外伝5 クマさん、基本プレイを教えてあげる
街の外に出ると、新人プレイヤーたちが練習している姿がある。街の周辺は魔物も現れないので、練習するには良い場所だ。剣を振る者、魔法の練習する者。動作を確認する者。
わたしたちも練習をするために、他のプレイヤーのいないところに移動する。
「それじゃ、基本的なことを教えるわね」
「はい!」
フィナは気持ちいい返事をする。
今時の子供とは思えないほど素直で可愛い子だ。これも、ティルミナさんのお教育の賜物かな。
きっと、わたしと違って、学校でも友達が多いんだろうね。そんな子が、わたしなんかといて良いのかなと思いつつ、戦闘について説明をする。
「魔法使いは、基本後方で前衛の援護をしたり、強力な魔法を打ち込むのが役目ね」
「はい」
「まあ、細かい部分はゲームをやりながら覚えればいいから、まずは基本の基本、魔法の練習をしようか」
フィナは元気に返事をする。
「このゲームの魔法は魔力を集めて、呪文を唱えれば発動する。強力な魔法を使うにはその分魔力を使うから、魔力を集めるのに時間がかかる。だから、敵を見て、どの程度の魔法で倒せるかを判断をしないといけない。簡単に倒せる敵に強力な魔法は意味が無いし。強い敵に弱い魔法も意味がない。まあ、とりあえず、魔法の発動からしてみようか。それじゃ、手に魔力を集めてみて」
「魔力? どうやって集めるんですか?」
自分の手を見ながら尋ねてくる。
「感覚かな? 手に力を込めると集まるよ。持っている杖が補佐してくれるから、やってみて」
フィナは杖を握る手に力を込める。
「な、なにか集まって来ました!」
「そしたら、ファイヤーボールって唱えてみて」
「ファイヤーボール!」
杖から、小さな野球ボールほどの大きさの火の玉が飛び出す。
「で、できました」
フィナは嬉しそうに飛び跳ねる。
まあ、嬉しい気持ちは分かる。
現実世界ではできないことだ。アニメや漫画を読んだことがあれば、一度は魔法を使ってみたいと思うのは子供時代には誰でもある。
それが、ゲームの中とはいえ、現実にできるのだから、感動ものだ。
「とりあえず、今の感覚を忘れないように、反復練習ね。漫画やアニメでもそうだけど、魔法を唱えるには集中力がいるから」
「集中力ですか?」
「いきなり、魔物が現れて、パニック状態では魔力は集まらない。だから、魔法使いはいつでも、冷静でいないと駄目」
まあ、それは他の職業でも言えることだけど。
前衛の剣士やモンクなどが慌てて、前衛が崩れるようなら、後衛の魔法使いなどは魔法を唱えている暇はない。ベテランならば、上手く間合いを取りながら、攻撃をすることができるが、初心者にそれを求めるのは酷なことだ。
「魔物が現れたら、落ち着いて深呼吸でもして、落ち着いてから魔法を唱えれば良いってことよ」
それから、フィナにはMPが切れるまで魔法の反復練習をさせた。
このVRMMOはテレビゲームと違って感覚や精神が大きく関わってくる。テレビゲームみたいにボタン1つで魔法が飛び出すわけじゃない。テレビゲームなら、誰がボタンを押しても、同じ威力の魔法が発動される。
でも、このVRMMOは自分で魔力を集めて呪文を唱える。魔力を集めるのはボタンじゃなく、魔力を集める心、イメージと思ってくれていい。
これをちゃんと、心に刻んでいないと、いざってときに魔法の発動が出来なくなる。
だから、本番前にちゃんと練習しておかないといけない。
練習もせずに魔物がいる森に行って、魔法が発動せずに死んだ新人プレイヤーは多い。
「ユナお姉ちゃん。MPが空になりました」
少し疲れたそうにしている。
「なら、これを飲んで」
アイテムボックスから薬瓶を出す。
瓶の中にはオレンジ色の液体が入っている。
「これは?」
「MPを少量回復させる薬よ。テレビゲームでもよくあるでしょう。さっきの街で売っているアイテムだから、フィナでも使えるよ」
フィナは受け取ろうとした手を止める。
「あのう、お金は」
「いらないよ。こんな初期アイテムは腐るほど持っているから気にしないでいいよ。あとで多めに渡しておくから、わたしがいないときは、どんどん魔法を使って練習しておくこと」
「はい。わかりました」
フィナはお礼を言って薬を受け取り、薬を飲み干す。
「美味しい。オレンジジュース?」
「HPを回復するのはアップルジュースだよ。大丈夫だと思うけど、回復薬も渡しておくわね」
フィナにHPを回復するアップルジュースを渡しておく。
「それじゃ、魔法練習はこのぐらいにして、魔物退治に行こうか」
魔法の練習も終わりにして、実践を行なうために魔物がいる森に向かう。
「それじゃ、パーティー申請するから受けて」
わたしはフィナにパーティーの申し込みをして、森に向かう間に簡単にフィナにパーティーの説明を行う。今後、わたし以外にもパーティーを組むと思うから基本的なことは教えておく。
魔物と遭遇した場合。基本、遭遇したパーティーしか戦うことはできない。外部から、他のプレイヤーが魔物を横から奪い倒すことはできない。
これは魔物を奪い合いにならないようにするためのシステムになる。
そのため、フィナと一緒に戦う場合はパーティーを組む必要がある。
ただ、例外として、戦っているパーティーが了承すれば戦いに参加できるようになる。
フィナが操作をするとわたしのウィンドウに了承されましたの文字が浮かぶ。
パーティーを組むと仲間のHPやMPを把握することができる。これを見て回復役は回復したり、援護に入ったりするわけだ。
街の近くにある森は初心者用の魔物がいる。主に狼型のウルフ、さらに奥に行くとゴブリンがいる。このゲームをやるに至って、獣型、人型の魔物を倒すことから始まる。
この森で経験値や基本戦闘を学ぶ仕組みになっているため、そんなに強い魔物は出現しないようになっている。
森に向かって歩いているとわたしたち同様に森に向かっているプレイヤーが複数人見える。
なるべく、被らないようにプレイヤーが向かっていない方へ進む。
同じ方向に行くと魔物の取り合いになってしまうためだ。
「魔物が現れたら、わたしがフィナに魔物を近づけさせなようにするから、フィナは落ち着いて魔力を集めて魔法を唱えてね」
「はい」
本当ならわたしのレベルが1だとしても、経験と武器があるおかげで1人で倒すことはできる。それだとフィナの練習にならない。だから、フィナの魔法の練習をさせるために、わたしは補助に徹する。
森に入るとさっそく、ウルフが三体現れる。
その瞬間、この三体のウルフはわたしたちのパーティーの獲物となる。他のプレイヤーが来ても攻撃をすることもダメージ与えることもできない。
「フィナ、行くよ」
「はい!」
わたしたちは駆け出す。
わたしは剣を取り出してウルフと対峙する。わたしはウルフに攻撃をしないで、防ぐだけに集中する。
防御だけと簡単に言うけど、武器は強いけど、防具は最弱状態だ。
ちょっと攻撃を受ければわたしもやられる可能性もある。
でも、一年間やってきたゲームだ。
ウルフ相手にダメージを受けることはない。行動パターンは頭に入っている。
ウルフの攻撃を避けつつ、フィナの魔法を待つ。わたしがウルフの攻撃をかわしていると、
「ユナお姉ちゃん!」
フィナが叫ぶ。それと同時にファイヤーボールが飛んでくる。
ファイヤーボールはわたしの横を抜けてウルフに命中して、ウルフを一撃で倒す。
威力の低い初級魔法のファイヤーボールでも、フィナが装備している防具や武器のおかげで、ウルフぐらいなら、レベル1のフィナでも一撃で倒せるほどの強化にはなっている。
「どんどん、攻撃しちゃって!」
「はい!」
フィナは魔法を唱えると、どんどん連続で魔法を放つ。
わたしがあげた防具や武器には僅かだけど、魔力速度アップ(集める魔力の速度)、魔法攻撃力アップの効果が付いている。
わたしが前衛でウルフをフィナのとこに行かせないようにして、フィナが後方で魔法を放つ。
もし、魔法で倒せなければ前衛のわたしが止めを刺す。
これが基本のパーティープレイだ。
フィナは連続でファイヤーボールを放ち、残りのウルフも消滅した。
「やったよ。ユナお姉ちゃん」
フィナはわたしに駆け寄ってくると嬉しそうに飛び跳ねる。
そして、魔物を倒すことによってランダムにアイテムが手に入れることができる。
ウルフから手に入るのは、肉、毛皮、魔石の三種類になる。
この世界でも、仮想の料理は存在するので肉は食べることができる。
毛皮は防具などを作るときに使う。
魔石はいろんな用途に使われるが、ウルフの魔石は、効果が小さいため価値がない。でも、売れば多少だが、お金になる。
それから、戦闘は続け、フィナの夕飯の時間までレベル上げと、戦闘方法を教えてあげた。
夕飯に遅れたらティルミナさんに怒られるからね。
本編に戻ります。
次回未定です。