表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/338

駒選び8

またアルベルのターンに戻ります。



 わたくしは考えていた。

 やはりといいますか、自分には味方が少ない。というより、信用できる人が少ないのだ。

 好意をもって近づいてきてくれるが、信用しきれない。また、利用する気で近づいてくる人間が圧倒的に多すぎるため、身動きがとりづらい。

 今後、動こうとすればますます後者は増えるだろう。

 わたくしは、どうも周りから軽んじられている気がするのです。

 今まで社交界にも顔を出さず、人脈も心もとないわたくしの足元を掬おうする人間、そして取り入って操ろうとする人間は多いでしょう。

 ほとんどをフォルトゥナ公爵がシャットアウトしてくれていますが、それは期限付きの物ですわ。わたくしは王太女となってしまった以上、どうしても避けられないことが増えていきます。

 わたくしは権力があっても、政治的な意味で発言権が軽いのです。

 若く、実績がないから。そして、周りはわたくしが能力を持ち、実権を持つことを望まないのです。王家の張りぼて人形として、自分が権力を使用するための器としてほしがっているのです。

 王配の座を巡る争いも、口では可哀想だと言いながら政治から遠ざけ、わたくしの権利を好き勝手に使いたいだけなのでしょう。

 わたくしの愛するラティッチェもまた、奪われようとしている。

 お父様が居なければ、ラティッチェの威光を十分に使うことすらままならないのです。もし奪われてしまえば、わたくしはますます身動きが取れなくなる。なんとしてでも、キシュタリアに実権を握って押さえてもらわねばなりません。

 そのためにできるだけ早急に、マクシミリアン家の排除が必要です。とどめはさせずとも、たとえわたくしが強く推挙しようとも不適格であるようにしなくては。

 わたくしに足りないものは、わたくし自身のカリスマ。

 家柄や血筋ではなく、わたくし自身の能力。

 アルベルティーナというものについた『王太女』や『悲劇の姫君』でもない、わたくし自身を支える手駒と、支持者たち。

 軽い神輿のままではダメ。

 周囲にバレないようにわたくし自身を高めなくてはダメなのです。

 布石の一つとして、公共事業として貧民層の救済をします。幸いのところあまり手が回っていないようです。ジュリアスの様子からするに、悪い企画ではなかったと思うのですが……それなりの額を王太女として下りている費用を充てましたが、一般的にはこれは普通なのでしょうか? 基準が判らないです。

 正直、宝飾品や装いにお金をかける気にもならないですし……わたくしはとりあえず民を味方に付けようと思います。元々同情票は多いはずですわ。

 それに、離宮の噂を聞く限り他の王族は謹慎中や、そもそも華やかな催し以外にはあまり興味のない方が多いようなのです。

 つまり、地味な公務は疎かになっています。

 メザーリン妃殿下も、オフィール妃殿下も貴族相手のお茶会や夜会は積極的です。ですが、ちょっと前のお父様ぷんぷんカーニバルでぶった切られ、離反や脱落があり一枚岩とはいいがたいです。足並みがそろうにも時間がかかるでしょう。

 貴族の戦い方はわたくしにはいまいちわからないです。

 ですが、それ以外の人たちをかき集めて行こうと思うのです。

 アンナに人払いを頼み、本を取り出す。この前、隠し通路に倉庫がありました。日本語表記です。びっくりですわ。

 どうやら、日本語はこの国では古代語の一つであるそうです。

 ですが、日本語はひらがな、カタカナ、漢字が入り乱れており非常に厄介ですわ。古代語でも特に難しい分類で未だに解き明かされておりません。

 ファンタジーなこの世界ですが、翻訳魔法はないのです。精神干渉魔法やスキルは存在するそうですが、翻訳スキルはないのです。

 そのせいで翻訳が後回しにされている古代語なのです。

 学者たちを苦しめる悪魔の言語とすら言われる、超絶嫌われ者ですわ。わたくしの魂の母国語なのですが……

 何故この文字があるかといえば、古代――といっても、この国々が成り立つ前に『賢者』と呼ばれる偉人が居たそうです。その偉人は異世界から来た『渡り人』でした。地方によって『越境者』や『稀人』など様々な呼び名があります。賢者は、異世界から来た人でした。非常に強力な魔力と多彩なスキルを持つ、ファンタジーあるある俺TUEEEな方だったんでしょう。

 その方は、その知識と膨大な魔力とスキルにより様々な魔法を生み出し、文明を生み出し、国や都市を発展させました。魔王を倒しちゃったり、すっごい精霊や神様と契約しちゃったりなどとまさにてんこ盛りです。

 そして、その方は男性だったようで色々な種族の姫や巫女などを娶り、それ以外にもたくさんの女性と浮名を流しながら生涯を終えたそうです。

 リア充ですわね、わたくしとは無縁ですわ。ファザコン拗らせた喪女へ当てつけですか。

 英雄色好むとは言いますが、わたくしは一途な方のほうが好きですわ。

お父様の様に、格好よくって、強くって、とても優しい紳士的な男性がいいですわ!!!

 やはりお父様はわたくしの理想なのですわ!!

 うぐぐ……いくら情報のためとはいえ、リア充野郎の日記を読むのはきついですわ。黒歴史はないかしら。あ、やっぱり奥様に浮気がバレてシバかれていますのね。

 神話でもあった主神もそうですけれど、国一番の勇士といい、栄華を極めた皇帝など力ある殿方は次から次へと新しい女性に手を付け、ご自分のハーレムを築かなくては気が済まないのかしら?

 わたくしは赤裸々な賢者の日記を書き写しながら、翻訳したものも書き記していきます。

 歴史上といわれる賢者様の名はスズキ・タロー。きっと偽名を名乗っていたのですわ……おそらくわたくしと同じくらいの世代のはずなのです。文体といい、言葉の使いかたといいかなり近い雰囲気なのですわ。

 もしも同じ日本人でも時代が違い過ぎたら文学常識から違い、圧倒的ジェネレーションギャップの前に敗退していたでしょう。

 わたくしにとっては俺様感満載暗黒歴史書ともいえる日記ですが、一部のマニアにはそれは受けるでしょう。見てて痛々しい中二病がチャレンジメニュー並みに盛られていますが。

 歴史に影響を残した英雄や魔法使いの中でも、片手に入るほどの方なのですわ。このスズキ・タロー氏は。

 この方、色々な偽名を使って色々な土地で伝承を残していたようです。

 素晴らしい称えるべき偉業もありますわ。

 たとえ!

 浮気が原因で奥様から首から下を除毛されてしまっていても!

 賢者の隠居の原因が『パパと同じ桶で洗わないで!』といわれたことによる、消臭洗剤の開発のためでも!

 息子との軋轢の原因が、卵焼きは固焼きか半熟かによる味覚的好みの相違であっても!

 頬にある傷の原因が、実は魔王との戦いではなく酔っぱらって転んだものであっても!


 ……こう考えると、やっぱり歴史上の偉人であろうと普通の人の子ですのね。



読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ