表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/169

フェンブルク家の憂鬱(後)

時系列ぐちゃぐちゃになるのと、連載も再開したことなので、卒業式エピローグと、その後の番外編については一時的に非公開とさせていただきました。

その時系列に到着したら修正してまた公開したいと思いますので、お待ちいただければ幸いです。


前回あらすじ:

1学期が終わり、夏休みに入る。

オリザは貧乏男爵家である実家に帰省していたが、たった4か月不在にしていただけでさらに貧乏に磨きが掛かっていた。

「バカ親父め、もったいつけやがって……」


 領地は貧乏まっしぐら。

 今年はさらに不作だという。

 その原因は「大地が怒る」なんて父は言っていたが、結局のところモンスターが出現するらしい。


「ふーん……ここか」


 オリザがやってきたのはフェンブルク男爵家のお屋敷から少々離れたところにあるトウモロコシ畑だった。

 この時期は収穫期直前で、直立する茎に青々とした包葉(ほうえい)にくるまれたトウモロコシが生っている。

 先端からはヒゲがふさふさに生え、垂れている。

 それはいい。

 それはいいのだが——。


「……ひでーな」


 畑の半分ほどのトウモロコシが倒れ、外から見てもわかるほどに荒れていた。


「オリザ様!」

「オリザ様だ!」

「騎士のオリザ様がお帰りだぞ!」


 オリザがやってきたことに気づいた領地民たちが声を上げ、広がる畑のどこにいたのかわらわらと人が出てきて、途端にオリザは囲まれる。

 麻で作った薄手のシャツに、泥だらけのズボン。

 首から手ぬぐいを下げ、頭には麦わら帽子——全員が全員、そろいもそろって同じような格好をしている。

 よく日に焼けた彼らは痩せこけており、貧乏をさせてしまっていることにオリザの胸が痛んだ。


「荒れてるじゃねーか。どうしたんだよ」

「へえ、それが……」


 年かさの領地民が苦り切った顔で言うには、1か月ほど前からトウモロコシ畑が荒らされているらしい。

 荒らされるのは夜だと決まっているので夜番を決めて監視しているのだが、領地のトウモロコシ畑は広く、すべてに目が届かない。


「新種のモンスターだと思うんですわ。オリザ様、騎士様なんでしょう? やっつけてくだせえ」

「お願いします、オリザ様!」

「お願いします!」


 次々と頭を下げる領地民だったが、


「——頭を上げろ、お前たち」


 オリザはふつふつと怒りが込み上げてくるのを感じていた。


「アタシは領主の娘、オリザ=シールディア=フェンブルクだよ。領地民を守るのが仕事だ——頼まれなくったってどうにかしてやる」


 おおっ、と歓声が上がった——。




(とは言ったものの、どうしていいかわかんねーんだよな……)


 荒れた畑を見回ってみたが、トウモロコシは根っこから薙ぎ倒されており、あちこちに掘り返されたような穴があった。


(新種のモンスター……見つければ蹴り飛ばせるけど、毎晩毎晩寝ずの番ってわけにもいかねーし……あー、クソッ。モンスターの勉強なんかしてねーよ)


 ボロ屋敷に戻るオリザのため息は深くなる。

 だが、そのトウモロコシを世話していたらしい男の子が、悲しそうな顔で、


 ——もうちょっとで収穫だったのに。かわいそうだから、まだ若い実だけど僕たちが食べます。


 と言っていたのを思い返す。


「弱気になんなよ、アタシ! 考えろ、考えるんだ。こういうとき、アイツならどうする……?」


 ロイヤルスクールの同じクラスにいる、黒髪黒目の少年のことを考える。

 彼は、間違いなく現時点での第1学年トップの頭脳を持っている。

 そして黒鋼クラスを率いたリーダーだ——ほんとうなら自分がその立場にいたかったと思うけれど、アイツなら、ソーマなら仕方ないと今は思える。

 そのソーマがこの状況に遭遇したらどうするだろうか?

 彼はきっと自分と同じように荒れた畑を見て怒りを感じるだろう。

 次にはそのモンスターを倒すべく行動するはずだ。


「……ほんとうにそうか?」


 ふと、立ち止まる。

 なにか見落としているものがあるような気がした。


「ん? あれは……」


 お屋敷の正面に、さっきはなかった馬車が駐まっていた。

 それは貴族が乗るほどの豪奢なものではなかったけれど、一般的な乗合馬車やオリザが乗ってきた貸し切り馬車よりもずっと派手な造りだった。


「おお、オリザ。戻ったか」


 邸内に戻ると、父がちょうど来客を招き入れているところだった。

 小太りで、禿げ上がった頭。そしてちょびひげ。

 ふんだんに上質な布を使って仕立てられた服は「成り上がり貴族」と言われてもおかしくない出で立ちだった。

 だが布を多く使っているせいで暑いのか、フーフー言いながらハンカチで額や首をぬぐっている。

 その後ろには、チンピラみたいな護衛が3人ほど。


「こちらの方は?」


 父の部屋(ガラクタの物置部屋)に通したところでたずねると、


「先ほど言っただろう。国内きっての目利き(・・・)であるガーセネタ商会のセネタ殿だ」


 こいつか。

 こいつが父にガラクタを売りつけた詐欺師か。

 オリザの目が光る。


「セネタ殿、こちらが長女のオリザ。今はロイヤルスクールに通っている」

「……ほうほう」


 初めてオリザに興味を示したようにセネタは眉根を上げた。


「オリザ様、お初にお目に掛かります。セネタと申します。……ちなみにオリザ様はロイヤルスクールのどちらのクラスに? わたくし、白騎(ホワイト)クラスのキルトフリューグ様とは知己でございまして」


 ウソこいてんじゃねーよ、あの白騎の貴公子がお前みたいな詐欺野郎と知り合いのワケねーだろ。

 心に思ったが、さすがにそんなことは言わず、無理くり笑顔を作って見せた。


碧盾(エメラルド)でございますの」


 こちらもしれっとウソを吐いた。

 だが、ありそうな(・・・・・)ウソだ。


「あれ? オリザ、お前確かクラスはブラッ——へぶっ」


 父の脇腹にひじ鉄をぶち込むと、父は青い顔をしてうめいた。


「セネタ殿、お目にかかれてうれしいわ。是非ともどのような商品を扱っているのか教えていただけませんこと? そうそう、我が領では最近、モンスターに畑を荒らされておりますのよ。モンスター除けになるような魔道具はございませんこと?」


 覚えたての令嬢言葉をなんとか吐き出すと、同時にゲロまで出てきそうだとオリザは思う。

 だがセネタはうれしそうに「ほうほう」と言うと、


「奇遇ですな。今日お持ちした商品はまさにモンスター除けのものでございましてな」


 チンピラのひとりが手にしていたバッグから、金属製の箱を取り出した。

 弁当箱を3段重ねたような大きさで、中央には魔石がはめ込まれており淡い紫色の光を放っている。

 その周辺にはビスが打たれ、奇妙な紋様が描かれてあった。


「こちらは、王国最南端にあるダンジョンの深層で発見されたという魔道具でして、これを設置するとモンスターが近寄らないのです。今では再現できない失われた技術を使っておりましてな……」

「すばらしい! まさに我らが望んでいた品物じゃないか。なあ、オリザ!?」


 父の食いつきがすさまじく、オリザは頬がひくつきながらこうたずねる。


「でもお高いんでしょう?」

「そうですな……これはふたつとない逸品ですからな……」

「欲しい! 買おう!」

「お父様」

「へぶっ」


 値段も聞かずに食いつく父の脇腹にもう一度ひじ鉄を入れた。


「うーむ……フェンブルク男爵とのこれまでのお取引もありますから……ここは金貨20枚としましょうか!」

「金貨20枚!? た、高い……だが、か、買えないこともない……」

「男爵。貸し付けにしてもようございますよ」

「う、ううむ」


 金貨20枚ならば、領地民3人から4人ぶんの年収だろうか。

 王都の職人ならばふたりでそれくらいは稼ぐ。


(バカにしてんのか、こいつら)


 オリザが笑顔を保つのもそろそろ限界だった。


(ダンジョン深層で発見されたロストテクノロジーの魔道具が、たった(・・・)金貨20枚で買えるわけがねーだろ)


 確実にガラクタだ。

 そしてこちらの支払い能力を見極めながら価格を設定している。


「お父様、お父様。トウモロコシ畑の防衛のために買うにはちょっと高すぎますわ。収穫が終わればモンスターもいなくなるでしょうし」

「それは……確かにそうだな」


 チラ、チラ、と魔道具(ガラクタ)を見ながら父もうなずく。


「……ほうほう。それでは購入はされないと? 残念ですな。金貨30枚でも買うという方もいらっしゃるのに。私は男爵がこのような逸品に目がなく、さらにこの真価を理解してくださるからお持ちしたのに」

「ううっ」

「お父様。わたくしのお小遣いは?」

「ううっ」


 娘に仕送りできないとか言っておいてこの魔道具買うのかよボケ親父がッ——という目で父を見ると、


「……セネタ殿。申し訳ないが、今日はお引き取りくだされ」


 と、父は言った。


「ほうほう。そうですか」


 セネタはあっさりと、引き下がった。




 その日の夜——トウモロコシ畑の周辺には数人の人影があった。

 月明かりが照らしだした彼らは、くすんだ色の服を着ているために夜に溶け込んでいる。


「あ〜、クソが。なんでまた泥まみれになんなきゃなんねえんだよ」

「田舎男爵が、金貨20枚くらいさっさと出せばいいのにな」

「チクショウ、ぬかるみで靴がドロドロだぜ……」

「さっさと終わらせよう。——ったく、トウモロコシ薙ぎ倒して、穴でも掘っておきゃモンスターの仕業だとみんな思うんだから単純だわな」

「始めるぞー」


 そうして男たちが動き出そうとしたときだった。


「点火!!」


 鋭い声が聞こえたと思うと、ランタンの明かりが一斉に点った。

 その数は30ほどもあろうか。

 トウモロコシ畑を囲むようにずらりと並ぶ。


「な、なんだ!?」


 男たちは動揺する——そこへ歩いていく、ひとりの少女。


「こんな夜中に、畑でなにをしてるんだい。アンタたち」


 着ている服は領地民のそれとは違った——すらりと伸びた脚を覆うニーソックス。

 そして、夏だというのに黒のパーカーを羽織っている。

 ただのパーカーではない。

 見る者が見ればわかる——銀糸による縁取り刺繍は、ロイヤルスクールの生徒を示している。

 彼女が、学園騎士だということを。


「まあ、聞くまでもないけどね……アンタたちが畑を荒らした犯人だ!!」


 びしりとオリザが人差し指を突きつけると、彼らを取り囲む領地民たちが、


「コイツらが……!」

「モンスターじゃないのか! 人間か!」

「許さん」


 にわかに殺気立つ。


「ちっ……ちげえ! たまたま迷ってここに来ただけだ」

「そ、そうだ。証拠はあんのか、証拠は」


 今さらそんなことを言う男たちに、オリザはダンッと右足で大地を踏みしめた。


「——この期に及んでしらばっくれるとは、情けねーにもほどがある! 調べてもいいんだぜ、アンタたちが持ってるそのスコップが、荒らされた畑の穴と一致するかどうかをね!!」

「ぐっ……」


 思いもよらない物証を持っていたことに男たちは怯んだが、


「突破するぞ!! 所詮こいつはただのガキ、他は素人だ!」

「オオッ!!」


 強行突破することに決めたらしい。


「お嬢ちゃん、騎士ごっこでケガをするとはかわいそうになあ!」


 彼らはオリザに突進していく。

 領主の娘を倒してしまえば領地民は浮き足立つだろうと考えたのか、あるいは単にオリザが少女に過ぎないからと侮ったからか。


「——確かにアタシは本物の騎士じゃない。だけどね」


 先頭の男が突進の勢いのままスコップを振り下ろしてくる。


「学園騎士ナメんじゃないわよッッッッ!!!!!」


 流れるような動作で彼女が身体を一回転させたことにどれだけの人間が気づいただろうか。

 そこから繰り出される疾風のような「旋回蹴り(スピンキック)」は、木製のスコップをたやすく砕き、その先にいる男の顔面を蹴り飛ばす。

 大の男が宙を浮いて背後に吹っ飛ぶと、仲間に当たって仲間もろとも押し倒す。


「な、な、な……!?」

「なんなんだ、コイツ……!?」

「ありえねえ、ガキの力じゃねえぞ!?」


 オリザはにこりと笑って見せた。

 それは「貴族」を感じさせる優雅な笑みだった。


————————————————————————————

オリザ=シールディア=フェンブルク

【蹴術】203.92 旋回蹴り(スピンキック) 脚力+1

【馬術】36.12

【弦楽】18.21

【舞踏】8.82

————————————————————————————

合計レベル:267.07

————————————————————————————


 彼女は1学期中に【蹴術】を大幅に伸ばし、ついにレベル200を超えてエクストラスキルまで手に入れていた。

 一方で礼儀作法関係のスキルは消滅し、芸術関係もかなり落ち込んでいたが、授業を通じて知識は増えている。


「このまま投降してすべて白状すればよし。戦うのなら徹底的に……」


 ダンッ、とオリザは大地を踏みしめた。


「……潰して差し上げましょうね」


 男たちはスコップを投げ捨て、その場にひれ伏したのだった——。




 畑を荒らして被害が増えれば、魔道具を購入するだろうというセネタの考えはものの見事に外れたわけだった。

 むしろ男たちは捕まり、彼らはセネタの手下に安い金で雇われたことを白状したのだが、


「あ? なんでセネタを捕まえらんねーんだよ!」


 翌朝、自分の部屋ですべてを聞いたオリザの父は、捜査はこれで終わりだと言った。


「彼らは街のごろつきで、そんなヤツらの証言など騎士団は相手にしないだろう」

「アタシも学園騎士だぞ!」

「そうだな。そして私の娘だ」


 父とて悔しいのだろう、机に載せられた拳が震えていた。


「セネタを紹介したのは、州の長官閣下が紹介してくださった執事だ。セネタを罰することは閣下に刃向かうことに等しい……そして閣下は、隣町を管轄している碧盾樹騎士団(エメラルドイージス)の上層部と仲が良い」

「……待てよ親父、それじゃあなにか? 偉い貴族の不正を知っても目をつぶれってことか?」


 父はなにも言わなかったがそれは肯定だった。


「親父! 根性まで貧しくなっちまったのかよ!? セネタのほんとうの(・・・・・)目的がなにか、わかってんだろ!? ここだよ——この領地だ!」


 金貨20枚はフェンブルク男爵家にとってはおいそれと出せない金額だが、セネタのような儲かっている商人にとってははした金だ。

 なのになぜ、こんな田舎にまでやってきて商売をするのか?

 それはひとえに、男爵の没落を狙っているからだ。

 男爵が借金まみれになれば頼れるのはセネタしかいない。

 セネタはこの土地——つまり、「男爵位」が欲しいのだ。借金を帳消しにする代わりに自分に地位を譲れと迫るつもりだったのだろう。

 没落した男爵家を、王国は救済しない。

 借金が残ったまま領地を取り上げられるのと、借金を帳消しにする代わりに領地を譲るのと、選択できるのであればふつうなら——(はらわた)が煮えくりかえろうとも——後者を選ぶ。


「……オリザ、お前はいつ、畑を荒らしたのがセネタだと気づいた?」


 興奮していたオリザだったが、忌々しそうに答える。


「荒らされたトウモロコシを見たときに……おかしいと思ったんだ。モンスターが荒らすのなら、それはトウモロコシを食うためだろ。だけどトウモロコシは全部残っていた。つまり人間の仕業だ。最初は領地民のケンカかもしれないと思ったけど……セネタに会って、異常にいいタイミングでモンスター除けとかいうガラクタを持ってきたから、こいつが犯人だとピンと来たわけだ」

「……そうだったか」

「親父、覚悟しろよ。アタシがこの屋敷にいる間に前の執事のサントスを復職させる。そして州都にいるとかいう執事はクビにする。で、ぼろぼろの屋敷を大掃除してやる!」

「わかったよ」

「ほんとにわかってんのか?」

「わかってる」

「ここのガラクタ、全部捨てるからな」

「えっ……この逸品たちを?」

「親父ぃ〜〜〜〜〜〜〜」

「わ、わかった、わかったわかった! そうにらむな! 怒るな! ……でもほんとうに全部が全部ガラクタなのかな?」

「ガラクタじゃなかったとしたら、親父はまた同じ詐欺に引っかかるぞ」

「うっ」

「だから全部捨てるんだ。ま、アタシは調べるまでもなくガラクタだと思ってるけど」


 同じ詐欺に引っかかる。

 その言葉がいちばん男爵の胸に突き刺さった。


「今日から始めるから!」


 そうしてオリザは部屋を出て行った。


「…………」


 ひとり残された男爵は、


「……成長したなあ、オリザは」


 感慨深げにつぶやいたのだった。

 この屋敷にいたときには、気にくわないヤツにすぐにケリをくれるお転婆娘だった。

 サントスが根気よく勉強を教えたからロイヤルスクールに合格したものの、配属クラスは黒鋼。

 つまり最下位だ。

 だけれども、彼女は成長した。たった4か月で、領地民のことを考え、彼らをまとめて、暴漢たちに立ち向かった。

 それを喜ばずして、なにを喜ぶと言うのか。


「アイツにも教えてやろう」


 妊娠して、安静にしている妻の部屋へと向かう男爵の足取りは軽かった。

 この家は貧乏で、領地は未発達だが——確かに、新たに現れた芽を、巨木に育つであろう芽を感じ取ったのだった。




 オリザはそれから精力的に働いた。

 夏休みがこれほど短いとは、と残念に思うほどに。

 遊びに来たマール、バッツ、シッカクにも手伝わせて領地の問題を洗い出し、優先順位をつけて解決のための行動を始める。


(……あのとき、ソーマならどうするかって考えた)


 ソーマはきっと、すべての情報を整理して、それがほんとうにモンスターによる被害なのかどうかを考えるだろうとオリザは思ったのだ。

 考えなしのようで、異常なまでに深く考える男……それが、オリザから見たソーマの印象だった。

 だから領地の問題に取り組むときにも「ソーマならどうするか」が常に頭の中にあった。


「……時間切れだ! 帰る!」


 チャーターした馬車が屋敷にやってきて、ロイヤルスクールに帰るという——夏休みも終わろうとしているその日の朝まで仕事をしていたオリザは、そう叫んで立ち上がった。


「はい、オリザ様。よくがんばりましたね」

「ごめん、サントス。あとは頼む」

「お任せください」


 柔和な老人ながら、一度怒らせると真剣に、真摯に、海より深く反省したところを見せないと絶対にゆるしてくれない男が、元執事のサントスだった。

 サントスはオリザが直接口説いて、再雇用となった。

 サントスもまた男爵家のその後について気にはなっていたようだった。


「オ、オリザ、父には? 父にはなにかないのか?」

「次ガラクタ買ったら蹴り飛ばすから」

「うっ」


 青くなる男爵。


「オリザ様」


 ガラクタが片付いて、スッキリした執務室。

 しかしながら資料や書き付けをしている木板がやたらと増えた父の部屋を出て行こうとしたところでサントスは言った。


「お気を付けていってらっしゃいませ」

「ああ、ありがと」

「それと——」

「それと?」

「……オリザ様が深く想ってらっしゃる方、今度是非、この領地に連れてきてくださいませ」


 その言葉を聞いて、オリザが頭に思い浮かべたのは——ソーマだった。


「な、な、な、なにをバカなこと言ってやがる!」

「ほっほ。待っておりますよ」

「オ、オリザ!? 誰、誰のことなんだ!?」

「姉ちゃんのオトコってことかー?」


 気づけば部屋の入口に弟妹たちが大集合している。

 見送りのためにわざわざ来てくれたようだが、いちばん聞かれたくないところを聞かれてしまった。


「う、うるせー! どけ、お前ら! アタシはもう行くから!」


 真っ赤になったオリザは、弟妹たちを押しのけるとさっさと出て行った。


「ああ、もう……サントスのヤツ! 余計なこと言いやがって!」


 屋敷の外に出ると、まだまだ暑い陽射しとムッとする風が吹いてくる。

 馬車はすでに着いており、オリザは颯爽と乗り込んだ。

 これからロイヤルスクールに戻る。

 そうしたら黒鋼のみんなと再会できる。


「……楽しみだな」


 思わず本音をつぶやいたオリザだったが、次の瞬間には——連日働きづめの疲労で、寝入ってしまった。

 あと数日で、2学期が始まる——。

ロイヤルスクールの教育水準は高いのと、オリザ父は専門的な領主教育的なものは受けていないので、頭の地力がオリザとは違いますね。


宣伝だよ〜。


2/15、「学園騎士のレベルアップ!」コミカライズ2巻発売

2/20、「限界超えの天賦は転生者にしか扱えない」書籍版2巻発売


どちらもよろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
とーちゃんはブラックレベルなのかグリーンでもこんななのか、地方校ならこんななのか、未就学騎士爵とかなのか…… 根本的にとーちゃんよりゲス商人の方がマシだったりしてな……
[良い点] 更新再開ありがとうございます。 オバリミを最初から読み返して待ってました。 [気になる点] オリザが入学できたのは本人の努力だが、クラス分けは親の影響大だろうに。 馬鹿親父が自分の無能せい…
[気になる点] ニコニコ漫画に掲載されていて、マンガが2巻も出てるから、久々にこの作品を読んだんですけど、オリザちゃんの実家話の前書き?後書きにて、続くみたいなことが書いてあるけど、5ヶ月以上経ってま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ