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契約9

切りよくするためにちょっと短め。



「ねぇ、二人とも聞いていい?」


「なんだ?」


「何でしょうか?」


 行儀悪く頬杖をついたキシュタリアがだらしなくタイを寛げながらソファにごろりと斜めに体重を預ける。


「ぶっちゃけ、父様を単騎打倒できる気配が無かったら、三人がかりで共闘して、アルベルを丸め込んで共有しようとか思ったことがある?」


「……ぶちまけ過ぎだ」


「まあ、三分の一かゼロかといわれてしまえば。ねえ?」


 否定が出ない。つまりそういうことだ。

 アルベルティーナは知らないだろうが、この三人は最終手段としてその案もあった。

 それだけグレイルは絶対的だった。かつてレイヴンが人外魔境と評したそのものの能力を持っていた。

 懸想するのにも命がけだったアルベルティーナ。手段を選んでいては、限りなく勝算はゼロに近かった。それこそ、余程のアクシデントとがない限り。

 その余程のアクシデントが、起きてしまったのだが。


「だが、ここの誰でも一人だけでアルベルを守るなんて不可能だろう」


 あのグレイルが過剰なほど溺愛するはずだ。過保護になるのも解る。

 魔王の力を以てしてもアルベルティーナをより安全に守るためには、あの箱庭で人知れずというほど息をひそめる他なかっただろう。

 正直、若すぎる三人では一人でアルベルティーナを守るのは不可能だ。いくら家柄や実力、人脈があろうともまだ色々と浅すぎる。

 十年、いや、五年早かった。

 そういう意味では、アルベルティーナが三人を求めるのは良かった。同時に求められたというのも、のちに軋轢も残らず英断とすら言えた。

あの欲しがらない屋のアルベルティーナにしてはかなり大胆に出た。


「しかし、一人ずつ呼び出して言えばいいし嘘でも『貴方だけ』とでも言えばいいのに、ド正直にいっぺんにいいますかね……うちのお姫様は」


 とことん交渉が下手にも程がある。

 ある程度の誠意も大事かもしれないが、普通であれば了承しかねるだろう。

 ジュリアスだったらしない。そんな危なっかしい賭けなどできはしない。

 それぞれ説得しながら、一人ずつ引き入れてからだ。

 こんなに根回しなしに、唐突にぶちかまさない。


「まあ、アルベルだから『大事なことはみんなで話し合いましょう』とか無意識に思ってるんじゃない?」


 ありうる話である。

 アルベルティーナは特殊な箱庭結界育ちなので、若干ではなく色々と常識がおかしい。

 交渉というものは、複数手札を用意するのは定石。切り札は取っておくべきだ。

 いきなり大出血の勢いで最も強烈なカードを切ってくるべきではない。

 稀にそういった大胆な作戦をとることもあるが、リスクが高すぎる。

 

「なんというか、その、彼女自身の血筋や貞操的な価値を理解しているのか?」


「血筋や家柄的な価値はそこそこ理解していると思うけど、自分単品の価値は理解していないと思うよー。

 昔っから妙に自己評価が低いんだよね」


「私は正直、迂闊にアルベル様に口付けするだけで始末される自信がありますからね。

 アンナといい、セバス様といい本当に毛虫扱いしてきますから」


「それはジュリアスがアルベルの前で下世話な言葉を出すからでしょ」


 キシュタリアが口をとがらせて咎めるのにミカエリスも同意を示す。


「理解していないからといって、いっていいものではないと思うぞ」


「解っていますよ。――でもあのお姫様は本当に理解しなくて、逆に虚しい思いを何度もしましたけどね。

 これでもそれなりに人を誑かすのは得意な方ですが、あの方は毎度毎度お子ちゃまぶりを発揮してプライドをずたずたにされましたよ。

 全く以て無視するのではなく、真面目に話を聞いていて理解されていないんです。ニュアンスといいますか、こちらの色を感じ取ってもらえないと言えばいいのでしょうか……

私に男としての魅力は皆無なのかと」


「ワー、目に浮かぶぅー。こっちにもダメージくる」


「アルベルは本当に男女の空気の機微に疎いからな」


 幾度として惨敗して散ってきた三人である。

 強引に攻めればグレイルに処される。根気強くアルベルティーナに恋心の発露を促してきた結果、凶悪な耐性を与えるだけになった。

 極稀に察しているあたり、希望か絶望かわからない生殺しを食らう。


「昔から周囲にその手の雰囲気を察知する能力をへし折られながら育てられていましたからね」


「何かを察知はしているんだけど、何かわからないって顔していたよね。

どうすればいいかもわからなくて、結論が変な風に着地するんだよね。

 たまに気づくときもあるんだけどかなり恥ずかしがり屋だから、あんまり突き回せなくって」


 可愛かったな、と笑うキシュタリア。

 異性関係に免疫のないアルベルティーナが色白の顔立ちに朱を走らせて恥じらう姿は分かりやすかった。茹蛸のようになる前に宥めすかすが、潤んだ緑の瞳で見つめられるのは馴れているが胸が逸るのを押さえられなかった。

 また、あの可愛い表情を見せてくれるだろうか。

 感情を押し殺した作り上げた表情ではなく、不慣れな感情に揺れ動く面映ゆさを。





読んでいただきありがとうございましたー。

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