表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/545

第百三話「ミコトがやってきた!」


 学園が始まってから早一ヶ月が経過している。リンガーブルク家のことについて聞いてから色々と手は打っているけど今の所良い進展はない。それ以外は五人組もヘレーネも大人しいしカタリーナやルイーザやクラウディアとの仲も順調だ。実に順調な学生生活を送れている。アレクサンドラのことさえどうにかなれば……。


 一体どうすれば良いだろうか。イグナーツからの定期連絡でもあまり良い情報は集まっていないようだった。こちらも捜査の進展はないし対策も思い浮かばない。今の所王様達が結婚の許可を出していないから何とかなっているけど相手もそのうち痺れを切らせて動いてくるだろう。時間稼ぎは出来ているけどその間にどうにかする方法を見つけないと時間切れで詰んでしまう。


「え~……、今日は転入生を紹介します。入ってください」


 俺が考え事をしているとクラスの担任がそんなことを言っていた。半分以上聞き流しているけどさすがにそれくらいは聞いている。


 それにしても今頃転入生ね……。どういう人か知らないけど随分お気楽なものだ。時期も中途半端だし今頃わざわざこんな学園に来るのもよくわからない。プロイス王国の貴族にとってはこの学園を卒業しているというのは一種のステータスらしいけど俺はあまり価値があるとは思えない。


 そんなことより手詰まりになっているアレクサンドラの件について色々と考えなければ……。


「皆様御機嫌よう。私はデル王国から来ましたミコト・ヴァンデンリズセンです。どうぞよろしくお願い致します」


 皆がパチパチと拍手しているので俺も合わせて拍手しながらチラリと教卓の方を見て……、固まった。


「ミっ、ミコト……?」


「先生……、私あの席が良いわ。あの席にしてくださるかしら?」


 ジロリと俺の方を睨んだツインテールの転入生の美少女は俺の横の席を指してそういった。そこに元々座っている男子生徒はビクリと肩を跳ね上げていた。


「ヴァンデンリズセンさんの席は別に用意してありますが……」


「それではあの方がそちらに座ってください」


 ヘレーネの横、このクラスで一番の席が新しく用意されている。どうやら序列一位の席だったようだ。そんな場所と替われと言われた俺の横に座っていた生徒はオロオロしている。そりゃ普通そうなるよな。ミコトもひどいことを言うものだ。だからって男子生徒を助けてやろうとは思わないけど……。


 なんだかんだと少々揉めていたけどミコトが替われと押し切ったら誰も何も言えなくなっていた。男子生徒を押し退けて俺の横にミコトがやってくる。


「ミっ……、うっ!」


「…………」


 『ミコト』と声をかけようとしたらジロリと睨まれた。顔は確かにミコトの顔を大人にしたような感じだけど色々と違う部分もある。まず俺の知っているミコトは黒目黒髪だったはずなのにこの美少女は茶髪に茶色い瞳だ。


 それにさっきの紹介でスメラギ・ミコトじゃなくてミコト・ヴァンデンリズセンとか名乗っていた。苗字がまったく違う。まさか見た目はミコトそっくりだけどまったくの別人……、なんてことはないな。俺の横に座ったミコトはめっちゃくちゃ俺を睨んでいる。これはあの時のことを怒ってるんだろうなぁ……。


 ミコトは俺の方は見てくるけど話しかけられる雰囲気でもなかった。ちょっと落ち着いて二人で話せるタイミングまで待つしかないようだ……。




  ~~~~~~~




 ようやくお昼休みだ。お昼休みならミコトともゆっくり話せるだろう。途中の休憩時間にはミコトに話しかけようとしている者も居たみたいだけど、全てミコトの拒絶オーラに阻まれてまともに話も出来ていなかった。


「少し顔を貸してくださるかしら?」


「えっ?えぇ……」


 どうやってミコトを誘い出そうかと思っていたらミコトの方から話しかけてきた。向こうもタイミングを探っていたようだ。俺の方もミコトと話をしたいと思っていたのだから断る理由はない。今まで全てを拒絶していたミコトが俺に話しかけたことで周りが少々ざわついているけど気にすることなく出て行くミコトを慌てて追いかける。


 やってきたのは人のいない空き教室だ。ここなら多少の音や会話は外には漏れないだろう。だけどそれだけじゃ不十分な気がする。俺とミコトの組み合わせが珍しいのか俺達に興味津々な外野が何人か後をつけてきている。ここで会話したり何かすれば見聞きされてしまうだろう。


 そう思ったけど……、あれ?今何か……、魔法?何か魔法が発動したような気がする?ミコトが魔法を使ったのか?どうして?


「さぁ、いくわよ」


「え?」


 魔法を使ったらしいミコトはガラッ!と窓を開けて身を乗り出した。いやいやいや!レディが窓から出るとか良いんですか?まぁ俺もカーンブルクの屋敷からミコトに会いに行ってた時は窓から脱出してましたけども……。今と当時では色々と違うだろう。それに他の者に見られたら評判に影響してしまう。


「大丈夫。追いかけてきてた奴らは今頃幻を見てるわ。さっ、行きましょう」


 幻?さっき何か魔法が発動したような気がしたのはやっぱり気のせいじゃなかったようだ。ミコトが何か惑わす魔法を使って追いかけてきていた奴らの目を誤魔化したということかな。


 どちらにしろミコトについて行くしかないので俺も窓から外へと出る。するとミコトが上を指した。どうやら壁を登れということらしい……。


 こんな格好で?普通にスカートなんですが?


「フロトは自力でいけるでしょ?私は飛ぶわね」


「あっ!」


 昔見た飛ぶ魔法でぴょ~んと飛び上がったミコトは屋上へとあがっていた。俺も追いかけるしかない。


「はぁ……、淑女の嗜みが足りないのは今も昔も変わらずですか……」


 昔からミコトはレディとしての自覚や行動が足りなかった。どうやら数年経った今もまだ直っていないようだ。どうせ登らなければならないならさっさと登ってしまおう。あまりにチンタラしてたら下から男子生徒に見られる恐れもある。


 ロッククライミングのように手をかけ、足をかけ登っていたら無駄に時間がかかるだけだ。何箇所かの足場を選んで地面を蹴ると跳び上がった。足場に決めていた場所に跳び上がると今度はそこに足をかけてまた跳び上がる。ヒョイヒョイヒョイと壁を蹴って跳び上がった俺はものの数秒で屋上へとあがる。


「さすがねフロト。相変わらず人間離れしているわ」


「失敬な……。か弱い私のどこが人間離れしているというのですか……」


 人間離れしているというのは俺の父や母のような者のことを言うんだ。俺はどちらかといえばか弱い乙女でしかない。


 っていうかさっきから俺のことをフロト、フロトって……、やっぱりミコトなんだ……。


「ミコト……、久し……、え?」


 俺が声をかけようとしたら、ミコトは俺にギュッと抱き付いていた。その体は僅かに震えている。


「ずっと……、ずっと会いたかったんだから!」


「……うん」


 俺には何も言えない。あの日ミコトにひどいことをしたのは俺の方だ。だから今はミコトのしたいようにさせてあげることしか出来ない。それが俺に出来るせめてものことだ。


「私ちゃんと友達たくさん作ったよ?それなのにフロトは会いに来てくれなかったじゃない!」


「ごめん……」


 そうだよな……。連絡方法もなかったのにどうして約束が果たされたかどうか確認しようと思っていたのだろうか。俺はただ共依存状態になっていた俺達の関係をどうにかしなければという思いだけで一杯だった。どうやって共依存を克服するとか、二人のその先について話し合うこともなく俺だけで勝手に決めて、勝手に行動して、ミコトに辛い思いをさせてしまった。


 今から考えれば俺も冷静じゃなかったんだろう。今ならもっと他に方法があったんじゃないかと言うことは出来る。だけど当時の俺はもうどうしていいかわからなくて、とにかくミコトを自立させようと必死だった。後になっていつもの場所を見に行った時にはもうミコトが来ている様子はなく何日か様子を見に行った俺もそのうち諦めるようになっていた。


 俺は結局何がしたかったんだろうな?ミコトに寂しい思いをさせて、ミコトを傷つけて……。でも今のミコトの様子を見てみればそれでよかったのかもしれないとも思える。出会った頃のような勝気なミコトが戻っているような気がする。


「フロトの馬鹿馬鹿!もう離さない!」


「えぇ……」


 全然治ってなくない?むしろ悪化してない?何だこれは?それなら俺は何の為にあんなことをしたんだ……。


「……フロトがどうしてあんなことをしたのか今ならわかるよ」


「え?」


 相変わらず俺の胸に顔を埋めたままだけど、ミコトはポツリとそんな言葉を漏らした。


「あの時は私だって傷ついたしフロトを恨もうと思ったこともある。だけどあれがフロトが私のためを思って心を鬼にしてしてくれたことなんだって今ならわかってる……」


「ミコト……」


 なんだ。ミコトもちゃんと大人になってるんじゃないか。俺の心配しすぎだったかな。


「だけど私が傷ついたのも寂しかったのも本当なんだからね!だから私はフロトのこと許さないから!私がいいっていうまでずっと私の傍にいて!」


「……うん。ごめんね……。これからは傍にいるよ……」


 少し俺の胸元が濡れている。ミコトは顔を埋めたままだからその顔はわからない。だけど今どういう状態なのかは震えた声や濡れてきている俺の胸元で俺にだってわかる。だから今はただそっとその頭を抱き寄せて撫でてあげることしか出来ない。


「あれ?でも何でミコトは名前が変わってて髪も瞳も色が変わってるの?」


 ミコトの髪を撫でているとそのことを思い出した。色々と聞きたいことが山ほどある。あれからどうなったのか。何故ここにいるのか。名前や風貌が変わっているのは何故か。


「髪は私の故郷に伝わる方法で脱色したの。瞳は魔法で見せ掛けを変えているだけだから魔法を解いたら前のままよ」


 へぇ。脱色ってブリーチみたいなものかな。瞳も今誤魔化しているだけのようだし外見の変化に関してはわかった。


「名前は……、そうね。デル王国って知ってるかしら?」


「ううん。知らない」


「そう……。えっとね。デル王国は海を越えた先の北方にある国なの。ヴァンデンリズセンはデル王国王家の家名よ」


 なるほど。ミコトはその国に力と名前を借りてやってきたというわけか。


「よくそんな国と伝手があるのね」


「え?!驚かないの?っていうか私が本物のデル王国の王族じゃないってわかってるんだ?」


「それはそうでしょう?デル王国は人間の国でしょう?ミコトは魔族じゃない」


「えっ!」


「……え?」


 ミコトが驚いた顔で俺を見ている。何かおかしなことを言っただろうか。俺が首を傾げているとミコトは『はぁ~~っ』と盛大な溜息を吐きながら首を振っていた。


「私が魔族だって知っていたの?」


「うん。なんとなく……」


 そりゃあんな山奥にあんな小さな女の子が一人でウロウロしてたらおかしいと思うだろう。最初の一回くらいなら迷子とか樵や猟師の関係者かとも思うけど、俺がカーンブルクから向かうより先にあそこに来ていて後から帰って行くなんてあの近辺に住んでいる者しかあり得ない。


 俺はあの森をかなり調査したからあの辺りに人が住んでいる村どころか山小屋一つないことは確認済みだ。そんな場所にホイホイやってこれる者が普通の人間であるはずはない。


 そしてミコトがいつも帰っていたと思われる方向は北西の山脈ヘクセンナハトの方だった。あの先にあるのは魔族の国と言われている場所だけだ。


「やっぱり黒目黒髪だから?」


「え?魔族って皆黒目黒髪なの?」


「…………」


「………………」


 ミコトに問い返すとまた盛大に『はぁぁぁ~~~~っ!』と溜息を吐かれてしまった。


「そんなことも知らないのに私が魔族だってわかったの?魔族は皆黒目黒髪よ」


「へぇ!そうなんだ。だから今も髪と瞳の色を変えてるわけね。あんな場所に小さな女の子が一人でウロウロしてたら普通じゃないってわかるでしょ?そう考えればミコトはヘクセンナハトの向こうから来た人だって想像がつくじゃない」


「じゃあフロトはどうなのよ……。あんな所をウロウロしてた小さな女の子はフロトも一緒でしょ……」


 まぁ俺は転生者だから見た目通りの子供じゃないし?とはミコトには説明出来ないのがもどかしい。


「わっ、私のことはいいじゃない。あそこは私の領地なんだし……。それよりミコトはどうして今のような時期にわざわざ学園へ?」


「あのね!フロトを追っかけてきたに決まってるでしょ!それもフロト・フォン・カーンなんて名乗っておきながら違うじゃない!貴女本当はフローラ・シャルロッテ・フォン・カーザースなんでしょ!お陰で探すのに随分苦労したわよ!それでようやく見つけたと思ったら王都の学園に通うためにいないなんて!フロトに会うために転入してきたに決まってるでしょ!」


 あぁ……、そうだったのか……。そんな苦労までかけてしまっていたんだ。だけど……、こう言ったらミコトはまた怒るかもしれないけどうれしい。ミコトがそこまでしてでも俺に会いに来てくれるなんてそんなうれしいことはない。


「フロトもフローラもどっちも私なんだ。これからはもっときちんとお話しましょう。ミコトのこともっと教えて?そして私のことをもっと聞いて。もっと、大事なことはきちんと話し合いましょう。もうあんなことを繰り返さないために」


「…………そうね。もうあんな想いだけはたくさんだわ。それに私だってもっとフロトのことが知りたい!」


「うん……」


 あぁ、今日はなんて素晴らしい日なんだろうか。俺とミコトはお昼休みが終わるまで止まることなくお互いの話を聞いたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ