を根回しすることにより、元老会は権力を牛耳っていたのだろう。


「では、今回のわたくしの婚約者候補に血守りと呼ばれる家のものは少ないと?」


「守るべきものが守られていなかったからな」


「ですが、王家の血筋に近いはずですのよね」


「旨味が少ないのなら切り捨てる。元老会としては虎の子といえる存在だった。

 後継者不足の時こその切り札であったが、今その切り札は発揮されなかった。そのことにより、面子を潰されたとすら思っているだろうな。管理を怠ったのはあっちだろうに。

 サンディス王家に相応しい瞳の持ち主がいない時こその為の血筋だ。本来、アルベルティーナが引っ張り出されるべきではない。

 元老会はグレイルを疎んでいた。よりによってその娘が文句の付け所のない王家の瞳を持っていた。

 後継者として相応しい人間が現れたのは歓迎しているが、出所を考えると業腹だろうな」


 だけどラティッチェ公爵家の財力は魅力的なのでしょうね。

 彼らからわたくしへと宛てられる手紙はゴマ擦りの嵐のようですわ。

 気持ち悪いくらいヨイショとおべっかが飛び交っていて、げんなりしますの。

 それとなく領地の管理とか商会の管理とかをこちらでお世話しますよ、などと胡散臭いお話が何度か打診がありました。

 当然、丁寧にお断りさせていただきましたわ。



読んでいただきありがとうございましたー。


ジュリアスとグレイルは本質が似ているところがあるので、クリフトフは嫌い……

でも可愛い姪の滅多にないお願いなので断るという選択はない。

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