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ヨーグルト職人の朝は早い

 

 部屋のドア横にはネームプレートが掲げられております。

 まだ真新しげに掘られた文字を読んでみますと。



「ブルーの部屋、ですって。ぷっ、そのままですわよね」


 捻りも何もないですの。

 そういえば自己紹介を忘れておりましたわね。


 私、〝元〟魔法少女の蒼井美麗(アオイミレイ)です。


 他の方々からは基本的にブルーやらお(じょう)やらと好きに呼ばれておりますの。


 数年前に地上から退いたこの身ですが、まだまだぴっちぴちの18歳と少々です。一応、世間では正直もう少女とは呼べないお年頃でしょうか。


 おそらくは高校3年生くらいだと思いますがお生憎、なんと最終学歴は中学中退レベルなのでございます。


 だってほら、ご主人様に匿われて屈服させられてこの生活に甘んじるようになって以降、一度たりとも表の世界には戻っておりませんもの。


 どうやら今では行方不明扱いになっているらしいですわね。

 おそらく生身では娑婆を歩くのも大変ではありませんこと?


 あんまり考えないようにしておりますけれども。


 ちなみに先日学歴コンプを気にしているかとおちょくりあそばす不届き者がいらっしゃいましたが、つい最近通信教育で高卒認定を得ましたので鼻を明かしてやりましたの。


 その気になれば大学にも進めるとは思いますが、別に今更これ以上勉強なんてしたくないですし。今更人生最大の自由時間なんて必要ありませんの。そもそもずっと自由なんですもの。


 早速横道に逸れかけた話はさておき、です。



 ここは社員寮ですので沢山の方が一つ屋根の下に暮らしております。正確には地下施設ですので屋根といっていいのかは甚だ疑問ですが、そこは華麗におスルーさせていただきましょう。


 驚くなかれ、意外なほどにクリーンな職場なもので、女子寮、男子寮なんていう性区別はなされておりません。


 私と同じような境遇の〝元〟の女性から、日々営業回りでお忙しい怪人の殿方まで、ありとあらゆる方が仲良く同じ施設の中で寝泊まりしておりますの。


 更には皆さんあまりにも仲がよろしいので、二、三部屋を通り過ぎる毎に中から男女の仲睦まじい楽しげな宴の声が聞こえてくるんですのよね。


 この施設、基本的に壁が薄い上にドアキーなんて無粋なモノも必要とされておりません。ゆえに開放的な部屋が多いのです。


 どれどれ、聴き耳立ててみましょうか、なになに……?



 もっとかけて? 棒を出して? 中?

 もう一発? ダブル……まん……なるほど。



 ふふふ。きっとお麻雀でもやっているのでしょう。


 私も気分が乗れば混ざりたいのですが、生憎今はまだブルーで鬱屈とした気持ちの方が上回っておりますの。


 参戦はまたの機会にさせていただきましょう。



 辺りから聞こえてくる阿鼻嬌声を心地よく耳にしながら、それぞれのドアの前を通り過ぎようとしましたところでございました。


 最奥のドアがゆっくりと開いたのです。

 どなたかが出てくるようですの。


 視認するよりも先に香る、強烈な刺激臭。

 これは、うん。きっと栗の花の香り(・・・・・・)ですわね。


 身体から芳しい花の香りを漂わせ、まるでヨーグルト風呂を上からひっくり返して浴びたかのような全身ドロドロ姿で現れたその人は、フラフラとした足取りでこちらに歩いてきなさいます。


 外見、可愛らしくて小さな女の子です。


 紅い髪の毛にヨーグルトを乗せて、まるで冠雪赤富士のように頭のめでたいこの女性は、とても心此処にあらずなふわふわなご様子です。


 お名前は小暮茜(こぐれあかね)さん。


 りんごのように頬を赤く紅葉させた彼女は、私の〝元〟相方で、かつては正義の炎を胸に灯していたヒロインさんでございます。



 対する今は……別に言わなくてもいいですわよね。

 そんな彼女と目が合ってしまいましたの。



「ふわぁへぁ…あ、美麗ちゃんんぁ。こんばんは〜あはぁ」


「こんばんはですの。ご機嫌うるわしゅう」


 既に呂律が回っていないご様子ですが、きっとたくさんの乳酸菌活性化運動をしたのでしょう。


 よく見れば上の口からも別の口からも絶えず新鮮なヨーグルトを垂れ流していらっしゃいます。



「えっへへぇ。オーク怪人さんのところで遊んでるんだぁ〜、朝から数えて11回戦くらいしてぇ、今はっ休憩なの」


「あらあら、まったくお二人ともタフですこと。ちなみに勝敗はいかほどです?」


「なぁんと0勝11敗の連敗中。オークさん強いねぇ……ぁはぁ、もうお腹たっぷたぷだよぅ」



 ヨーグルト職人の朝は早い。

 そして今日はきっと夜も遅いのでしょう。


 ぽっこりと膨れた下腹部を見るに、彼のを沢山ご馳走になっているのだと想像ができます。ましてオークさんのは濃ゆくて無尽蔵と聞きますからさぞかし大変なのでしょうね。


 私も以前つまみ食いをさせていただきましたが一日中はさすがに未プレイでございます。じゅる、じゅるり。



 しかしながら、興味深いお話をもっと聞かせていただきたいのも山々ですが、いかんせんオーク怪人さんの栗の花ヨーグルトは特別鼻についてしまうのです。


 自分が当事者で気分がノッているときでもなければ、これはわりと耐えられないほどの刺激臭なのでございます。


 このままでは趣が乗る以前に気分が冴えなくなってしまいそうですの。


 早々に話を切り上げさせていただくことにいたしましょう。



「まぁお楽しみもほどほどに。あんまりご無理をなさらないようにしてくださいまし。……それ、お通じに効くヨーグルトではなさそうですからね」


 ホントに粘り気が凄いですし。

 糸引いたまま床につくくらいドロりとしていらっしゃいますし。



「えへへぇ、でもまだ半分もやってないからねぇ。あ、そうだ。美麗ちゃんも一緒にどう?」


「謹んで。また今度ご一緒させていただきますの」


「うーん、わかったぁ。それじゃ戻るねぇ」


「ええ、ご武運を」



 まぁあのご様子では自制は無理そうですけども。

 あ、あと終わったら歩いた床はお掃除してくださいな。


 ここは共有部なんですから。

 刺激臭で煙検知が作動してしまいますの。


 ふらふらと元の部屋に戻る彼女を見送ります。



 ……この先には進めそうにないですね。

 滴り落ちたベタベタに足を取られてしまいそうですもの。



 踵を返して反対方向へと歩き始めます。


 今度は自室から反対側のルートへと向かいましょう。

 まだまだお散歩しておきたい気分なのでございます。


 あら? 少しばかり歩いたからでしょうか。

 ちょっとだけ小腹が空いてきましたの。


 こっほん。

 こちらはホントの小腹ですので悪しからず。

 

  


読み進めていただくと

いただいたファンアートを

掲載していたりしますの。

ページ数はナイショですのっ!

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[良い点] 2話目にしてエッッッッッッな展開とは、作者は神ですか?
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