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そこにシビれます憧れますゥわ!

うふふ。カマキリ怪人さんの話は

そのうち書きますね。後日談として。

時は流れて、別日の寝起きからスタートです。

 





 

「……ふわぁあぁ……あふ」



 足元の肌寒さを感じてしまったからでしょうか。

 ふと、目が覚めてしまいました。


 どうやら体に掛けていたブランケットがベッドからこぼれ落ちていたようです。昨夜の寝苦しさを何となく覚えておりますが、自分の寝相の悪さにはちょっとビックリしてしまいますわね。


 起きたばかりでまだ開き具合の甘い目を擦りながら、ベッド脇の小机に置かれた目覚まし時計に目を向けました。


 青色ハートデザインのこの時計は私がここでお世話になるようになるその前からずっと愛用しているものです。


 とはいえ、もう長らく時刻をセットしてはおりません。


 文字盤を見てみると、短い針は真東、長い針は真北を指しておりました。なるほど、やけに眠れたとは思いましたが完全に寝過ごしたようです。もうおやつ時なんですね。



「……はぁぁっ。ご飯にするにしても中途半端な時間ですの。かといって二度寝するにも遅すぎますし、どなたかのお部屋に遊びに行くにしても早すぎるような気もしますし……ふわぁ……はふ、いつも通りに、暇々のヒマ娘ですの」


 〝暇〟というのは昼過ぎまでぐっすり眠りこけた人の言うセリフではないのでしょうが。寝坊は私の特権なのです。


 昨日だってそれなりに忙しかったんですから仕方がないではありませんか。



 いつもの夜の共有ストレッチで汗だく汁だくになった身体を洗おうと大浴場まで赴いたら、そこでもなんやかんやで大運動会が始まってしまったんですもの。


 洗っては汚してを繰り返して、皆それぞれ熱に浮かされのぼせにのぼせ、そのままフラフラになりながらも解散して、何とか戻った自室で倒れ込むように眠ってしまって。


 気が付けばお気に入りのネグリジェにも袖がしっかりと通っていないくらいです。


 寝冷えするには実に正当な理由と言えましょう。

 今更言い訳並べたところで責める人などおりませんが。


 この話の問題はそこではありません。問題なのはこの後なのでございます。昨日の忙しさが今日にまで続くかと言われたら、それは全く関係ないことなのです。


 何事もなければ暇は暇のままなのですし、退屈なのは退屈なのです。毎日生きるのも大変なんですの。

 

 なにより運動のソレ以外に大した娯楽がないことが問題なのです。そうですの。ええそう。絶対そう!


 私の場合、別に定期的に訪問営業さえしていれば誰も文句は言わないのでしょうが、困ったことに私はどうしたって常時頭を空っぽにしてピンク一色に染まることはできないのでございます。


 更には元々運動も私単体の娯楽ではなく、この寮にいる者に与えられた立派なお務め事項なんですの。


 お互いに癒しを提供し合って成り立つ素敵なサービスビジネスなのでございます。


 私だって人間なのですから進んでイタしたいときもあれば、そうではない気分のときもあるわけで、


 今がまさにそのマイナスのときで、ただ物思いに耽りたいだけなんですの。



「……なるほど、暇つぶしですか。……あ、そうですの」


 早速イイことを思い付いてしまいました。


 プランはこうですの。暇つぶしがないなら作ればいい、ということで、日々の退屈打破のためにご主人様(・・・)へ直談判しに参りましょう。ラッキーなことに今日は外出オフの日だったはずです。


 オフの日は侵略業はお休みで、特別な用事さえなければ、司令室にて事務作業をされていらっしゃるはずです。


 善は急げといざ向かおうとしましたが、さすがにこの時間帯で寝巻きのまま行動していたらすれ違った方からだらしのない女と思われてしまいますわよね。


 だらはだらでもよいのは淫ら。

 おっと、まったく何を言ってるんでしょうか。


 こんな私でも少しはいい女に思われていたいですからね。

 身なりを整えてからお伺いすることにいたしましょう。


 久しぶりにルンルン気分でベッドから立ち上がります。




――――――

――――


――




 自室にて露出度やや控えめの服装に着替えました。


 ジェンダーレスの戦闘員スーツに比べたらこの衣装は少しは女性的なのですが、このアジトの正装の割にはシックで落ち着いた様子になっておりますので気に入っておりますの。


 この服装のときは周りの怪人の皆様も空気を読んでくださるのか、不躾なお声がけは控えてくださいます。


 それはそれで少々寂しい気もしますが、こちらの方が何かと都合が良いのです。さぁ司令室へと向かいましょう。



 司令室はこのアジトの最深部にございます。上級社員寮よりもずっと地下深く、施設内に点在するエレベーターをいくつか乗り継いで向かうことができるのです。


 エレベーターを降りた先は一本道になっております。


 伸びる通路のその先には大きな観音開きの扉が待ち受けておりまして、扉上部には律儀に「司令室」と書かれた巨大な表札が付いているのです。


 この荘厳さを目の当たりにしては、潜入した敵さんならゴクリと息呑み身構えてしまうことでしょう。


 とはいえ今の私はただの内部スタッフですので至極自然に振る舞わせていただいております。


 ここは無難にノックでよろしいでしょう。

 中にいらっしゃるなら返事が返ってくるはずです。


 コン、コン、と。


 小気味良い音が通路に響き渡ります。



「おう。誰だ」


 中にいらっしゃるようです。

 やっぱり今日の私はラッキーでしたわね。



「私ですの。今、お時間よろしいでしょうか」


「ブルーか。ああ、入ってきていいぞ」


「失礼いたします」


 無事お赦しもいただけました。

 ご主人様のお声に反応してか、自動で扉が開きます。


 中はよくある社長室、みたいな配置でしょうか。

 部屋の中央奥に大きな机があり、その上には所狭しと書類がタワーになって積み重なっています。


 まさか全てお目通しされているんでしょうか。

 

 私が日々暇々言ってるのがさすがに申し訳なく感じてしまいますね。別に代わって差し上げようとは思いませんが。



「ごきげん麗しゅう、ご主人様」


「ああ、そっちも元気そうでなによりだ。

立ったままっつーのもアレだろ、そこ、座っていいぞ」


「ご気遣いありがとうございますの」


 部屋の壁際にはちょっとした休憩スペースのような場所が用意されています。対なるソファの片側に腰掛けさせていただきました。


 ご主人様も手作業を止められて、向かいのソファに腰を下されます。


 正面にて向き合っておりますの。


 足を組み、頬杖こそ突いていらっしゃいますが、少しも傲慢さは感じさせず、かえって偉大な雰囲気を漂わせていらっしゃいます。足先とか舐め回してみたいですわね。


 ……ぅおっほん。



 ついでに今からご主人様の説明をいたしますの。


 大したことを言うつもりはないので、飛ばしていただいてもさほど影響はないと思われます。


 さて。


 真っ白のコートと軍服とマントで身を包んでいる、何処にでもいそうなのに、オンリーワンのオーラを放つ異質な存在。


 このお人こそ本アジトのトップであり、裏世界の首領であり、数ある秘密結社の王たる総統閣下にございます。


 有力な国々から指名手配されているはずなのに、肉体戦においても情報戦においても、一度たりとて表舞台で敗れたことのない謎多き存在です。


 数多の怪人を有して軍事力を誇示し、地方から中枢に至るまで数多くの権力者を脅し、その権威で世界中を恐怖に染め上げている恐怖の権化ですの。


 また一方では女を沢山侍らせている全世界共通の男の敵で、ただの変態さんですけれども。


 極度の女好きで、なのに紳士的で、茶目っ気があって、優しくて、けれど少し意地悪で、どう考えても女の敵なのに逆らえない不思議な魅力があって、何故かご友人も多くて、部下にも慕われていて、悪の秘密結社のはずなのに、世間では彼を慕う声も多い、そんな稀有で偉大なお方なんですの。


 お顔はとても男らしく、けれどどこか女性的な面もある優男風で、とにかく悪い部位の見当たらないご様子です。


 トンデモなく美形でいらっしゃいますの。今日もお美しすぎて逆に腹が立ってきてしまいます。なんでしょうね、コレ。



 ……もう少しよろしいですの?


 お恥ずかしながら私、テンションが上がってまいりました。



 何より特出すべきはこの肉体です。細身ながら筋肉質で引き締まった体は、見るたびに抱かれたい欲を掻き立ててきますの。本当にズルいの極みです。


 このスペシャルな肉体なだけあって、戦闘センスもさすがのもので、麗若き無知で無能な魔法少女時代には幾度となく相対したこともございますが、その強さに恐れ慄くばかりで、本命パンチなどは一度たりとて当てられたことはございませんでした。


 私なんかはまだいい方で、大抵は返り討ちにあって、そのままお持ち帰りされて、記憶がぶっ飛ぶまでお仕置きお楽しみの刑に処されるのが世の常だったらしいのです。


 もし今私の前に敵が現れたとして、私はそこまで非情になりきれるでしょうか。


 お相手が気に食わない正義側の方なら可能かもしれませんが、もしステキで猛々しい怪人さんだった場合、たとえそれが下級戦闘員さんであっても敗北強制ナントヤラを想像して無意識に手加減してしまいそうです。


 長いモノには巻かれますの。



 その象徴たる存在が総統閣下様なのでございます。



 知略においても戦闘スキルにおいても並び立つ者のいないプロ中のプロ。



 あ、あと大事なことを忘れていましたわね。それは絶倫だということです。


 ぶっちゃけこれが一番大事です。テストにも出ますの。


 朝までビンビンのまま女をヒンヒン言わせられるような、そんな絶対的な力こそ、金より顔より力より、悪の首領に何よりも必要とされるチカラなのでございます。


 天まで反り立つ大きくて逞しいブツ。

 おまけにイケメンとくればもう文句なし。

 見てヨシ見られてヨシ抱かれてヨシ。


 さすが総統! 私たちにできないことを平然とやってのける。そこにシビれます憧れますゥわ!



 こっほん。とにもかくにも、こんな完璧超人のお方が私のご主人様なのでございます。


 はい、説明終わりですの。簡単だったでしょう?


 話したいことはまだまだ山ほどありますが、今回はこれくらいに収めて彼との会話に戻らせていただきましょう。


 改めて尊敬に満ちた目で総統閣下を見つめます。



「で? わざわざお前から尋ねてきてくれたんだ。ここまで来るのも結構大変だったろう? 上で何かあったのか? あ、ゆっくりでいいぞ」


 イケメンなだけでなく、細かな気配りもできるというなんとも隙がない様子に、もはや惚れを通り越して蕩れが出てきてしまいますね。



「いえ、そこまで大したことではないのですが、ご主人様へちょっとした雑談と、ご相談が一つずつ」


「おう。好きなように話してみろ」


 はい。お言葉に甘えて今からお話しいたしますの。


 それではご主人様。

 無礼を承知で色々愚痴らせていただきますからね。

 どうか心してご清聴くださいまし。

 

  

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