313 姫は我が儘なのです
本日二話目。
無理のない範囲で投稿する(連投しないとは言っていない)
ツリーハウスの中に戻ると、そこには縛られた草間くんと荻原くんの姿があった。
安定の向かい合わせ、抱き着いたような状態の縛り方である。
ここを出ていく時は荻原くんだけが正座していた気がするんだけど、なんでまた草間くんとセットになって縛られてんの?
……うん。
ここはスルーで。
前を歩く吸血っ子もスルーしてるし。
吸血っ子は先ほどまで私たちが座っていた椅子の前に行く。
けど、座ることはなく腕を組んで立ったまま。
ただ、無言で私に座るように促してくるので、とりあえず私は座っておく。
「はいはい。それじゃあ再開するわよ。いない人は? いる? いるんだったら誰か呼びに言ってちょうだい」
吸血っ子が手をパンパンと叩きながら、部屋にいる人たち全員に聞こえるように声を張り上げる。
割と大きな声を出しているというのに、不思議と気品が損なわれていないのが凄い。
あれ?
こいつこんなに立派だったっけ?
吸血っ子の声に反応して、それまで雑談を交わしていた転生者たちが静かになる。
同時に、工藤さんが席を立って階段を昇っていった。
山田くんとかまだ戻ってきてないし、呼びに行ったっぽい。
吸血っ子はそれを見届けてから、再度腕を組んで静観の構えをとった。
それを、鬼くんが訝しげに見つめる。
うん。
鬼くんの気持ちはよくわかる。
こういう場面で吸血っ子が矢面に立つことはないからね。
で、吸血っ子が率先して行動する時って、大抵なんかろくでもないことが起きる前兆だったりするし。
チラチラと私に問いたげな視線を向けてくる鬼くん。
しかし、私に言えることはない!
しばらく待っていると、工藤さんが山田くんたちを連れて戻ってきた。
それぞれがさっきの席に着く。
「じゃあ再開するわよ」
吸血っ子が進行役に変わったからか、さっきとはまた別種の緊張感があたりを包む。
さっきまでの緊張感が、先の見えない不安と、得体の知れない人物に対する恐怖をはらんでいたのに対して、今の緊張感は単純に吸血っ子の存在感に威圧されている感じ。
……あれ?
なんか私への緊張感のほうが酷くね?
解せぬ。
「まず最初に言っとくけど、あんたたちは私たちに助けられた立場で、しかもその生殺与奪権はこっちが握ってるってことを理解しときなさい」
ぶっ!?
なんかいきなり爆弾ぶっこんできた。
「ちょっと待て!」
「うるさい。黙りなさい」
山田くんが立ち上がりながら抗議しようとしたけど、吸血っ子はそれを黙らせた。
物理的に。
「がっ!?」
たぶん、この場で何が起きたのか理解できたのは、私と鬼くんだけだと思う。
大島くんや田川くんといった、ある程度戦える転生者でも、吸血っ子の動きは目で追えてなかったはずだ。
吸血っ子が何をしたのかと言えば、単純に山田くんに近づいて足払いしただけ。
ただ、その速度と足払いに込められた力が尋常じゃなかったというだけで。
山田くんが椅子を吹き飛ばしながら倒れる。
一応手加減したのか、山田くんの足が折れてる様子はない。
手加減してなかったら折れてるどころか、山田くんの下半身が吹っ飛んでたかもしれないし。
「こっちは親切心、というか、義理で話してあげてるの。わかる? あ、げ、て、る、の」
倒れ、痛みに呻く山田くんに向けて、吸血っ子が幼子に言い聞かせるかのように語る。
「ぶっちゃけ私たちはエルフを攻め滅ぼしたついでであなたたちを助けただけ。だから別に説明もなしに放り出してもいいのよ。だけど、前世の好で親切に、こうして説明してあげようっていうの。優しいでしょ?」
優しい奴はいきなり人の足を払ったりしないと思う。
てか、生殺与奪権握ってるとか、脅しにもとれる言葉は吐かんがな。
「ちょっと」
「京也くんも黙ってなさい。あなたのせいで脱線しまくってるんだから、これ以上場を混乱させないでくれる?」
苦言を呈そうとした鬼くんを、吸血っ子が黙らせる。
現在進行形で場を乱しまくってる奴の言葉じゃねーな!
「聞く権利はあるだっけ? そんなのあるわけないでしょ。あなたたちの今の立場は捕虜みたいなもんよ。しかも、国元のない難民の。生かすも殺すも私たちの気分次第ってわけ。おわかり?」
ニッコリと微笑む吸血っ子とは対照的に、転生者たちの顔色は一気に悪くなっていく。
さっきまで学級会の延長みたいな空気が漂っていたのに、今は殺すだの生かすだのといった不穏な言葉に、自分たちが立たされている現状が思っていた以上にやばいということに気づいたみたい。
うん。
それをわからせる手法が強引すぎるけどな!
どうすんだこの凍りついた空気!
「そんな言い方」
「だから黙りなさいってば」
再度何かを口にしかけた山田くんの顔を、吸血っ子が容赦なく蹴り飛ばす。
「やめろ!」
「だからうるさいってば」
止めに入ろうとした大島くんを、吸血っ子はひっぱたいて床に転がす。
女の子の顔になんてことを!
大島くんを女の子カテゴリーに入れていいのかどうかは、まあ、いいか。
「文句があるなら出ていってちょうだい。こっちは説明をしてやる義務はないんだから。あなたたちが聞きたくないって言うのなら別に聞かなくてもいいわ。聞く気があるのなら黙ってなさい。あんたたちが口を開く時間が無駄」
シーンと静まり返る室内。
山田くんが静かに大島くんのそばにより、はたかれた箇所に治療魔法をかける以外、動きらしい動きがない。
息さえひそめている感じに。
「よろしい。じゃあ黙って聞くこと。途中質問は受け付けないわ。全部聞かせたうえで、最後に受け付けてあげる。それまでは黙って聞いてなさい。いいわね?」
誰も吸血っ子に反論しようとしない。
完全に恐怖政治のやり方だこれー!
確かに、話を聞かせるのには有効かもしれないけど、その後の心証最悪じゃないですかやだー。
どうすんのこれ?
もう知ーらねっと。