契約8
いつもパソコンで投稿しているので、スマホからではどう見えているのか分からないのです。
でもスマホの方がパソコンよりも見ている人が多いみたいです。
他作品には一作数万字以上を投稿する人もいるけれど、スマホで……? 眼精疲労で死なないようにお気を付け下さい。
「……セバス様に頼んで、一度ラティッチェ本宅の品を全て見直しましょう。
思い出の品だけでなく、グレイル様の大切な物ということもあります。クリスティーナ様の遺品の可能性もあります」
「ああ、そうしてくれ。あと、念のためクロイツ伯爵に父様が死んだ時に身に着けていたものも。
呪詛の影響がないか検分が終わっているなら、安置しているはず」
「遺品というならば、棺とともに埋葬した品の中にもあるのでは?」
「霊廟を開くとなると、父様の死んだ経緯もあるし、国葬だったから僕の一存では開けられない」
「下手をすると、キシュタリア様が墓荒らしの誹りを受けますからね。
この時期にそれはよくないでしょう。当主就任が終われば、墓守に確認するよう打診したほうがいいでしょう」
すぐにはできない、とキシュタリアは首を振る。
その辺の貴族の墓地なら、まだ忍び込めたかもしれない。だが、ラティッチェ公爵家の霊廟はそもそも規模も桁違いだ。
「そこには特別な封印でも施されているのか?」
「封印はない。でも、あそこには墓守専用の一族がいるんだ。
ラティッチェ公爵家の霊廟だからね。普通のお墓とは訳が違うんだ。歴代の当主たちと共に彼らが生涯に授かった勲章や、奥方の宝飾品がいくつも眠っているからね。
父様の勲章や魔法剣も副葬品として入っている。マニア垂涎だよ? あれ一本で、マクシミリアン侯爵家の借金なんて吹き飛んで山のようなおつりが出る」
適当な副葬品一つでも平民なら一家が一生余裕で遊んで暮らせる。だからこそ、不届き物が出ない様にそういった専門の管理人がいるのだ。
「なので、そういったこともあり戦闘訓練を受けた一族です。その辺の騎士など相手になりませんよ。
クリスティーナ様が先に眠っていることもあり、礼儀作法も徹底されたと聞きます」
「……それなら、余計調べた方が良いのでは? マクシミリアン侯爵は金に困っているのだろう。
評判は良くないし、かなり利己的な人間と聞く。葬儀の時に見かけた副葬品に目が眩んだのでは?」
「ないと言えないのがなぁ……セバスに行かせてみようか? 彼なら顔も利くはずだ」
「確かにセバス様であれば、墓守も納得するかもしれません……やはり国葬ですので、何かあったら王家の顔に泥を塗る覚悟をしなくてはなりません」
腐っても国家なのだ。慎重な姿勢を崩さないジュリアスにキシュタリアが呆れた顔で首を傾げる。
今までの醜聞を見ると今更失墜する信用すらあるのだろうか。特に王子たちとその母親の王妃たち。
「もう泥まみれじゃん。底なし沼地じゃん」
「キシュタリア、口を慎め。流石に言い過ぎだ」
「陛下以外屑だよ。陛下も国王なら何とかならなかったのかな」
「難しいですね。恐らく、陛下もだいぶ瀬戸際ですよ。アルベル様に御子ができれば、暗殺されかねない」
「そして、空いた玉座にアルベルを置いて実権を握ると?」
頷くジュリアス。
ラウゼス国王は戦争反対派であり、争いを好まない性質だ。そして、指揮官に向かないことも理解しているのだろう。
ここのところ情勢は悪化しているうえ、打って出ると勇んでいる貴族も多くいる。
だが、安全な位置で椅子に座りながらゲーム感覚で戦争に参加した気になっている馬鹿に限って高い座椅子にいる。身分だけはご立派なやんごとなき方々は、自信過剰でギャンブル好きな傾向がある。自分は大丈夫だ、という甚だ迷惑な自信があるのだ。
そんな彼らにとって長年玉座にいる堅実なラウゼスは、やや動かしにくい駒だ。目を見張るような実績はないが、手堅い統治をするため民からは好かれているし、親しまれている。
「ええ、ですがお子が、それも王家の瞳のお子がお生まれにならない限りはそうはいかないかと。
あまりに王家の瞳を持つ王族が少なすぎる状態で、次の神輿がなく廃棄するにはいかないでしょう。
都合のいい駒が如何にアルベル様に取り入り、孕ませるかによってどこに権力が転がるかもわからない」
「保身の為ってこと?」
「保身に走らざるを得ないでしょう。グレイル様がお亡くなりになった以上、アルベル様の守りはフォルトゥナ公爵と陛下が二分している状態です。
どちらかが欠ければ、王妃派も元老会やその下につく貴族たちも一斉に集りに来ますよ。
二人の妃も自分の王子達をそれぞれ送り込むことを諦めていないと伺います。同時に、高位貴族はこぞって水面下で結託したり抗争したりと忙しない状態です。
ラティッチェの内輪もめが激しすぎる。ここにきて、アルベル様がマクシミリアン家に取り入られているとなると、キシュタリア様の爵位継承が遅れかねない」
ジュリアスが携わっている事業が成功すれば、一層民からの人気は高くなるだろう。
それだけの資金はあり、循環性のある生産と雇用が発生する見通しは立っている。
フォルトゥナ公爵家とアルベルティーナは密な関係だと知らしめれば、元老会とマクシミリアン家の抑えにもなるだろう。
あくまで牽制であって諦める者たちが減るとは思えない。
「……僕は自分が情けないよ。守るといって、守られているなんて」
「で、本心は?」
「アルベルに近づくな、触るな、ぶっ殺す」
「ご自分に正直なようで何よりです」
「……頼むからその凶悪な気性をアルベルの前で出さないでくれ」
あけすけな会話にミカエリスはかなり本気で言った。
ミカエリス自身も感じているが、アルベルティーナは人に対する尊敬が強い。ミカエリスのこともまるで聖人君子のような完璧な騎士であり紳士的な伯爵だと思っているようなのだ。下心など持たない高潔な男性だと思っている節がある。
そんなことはない。
だって、ミカエリスは思ってしまったのだ。あの異常なアルベルティーナを目の前にしてさえ。
(……嬉しい、と思った。アルベルが、私を選んだ。伴侶としての選択肢に、私は最後まで残ったんだ……そう思ったら、そう理解したら――傍にいられる権利が、彼女自身から許されたと思ったら)
思い出すだけで溢れる。とめどない感情や、逸る動悸を押さえつける。
たった一人に選ばれなかったということより、彼女が手を伸ばして欲してきたことの方がよほど重要だった。
ミカエリスだけではない。キシュタリアとジュリアスもそうだろう。ずっと、ずっと受け取られなかった想い。やんわりと突き返された恋慕。アルベルティーナは哀しみと諦めをもって恋情というものを全て遠ざけた。
色々な意味で壁であったグレイルがいなくなり、彼女の状況は一変した。
そして、アルベルティーナは嘆いて閉じこもることを選ばなかった。戦うことを選んだ。あそこまで焚きつけられた理由を調べるのはこれからだ。
アルベルティーナにとって、非常に重要でナイーブな問題になるだろう。慎重に事を運ばなければならない。
読んでいただきありがとうございます。