506話 オークション直前の運営の場合(修正しました)
修正いたしました。
オークション直前の運営の場合
「はぁぁぁ……。ある日突然、超天才プログラマー様が降臨して、全部の仕事を肩代わりしてくれねーっすかねー」
「お前、なに他力本願の極みみたいなこと呟いてんだ。現実逃避しても仕事は減らんぞ?」
「主任、厳しいっす。だって、仕事が終わらないんですもん」
「そもそも、天才プログラマーってなんだよ?」
「昨日読んだVR物の小説がそんな内容だったんす。天才が全部ひとりで作って、運営してるって設定なんすよ。俺の仕事も是非代わりにやってほしいっす」
「俺はハイファンと歴史とミステリしか読まんからなぁ。VRゲーム開発者が、VRゲーム小説読んで楽しめるか?」
「面白いっすよ? おすすめです」
「そもそも、1人で開発から運営までこなす? 営業とかクレーム処理とかもか? 無理だろ。いや、だから天才なのか。確かにうちにも1人ほしい。まて、やっぱりいらない。そいつ入ってきたら、俺たちがお役御免になる!」
「1人で完結しないでくださいよ。それに、天才はクレーム処理なんかやらないっすよ。全部無視っす。というか、天才の作った完璧なゲームにクレームなんて発生しないんす」
「人間がプレイしてる限り、クレーマーがいなくなるわけねーだろ? あいつら、クレームが入れたくてゲームやってんだからな。それしか楽しみがない、悲しい生き物なんだよ」
「まじめに返さないでくださいよ。創作物の中の話なんで」
「へいへい。で? 他にはどんな話があるんだ? なんか、参考になりそうな小説とかあったりすんのか?」
「いや、息抜きで読んでるだけでそこまで考えてないっすよ……。そもそも、技術力とかも違いますし」
「なるほど。もっと未来の話なわけか」
「そうっす。感情の操作とか、全NPCが超高性能AI搭載とか、かなり進んだ技術が使われてる設定も多いですからねぇ」
「感情の制御とか、悪用できそうで怖いな。ただ、技術が発達すれば、いずれ俺たちも直面する問題か……。深いテーマだ」
「俺的には、全NPCに高度AI搭載の方が気になるっす。うらやましい」
「うちじゃ予算の壁が立ちはだかるからな」
「世知辛いっす!」
「内容はどうなんだ?」
「それは作品によって違うとしか……。俺が面白いと思った奴は、最初はバランス悪いゲームとして描いて、調整のためのメンテとかを作中で描いた奴っすね」
「未来でもバランス調整の問題はなくならんのか。創作物の中のこととは言え、身につまされる話だな」
「作ってる人間が進化してるわけじゃないっすからねぇ」
「俺がガキの頃に比べれば今も随分未来だが、苦情やクレームはなくならんしな。結局、作る側も遊ぶ側も人間てことか……。そのうち、『バランスって言葉を知らないクソ運営! 本当は星マイナスにしたいけど、最低が1からなので星1! プレイする価値なし! 金と時間返せ!』って感じのレビュー付けられたりすんのかねぇ? ああ、いやだいやだ」
「妙に具体的っすね?」
「そりゃあ、長い開発者人生、色々とな?」
「そ、そんな怖い顔しないでくださいよ!」
「お、おう。昔の上司のこと思い出して、つい」
「酷い上司だったんすか?」
「悪い人じゃなかったんだが……。どうも悪ノリする人でよ。思い付きでバランス調整に口出して、そのせいで後々クレームが殺到するんだ。バランス調整というか、あえて尖らして喜ぶような人だったな。ヒット作を生み出したかと思えば、その次に作ったゲームがクソゲーって評判になったり。それで懲りないんだから、うらやましくもあるが。ああ、ああいう人が天才っていうのかもなぁ」
「うわぁ……。周囲が大変そうっすね。主任は主任のままでいてください」
「なれるもんならなってみたい気持ちもあるが、今さらああはなれんさ。苦情を聞いてるだけで胃が痛くなるような凡人だぞ?」
「それでいいっす! それに、LJOは意外と苦情は少ないっすよね?」
「ああ。ないわけじゃないが、他のゲームに比べりゃ少ないわな。PK、盗み、ハラスメント類の禁止を徹底したおかげだろう。その分、温いっていう苦情や、突出しているプレイヤーへのチート疑惑が取りざたされるが」
「白銀さんやトップ層に対して、優遇してるとかナーフしろっていう苦情がたまにきますもんね」
「彼らの場合、プレイヤースキルやリアルラック。あとは本人の突飛な行動力っていう、こっちじゃどうしようもない理由での突出だからなぁ」
「細かいバランス調整だけじゃ、どうにもならんですからねぇ」
「もっとNPCと交流を持って、色々な場所に行って、変なスキルをいっぱい覚えろと言いたい」
「一応、今後は称号を増やして、汎用称号もユニーク称号も今まで以上にゲットしやすくする予定ですけど……」
「白銀さんがより加速しそうだな……」
「あとは、ノームが有能過ぎて辛いとかいう訴えもありますね」
「それは、クレームか? まあ、白銀さんの場合、ノームの好感度がぶっちぎりで高いし。行動制限が大分緩和されてるよな?」
「うす。NPCの中でも、中堅のファーマーに匹敵する知識を持ってるはずっす。今のゲームの進捗状況だと、NPCトップファーマーと同列と言って過言ではないかと。他にも、樹精ちゃんなんかも好感度高いっすから」
「その代わり、戦闘系AIは他のテイマーに比べて全然育ってねぇけどな」
「まさか、テイマーでここまで生産に偏るプレイヤーが出るとは……。開始時には想定してませんでしたから。テイマーのモンスAI成長補正+生産への偏り+好感度激高=モンスターの上級生産者化ってことっすね」
「プレイスタイルがハマってるとしか言えんよなぁ……」
「でも、他のプレイヤーの気持ちは分からなくもないっす。白銀さん、相変わらずっすから」
「アレなぁ。こんな序盤にトレントからの樹精ルートが見つかることになるとは……。呪術関係が騒がしくなるか?」
「すでに探すプレイヤー多数っす。呪術師ジョブはまだ解放されてないんで、今可能性がありそうなのはNPCの呪術師っすね」
「あとは、オークションの呪符類か? 確か、今回のオークションで、呪術陣をいくつか出品する予定だったな?」
「うす。高騰間違いなしっす」
「また騒ぎになりそうだな……」
「クレーム、きそうっすね」
「いっそ、本当に白銀さんを優遇しまくって、大混乱させてやろうか? 公式チートで白銀さん無双だ!」
「ははは、ちょっと面白そうっす」
「……」
「……」
「……はぁ。仕事戻るか」
「……っすね」
「天才でもなんでもない俺たちは、徹夜で頑張るしかないわけだが」
「主任、泣かないでください」
「今日も帰れんのかと思うと……。せっかく白銀さんのおかげで娘が話してくれるようになったのに!」
「帰れない原因の何割かが白銀さんですよ? そもそも、NPCからの注目度でオークションの目玉扱いになるシステム。前倒しで今回から実装するって決めたの、主任じゃないですか」
「……だって、それしなきゃ大混乱が起きるかもしれないだろ! まさか、直前に急に申し込んでくるなんて思わんかったし!」
「まあ、会場に入れなかったプレイヤーたちが、暴動起こしそうっすもんね」
「目玉アイテムは、全会場から落札可能だから、少しはクレームが減ってくれるといいな」
「減らないでしょ」
「……だよなぁ。落札できなかったというだけで、怒るやつがいるだろうし……」
「そ、そんな、生気のない目で見られても……。と、とりあえずシステムの調整を済ませちゃいましょう! ね?」
「……そうだな」
次回更新は4/4予定です。その後は、いつも通りに戻す予定です。
ご心配おかけしました。また、休んでいる期間の温かいお言葉の数々、ありがとうございました。
お陰様で、だいぶ回復しております。
3/22に出遅れテイマーのコミカライズ5巻が発売しました。
アカリとタゴサックが目印の表紙ですので、よろしくお願いいたします。