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一夏の経験

連載再開です。夏休み明けたぞい(書いてる今は11月)。

 学生の夏休みっていうとさ、「一夏の経験を経て大人の階段のぼっちゃったヤツ」みたいなのが思い出されるんだけど、ここにいる13歳とか14歳のみんなには関係ないわけで……。

 ない、よな?

 ないよな?

 さすがにないよな?

 なんか顔が○×□の3人が、つややかな顔をして我が黒鋼寮に帰ってきたんだけど、そんなことないよな?


「ふぅ……すばらしかったな○」

「ああ。これだから止められん×」

「俺たちは一皮剥けてしまったな◇」


 こいつらは確か、夏休みの間は実家に帰っていたはずだが……。


「お、おいお前ら……」

「よう、ソーマじゃん×」

「元気だったか?○」

「ま、まあ俺は元気だけども……ど、どうしたんだ? お前ら、なんか雰囲気違うぞ」


 俺が軽くジャブを打ってみると3人は顔を見合わせ、意味ありげに笑ってみせる。

 そして手招きするので俺がヤツらに近づくと、耳元にささやく。


「……オリザ様に3発も蹴ってもらったんだ◇」


 よかった、こいつらはなにひとつ変わっていなかった。

 ちなみに言うと俺は、夏の間は王都でアルバイト三昧だった。いや……資金が心許なくなってきたタイミングで、同室の守銭奴リットが「え? ソーマ実家に帰らないの? ふーん……じゃ、バイトする? 稼げるよ?」なんて言ってきたんだ。

 悪魔である。

 完璧なタイミングでの誘いを、断り切れなかった俺は、「やるやるぅ!」と返事しちゃったわけ。あー、いや、ちょっとは実家に帰ろうかなみたいなのも思ったんだけど、帰省するにもお金が掛かるし、もうひとりの同室である剣術バカことスヴェンが「自分は学園に残ります」とか言うんだもんよ。

 あのな。残ったとしても、メシどうすんの? 寮の食堂やってないぞ? と聞いた俺になんて言ったと思う?


「剣を振ります」


 なに言ってんだコイツ……。放っておいたら死ぬ(確信)。だから俺も寮に残ろうか、残るくらいならお金稼ぎしよう……ということで、リットの紹介で、リットの実家ホーネット商会で働いたんだよな。

 荷物運びに、帳簿付け、カフェの厨房、フロアと、休日なしでなんでもやったよ……。「お前、筋がいいな! バイトリーダーにならないか!?」という誘いを5回くらい受けたが「いえ……自分、騎士ですから……」とお断りしつつも、我ながら「俺ってほんとうに騎士のタマゴだっけ? バイトリーダーになるんじゃなかったっけ?」と錯覚するほどには働いた。

 そんなこんなで、まぁ、お金は増えてよかった。

 スヴェンもバイトしたのかって?

 アイツはずっと剣振ってたよ。




王立学園騎士養成校(ロイヤルスクール)」内には帰省していた生徒たちが帰ってきて、賑わいを見せている。


「しっかし焼けたな〜お前ら」


 実家に帰省していた連中の大半がよく日に焼けている。

 肌の白いヤツは赤くなってるだけだけどな。


「しょうがねーだろ……ウチみたいな貧乏貴族は外を走り回ってナンボだからな」


 トッチョがムスッとした顔で言う。

 トッチョの実家はそこそこの名家ではあるが、領民の農地を回って彼らと対話をしたり、増えた害獣を倒したりと屋外の仕事も多いらしい。


「なるほどなあ。でもオービットは白いじゃないか。商家だろ?」


 背が低くてなよっとしているオービットだけれど、武技のクラス対抗戦では個人順位3位に入るという快挙を成し遂げた。

 どう見てもヤ○ザの息子にしか見えない蒼竜のヴァントールが4位、白騎のキールくんが5位だもんな。

 オービットは弓の扱いが上手くて、狙いの付け所に天性の才能がある。

 まあ、本人はビビリで、寮に入り込んだ虫を見ても「無理です〜!」って泣いてたけど。


「ぼ、僕は……ずっと倉庫で計算をしていて……」

「……オービットくんって、実家で扱い悪いの?」

「そ、そういうわけじゃないんですけど、計算できる人間はやっぱり貴重ですから……」

「な、なるほど」


 オービットに座学で算術をかなり叩き込んでしまった俺としては少し罪悪感がある。


「……でも、実家の役に立ててうれしかったです」


 オービットがはにかんで微笑んだ。

 それなら……よかった、のかな?


「……あんまり女子に『焼けた』だの『肌が荒れてる』だの言うなよ〜」

「うおわ!? リット!?」


 突然背後から出現したリットに驚く。


「……あれ?」

「なに。僕、悪いけど日に焼けてなんてないよ」

「いやそうじゃなくて……」


 なんだろ。

 なんかリットの雰囲気が違うな。

 前よりなんか……可愛くなった?


「なあ、リット」

「ん」

「お前、新しい彼女できた?」

「!? な、ななななに言ってんだよ!? バカなの!? 大体『新しい』ってなんだよ!?」

「あっ、前の彼女は秘密なんだっけ?」

「べ、別にそういう——ま、まあ、そんなとこ」


 顔を真っ赤にしたリットだったけど、確かにこいつは女子とのやりとりをこそこそやるところがあるもんな。

 余計なことは言わんでおこう。

 早速○×◇に「リットに彼女?○」「マジかよ×」「俺たちに紹介は?◇」なんて言って絡まれている。

 いやー、新しい彼女の好みが、こう、女の子っぽい男の子なのかなあとかそんなことを考えたのだけど違うらしい。


「女子には……『日に焼けた』なんて言うな、か」

「そりゃそうだろ。肌が焼けてるのなんて下級貴族の証みたいなもんだからな。上級貴族の連中は夏は避暑地で涼んでるんだぞ。世界が違う」


 トッチョがなぜか上級貴族のことを解説してくれる。


「……いや、待てよ? ってことはニーズがあるんじゃないか?」

「あ? ニーズ?」


 俺は閃いた。


「そうだ、日焼け止めだ! 日焼け止めを作れば売れるぞ!!」

「日焼け止め? なんだそりゃ」

「日焼け止めってのはな、クリームになってて肌に塗っておくんだ。そうすると紫外線をカットして肌を保護し、日に焼けないんだよ! これは来た。バカ売れする」

「——んなわけねーだろ」


 声がしたほうを見て、俺はぎょっとした。


「誰に売るんだ、誰に。平民は肌が焼けるなんて気にしないし、上級貴族は日に焼けない。欲しがってるのが下級貴族だけだったら商売になんてなるわけがねえ。連中は金がないから日焼けするような仕事してんだぞ?」

「お、おまっ……!?」


 そこにいたのは男の俺ですら二度見してしまうようなイケメン。

 13歳か14歳だというのにすらりと高身長で、元々の甘いマスクにどこかワイルドさが加わっている。

 黄槍クラスのマテュー=アクシア=ハンマブルクだ。


「マテュー!?」

「よう」

「僕もいるよ〜」


 マテューの陰から出てきたのはフランシスだ。


「久しぶり、ソーマ! 元気だった?」

「お、おう……フランシスこそ元気そうだな。ていうかお前ら、ここは黒鋼寮だぞ。黄槍の場所がわからなくなったのか?」

「……んなわけねーだろ。ここにはちょっと用事があってな……」


 ちらちらと寮のロビー内を見るが、そこにお目当ての人間はいないようだ。

 ああ、そういやこいつリットを捜してるんだっけか。

 でもなぁ、こいつが好きだった人が死んでるわけだろ? で、リットはリットで自分の身元を隠そうとしてる。

 ……うむ、こいつにリットのことを話すわけにはいかんな。

 ていうかリットに怒られるわ。


「チッ、いねーか」

「僕はソーマに会いに来たんだよ。僕さ、休みの間に実家に戻って親と大ゲンカしてさ〜」

「奇遇だな。俺も実家でドンパチやってきたわ」


 主にイノシシ相手だったり、スヴェンとレプラがドンパチやったりだったけど。


「で、家を勘当されてきたんだ〜」

「へぇ……勘当!?」


 大事じゃねーか! なにサラッと言ってんだ!?


「でもマテューが手を回してくれて、学校には卒業まで通えるから大丈夫なんだ」

「だ、大丈夫? なにがどうしたら大丈夫なんだそれ?」

「だって、卒業したら男爵位もらって騎士になるんだから。そしたら自立して生きていけるじゃん? 黒鋼のみんなだってそういう人ばっかじゃないの?」

「それは——」


 そうか。

 生きていく、という点だけなら大丈夫なのかもしれない。


(……フランシスの親か)


 彼の背中の傷を俺は見てしまった。

 そのときフランシスは、貴族であるために必要とかなんとか言ってなかったっけ。

 きっと親か、親族につけられた傷なのだろうとは思ってたけど……。


(それがお前のけじめの付け方なのか)


 まだ13歳か14歳のフランシスが、将来を見据えて一歩踏み出したってことなんだろう。


「俺、応援するよ、お前のこと」

「!」


 フランシスはハッとしたような顔になり、次に、


「えへへ……うん! ありがとう!」


 美少年らしい満面の笑顔でうなずいた。


「言質はとったぞ、ソーンマルクス」

「なにいきなり物騒なこと言い出してんの、お前……」

「いや、フランシスが決意したのはお前がいたからだろ」

「お、俺!?」

「ち、違うよ。ソーマは関係なくて——むぐっ」

「だから、ちゃんと応援しろよ?」


 マテューはフランシスの口を塞いで俺に笑って見せる。


「こいつはしつこいぞ。座学だけじゃなく武技も教えろとか言うかもしれんからな」

「ああ、それくらいは大歓迎だけど」

「——ぶはっ。ほら! マテュー! ソーマは大歓迎だって!」

「そうかよ。よかったな」

「うん!」


 そんなことを言いながら黄槍クラスのふたりは去っていった。

 一夏の経験だけで言ったら、フランシスがダントツで経験値を積んできたのかもしれないな。




「全員そろってるな?」


 2学期がスタートした初日、ジノブランド先生が黒鋼クラスの教室へとやってきた。

 ウチのクラスではいろいろとわだかまりがあった先生だけど、今はそれもだいぶほぐれている。

 先生もまた、貴族社会っていうデカい枠組みの中でもまれにもまれた被害者だったんだよなぁ、って。


 ●10月第3週 秋期国内統一テスト

 ●11月第3週 秋期学内個人戦


 先生は黒板にそう書き記した。


「見ての通り、2学期は2つの大きな山場がある。各クラスはここでいい成績を出すべく本気を出してくるだろう。12月に入ればすぐに冬の政治シーズンとなり、冬期休暇も始まるからな」


 えっ、2学期は実質9月、10月、11月の3か月しかないってことか。

 結構のんびりしてるんだな。

 ……なんて、最初俺もびっくりしたけど、この世界ではそれが標準らしい。

 むしろ貴族の親からは11月から休みにしてくれとせっつかれることもあるとか。

「冬の政治シーズン」って先生が言ったけど、貴族は冬の間にあちこちで密談をして春にその結果が出てくるそうだ。

 冬は、各国ともに出兵しないので戦争が起きないし、モンスターもあんまり活動しなくなるから平和だってことだろう。


「あのー、先生?」


 とまあ、そこまでは知ってるんだが、俺はひとつ気になったところがあった。


「なんだソーンマルクス」

「座学のテストと武技の個人戦はわかるんですけど、国内、とか、学内、とか違いあるんですか?」

「……お前、それは本気で言ってるのか?」


 え? ジノブランド先生、天井を見上げてどうしたんですか? そこにはなにもありませんよ?


「お前、1位を狙ってるんだろう?」

「あ、はい、まぁ」


 俺が1位を取らなきゃ退学、という話は大半のクラスメイトは知らないのでジノブランド先生はふわっとした感じで言ってくれている。


「『国内』というのは文字通り、王国全体だ」

「ん? でもテストはここでやるんですよね?」

「あのな、『王立学園騎士養成校』はここだけでなく王国内に5箇所あるだろうが」

「えっ」


 俺が横のリットを見ると、頬杖をついたリット先生は「は? 知らなかったの?」みたいな顔で俺を見ている。


「王家が通う騎士養成校は本校しかないから『ロイヤルスクール』と呼ばれているが、王国内でも規模の大きい5州の州都には州が運営する騎士養成校がある」


 そ、そう言えばそうだったような……。


「気をつけろよ、ソーンマルクス。規模も生徒の質も、本校が1位であることは毎年そうだが……たまにあるんだ。麒麟児のような俊英が、州の騎士養成校に紛れ込んでいることがな。そういった才能は国内統一テストで明らかになる」

「…………」


 おいおい、座学のテストでとりあえず今年来年再来年くらいまでは1位取っておこうと思ってた俺の計画、大丈夫か……? そんなダークホースがいるなんて知らなかったぞ。


「気を緩めず勉強することだ。……その点で言えば、みんな大丈夫なのか?」


 ジノブランド先生が他の生徒たちを見渡した。

 ぼーっとしている生徒。

 居眠りしている生徒。

 おしゃべりしている生徒。

 なんか……緊張感に欠けてるんだよな。


「たぶん夏休みボケじゃないかと……」

「なんだそれは」

「大丈夫ですよ、先生。俺、個人1位だけじゃなくて座学のクラス順位1位も目指してますから!」


 そう宣言したら、青い顔でみんながこっちを見た。

 よしよし、大丈夫そうじゃないか。




 みんな「クラス1位はほんと止めてくれ」って言ってたけど、武技のほうで1位取ったじゃないか——そんなふうに思っていると、オリザちゃんに、


「バカ。武技のクラス対抗戦は白騎と蒼竜のつぶし合いがあったせいだってことで貴族の間じゃ話が済んでるんだよ」


 って言われた。

 他の貴族家の息子たちがうんうんとうなずいているところを見ると、オリザちゃんの言ってることは正しいんだろう。

 確か順位は……。


   1位 黒鋼クラス

   2位 緋剣クラス

   3位 蒼竜クラス

   4位 白騎クラス

   5位 碧盾クラス

   6位 黄槍クラス


 だったっけ。

 キールくんの白騎が蒼竜に負けちゃったんだよな。


「仕掛けたのは蒼竜で、負けたのが白騎。どっちの生徒たちもなんでそんなつぶし合いをしたのか、それを止められなかったのかって大目玉食ったってよ」

「そうなのか……」


 そう言えば新学期が始まったばかりとは言っても、キールくんだけじゃなく白騎クラスや蒼竜クラスの生徒をあんまり見かけなかったな。

 キールくん、クラス対抗戦で蒼竜クラスに完全マークされて、最後はぶっ倒れたんだっけ……。

 俺がレッドアームベアとやりあって疲労困憊でぶっ倒れたのとはワケが違うよな。

 1年生とはいえ、白騎クラスの敗北ってのはデカい話題なんだろう。


「連中は次のテストは本気で上位を狙ってくると思うよ。アンタ、うかうかしてると足をすくわれるよ?」

「うかうかしてるわけじゃないけど、ありがとうオリザちゃん。心配してくれて」

「し、心配じゃねーよ、バカ! さっさと授業しろよ!」


 オリザちゃんが顔を赤くして怒るのが可愛い。


「さて……オリザちゃんのリクエストもあったことだし座学の授業しようか」


 相変わらず座学は俺が担当している。ジノブランド先生は得意な科目を担当してくれることになったんだけど、先生が得意なのって3年生以降に習う薬学とかなんだよ。


(キールくん……大丈夫かな)


 ふとそれが気になった。



   * キルトフリューグ=ソーディア=ラーゲンベルク *



 学校の敷地は広く、様々な施設があるが——この場所はよほどのことがない限り一般生徒が足を踏み入れることはないだろう。

 豪奢な室内にはその広さに比べて数えるほどの人数しかいない。

 ここは王族にしか使えないサロンなのだ。

 キールはふかふかの絨毯を踏みしめて進むとテーブルについた。


「……2学期が始まったね」

「はい、お兄様もお元気そうで」


 向かいに座っているのはこのクラッテンベルク王国の第3王子ジュエルザードだ。

 キールとは血縁関係にあるので「お兄様」と呼んでいる。


「休み中には公爵領に行っていたようだね。その様子を見るに……だいぶハードな夏休みだったようだ」

「おっしゃるとおりです」


 キールが苦笑する。

 ジュエルザードの言うとおり、キールはハード(・・・)な夏休みを送っていた。

 公爵直々に武技の稽古をつけられ、家庭教師による勉強はもちろん、各地を回る公務にも参加するようになった。

 休日らしい休日はなく、むしろ学校が始まってホッとしているような始末である。

 実際キールは少し痩せた。

 その姿が「精悍」に見えたのかもしれない。


「それも仕方ないだろうね。私もあちこちで聞かれたよ、白騎クラスが蒼竜クラスに負けたのはどういうことかと」

「…………」

「もちろんキールを責めているわけじゃない。あれはヴァントールの暴走だからね……だが結果でしか物事を判断しない貴族が多いのも事実だ」

「承知しています」

「学園内の小さな事件かもしれないが、それでも派閥の話に拡大したがるのさ」

「……お兄様にはご迷惑を」


 頭を下げるキールに、ジュエルザードはあわてて手を振る。


「いや、そういうことじゃないんだ、ほんとうに。実際私がなにを言う必要もなく君は夏休みに大きく成長しているし……ただ心配でね」

「心配、ですか」

「今年で私は卒業するだろう?」


 ジュエルザードは最高学年である5年白騎クラスの代表だ。


「そうなれば王家の血を引く者は来年から君だけになる。僕の妹が入学するのは3年後だしね」

「その間、白騎クラスは私が率います」

「ふふ。そういうところだよ、心配しているのは」


 胸を張ったキールくんだったが、ジュエルザードが笑うと「?」と小首をかしげる。

 13歳の少年らしいしぐさだった。


「責任だとか、使命だとか、難しく考えすぎなくていい。君は君らしくあれば周囲にどんどん味方ができるはずだ」

「私らしく……ですか」

「そう。それは……君が気に掛けている黒鋼クラスのあの生徒のようにね」

「!」


 ソーマのことだ、とキールはピンときた。


「最初こそ彼は騎士にあるまじき人材だと思った。だけれど彼がどんな人物かが気になってその後も報告を受けていたのだけれど……真っ直ぐないい少年だと思う。まあ、問題はひっきりなしに起こすがね」

「はい、ソーマくんはすごいんです!」

「褒めるべきところと問題点とで、プラスマイナスゼロだよ?」

「お兄様もついにソーマくんのすごさがおわかりになったのですね!」

「いや、だから……まあいいか」


 プラマイゼロだと言っているのに通じない。

 おかしいな、うちのキルトフリューグはそんな子じゃなかったのに……と思いながらもジュエルザードは、


「ともかく、君は君のやりたいようにやりなさい。それが白騎クラスになるのだから。負けたことをくよくよしなくてよろしい。気が引けて会いたい人間にも会えないなんてつまらないさ」

「!」


 指摘はキールをどきりとさせた。

 蒼竜クラスとのトラブルや、夏休み中に叩き込まれた経験、さらには貴族たちが白騎クラスの敗北を話題にしていることなどからキールはなんとなく、ソーマに会うことに気が引けていたのだ。

 実際、白騎クラスの生徒たちは夏休みが明けても暗い表情を見せている。

 そんななか、ソーマに会いに行くのは——と思っていた。


「ありがとうございます、お兄様。早速行ってきます!」


 ジュエルザードの言葉で肩の荷が下りたのを感じている自分がいた。

 キールはうきうきした足取りで部屋から出て行った。


「少しは()らしいことができたかな」


 ジュエルザードは笑いながらお茶を口に含んだ。

この章が終わるまでは週1回更新で行こうと思います!

日曜18時です。

コミカライズ版もよろしくね。

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― 新着の感想 ―
プラマイゼロって調査は完全なのか不完全なのか…… 薔薇新聞までバレているのか……?
[気になる点] ソーマは実家に帰ったのか帰ってないのか。 バイトしてたって描写もあるしスヴェンとレプラがドンパチしてたってのもある
[一言] > アンタ、うかうかしてると足をすくわれるよ? 足元じゃないかなと誤字報告しようとして念のためgoogle先生におうかがいをたてたら、そっちの方が誤用だと。良い勉強になりました。
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