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98.視覚の暴力ガチムチ編



 突如として降臨した、がっちり体型の大男な見知らぬ神様。体格からして戦士系。

 ……が、なんか襲撃してきました。

 その体にはあられもない感じにボロボロになってしまった、どっかで見た覚えがありすぎる赤黒ドレスが――!


 ……はい、露骨にまぁちゃんの関与が疑われますね?

 というかあの神様、大激怒なんですけど。

 一体まぁちゃん、何したんですか?

「言ったろ。衣装、交換したって」

 悪びれることなく飄々と言っていますけど、まぁちゃん? 手がぶるぶる震えていますよ?

 明らかな笑いの発作に抗いきれず、盛大に噴き出してまぁちゃんが爆笑するまで後三秒。


 私にとっては、面識のないこの神様。

 どこからどう見ても、まぁちゃんが何かやらかしたことは明白で。

 何がどうしてあんな姿になっているのかは、不明ですけど。

 ……奥方様に、とんでもない(息子さんの)醜態を見せつけてしまいました。

 えっと、息子さんだって言っていましたよね? さっき?

 だってまぁちゃんが着ていたドレス(元)を着ているってことは、あれが衣装を取り換えっこした神様ってことなんですよねー!?

 奥方様があまりの視覚の暴力故か、固まっちゃったんですけど、どうしたものでしょうか。

 無残な女装のなれの果てを曝す息子さん? は、まぁちゃんしか目に入っていないみたいですけど……その高貴な女性の遺骸から剥ぎ取ってきました☆と言われたら納得しそうなボロボロドレスを身に纏った筋肉むっきむきの大男。真面目に見れば見る程、視覚の暴力です。

 まぁちゃんだったら顔が性別を超越して美しいので似合いますけど、漢臭……男らしい美丈夫にアレ着せると嫌がらせにしかなりませんね! 周囲への!!

「まぁ殿……なんて化け物を作り出してしまったんだ」

「勇者様もドン引きですよね」

 爆笑しているのは、まぁちゃんだけです。

「ない。……アレは、ない。俺の美意識が許さない」

「あれ!? 画伯までドン引きしてます!?」

 信じ難いことです。

 何故か、ヨシュアンさんまで見るに堪えないと目を逸らしていました。

 こんな時、私の知る画伯なら爆笑しながらスケッチに走りそうなモノなんですけど。

 というか、昔、あれよりちょっとばかりエグイ女装野郎を指差して笑っていませんでしたっけ。お酒の席で。

「だってアレ! 笑いを取ろうって意思が全然見えてこないんだよ! 確信犯のネタ系なら楽しく笑えるけど、その意志がないガチ惨事で真面目に佇まれると、気持ち悪くて笑おうって気が失せるんだよ! しかもあのひと、大激怒してるし。俺は楽しい状況で、楽しく笑いたいの!」

「意外だ……ヨシュアン殿にもヨシュアン殿なりの基準があったんだな」

「俺、創作意欲を我慢しないだけで、結構常識人なつもりなんだけど」

「――さて、まぁ殿。彼は怒りで我を忘れているようだが、一体何をしたんだ?」

「あれ!? 俺スルー!」

「あっははははは、はは、あー……マジ、腹筋いてぇ。笑い過ぎて頬肉ヤベぇわ」

「そこまで本気で笑うことか!? まぁ殿の仕業だろうに……」

「あの、まぁちゃん? どうせならもうちょっとドレスの原形残しておいてほしかったんですけど。もう少しドレスだってわかりやすい形状が残っていたら、私だって「ヤバい女装」枠で笑い転げられたのに」

「リアンカ、そこじゃない」

 残念ながら、まぁちゃんの犠牲にされた女装(?)神様はガチ怒りで妙な迫力がありました。

 そう、ちょっと笑い飛ばすには躊躇するくらいの激しい怒りです。そのお陰で笑うに笑えない感じに仕上がっていますね。本当に残念ですが。

「む、むすこよ……」

 まぁちゃんの笑い声が大きすぎて、刺激になったのでしょうか。

 無事に再起動を果たした奥方様が、よろりと不安定な足取りで進み出ました。

 その手は、精神の安定を求める様にぎゅぎゅっと強くスノードームを握りしめています。

「はっ しまった! 奥方様が正気を取り戻す前に、まぁちゃんに排除してもらうべきでした」

「隠滅の方向にまっすぐ迷いなく進み過ぎじゃないか!?」

 そうしたら、多分「疲れているから幻覚が」とかで誤魔化せたのに!

 でも、もう手遅れです。

 母子は互いに相手を認識してしまったみたいですので。

 筋肉女装神様の顔が、急激に変化しました。

「は、母上……っ?」

 動揺に、筋肉で盛り上がった肩がびくりと大きく揺れます。

 怒りで視野の狭くなっていた目に、今になって実母の姿が映ったのでしょう。

「なぜここに母上が」

 ちなみに『父上』もそこにいますよ!

 スノードームの中でこれから飼い殺しですけど!

「ハッ……み、見るな! 俺のこんな変わり果てた姿を見ないでぇ!」

「我が子よ……お前のその姿はどうしたというのだ。気でも違ったのか」

 血の繋がった親御さんから、「狂った?」と率直に疑われる辛さが身に染みたのでしょうか。

 筋肉神様はぶるぶると全身を震わせて……

「きっさまぁぁぁぁ嗚呼ああああっ!! 絶対に、絶っっっ対に、許さん!!」

 動揺からか、感情を逃避させようとお母様から逸らしたのかもしれませんけど。

 突如……いや、結構前フリはあったからいきなりじゃないですね。とにかく、耐えかねた様子で、強く握った拳を振り上げつつ、筋肉神様はまぁちゃんに飛び掛かりました。


「神器防御(ガード)!!」

 

 そしてまぁちゃんの掲げた、なんかやたらとピカピカな盾に弾き落されました。

 まぁちゃん、そんな盾持ってましたっけ?

 明らかにまぁちゃんの趣味じゃなさそうな、派手でギラギラした装飾過多な盾。

 それの出所ってもしかして……

「俺の盾ー!!」

「あ、やっぱり筋肉神様のだった!」

 パクったの、まぁちゃん!? いや、鎧を強制取り換えっこしている時点で今更だけども!

「筋肉神って、リアンカ……もっと他に言いようがあったんじゃ」

「駄目です。今のあの神様見ても、『筋肉』『女装』『事故』『追剥被害者』って単語しか浮かびません」

「選択肢……! 一番マシなの『筋肉』じゃないか!」

「だから筋肉様って呼んでるんですよ!?」

「……そうか、納得した」

 勇者様は頭が痛いと言いつつ、開いた両手に顔面を沈めてしまいました。

 なんだか物凄く疲れているように見えます。

 でも勇者様? 本当に他には浮かばないんですよ。

 外に何て呼べと言うんですか。

 破れたドレスの隙間から、鍛えられた筋肉がチラリチラリ。

 本気で筋肉様以外に適切で相応しい単語が見つかりません。

 そもそもあの方、なんの神様でしたっけ?

「軍神だな」

「あ、ご先祖様。有難うございます」

 疑問に答えてくれたのはご先祖様でした。

 なにやらしたり顔で深く頷いていますけど……目尻、笑ってますよ?

「あれが、軍神……」

 勇者様が切なげに遠い目をしています。こちらの方は笑いとは縁が薄そうですね。

 なんでも勇者様のお故郷(くに)では、戦士階級の方々に大人気の神様なんだそうです。軍神。

 人類(最近逸脱し気味ですが)最強の剣士として、戦士階級の人達ともそれなりに交流がある勇者様は、色々思うトコロがあるようです。というか魔境基準だとすっかり埋没してしまっていましたが、人類最強って触れ込みでしたね。勇者様の実力。最近ちょっと忘れていました。

「ちなみに勇者様はどの神様を信仰しているんですか。実際」

「公人としての立場を抜けば、になるけれど。個人的には幸運の女神様一択だな。近頃は、俺自身も自分が何で生きているのか疑問に思う時があるし……幸運の女神様の加護がなければ、生きていられたかどうか」

 なんだかやたらと重みのある声音で述べて、そっと胸の前で手を合わせる勇者様。

 無意識に感謝の祈りを捧げているのか、なんだか厳かで静謐に満ちた顔をしています。

 天界に来たことで、様々な神様の実態を目の当たりにしたせいもあるのかも、ですが。

 なんだか勇者様の信仰心、幸運の女神様以外に対してガタ落ちしてません?

「ご安心ください! 幸運の女神様は他と比較するまでもなく真っ当な神様でしたよ! 他は知りませんけど!」

「安心どころか不安を煽られているのは俺の気のせいか……? 天界の神々は、一体どうなっているんだろうな」

 まさに現状どうなってるんだ状態(※まぁちゃんのせい)にある軍神さんを遠く眺めながら言われると、なんだかやたら声に深みを感じてしまいます。

 巻き込まれたくないので見物に徹する私達。

 まぁちゃんに諦めることなく、果敢に襲い掛かる無残(笑)な姿な軍神様。

 その攻撃を軍神様の盾と、ついでに奪っていたらしい鎗で防いだり吹っ飛ばしたりする、まぁちゃん。

 私達が見守る中、おろおろ……とまではいかないまでも、かなり困惑した様子で奥方様が軍神様→まぁちゃん→私達にと視線を彷徨わせています。

「これは一体……どのような状況、なのだ?」

 当事者の軍神さんとまぁちゃんが何も説明してくれないので、状況を掴みかねているようです。

 思い込みで判断するよりは、簡易でも双方から事情を聴きたいとのことですが……多分、事情を聴かずとも奥方様が想像した感じで状況は間違ってないと思いますよ?

 いつまでも奥方様を放置しているのも失礼なので、当事者の一方(まぁちゃん)から事情を聴き出してみようとは思いましたけど。


「まーぁーちゃーん!」

「なんだー!?」

「どうしてその軍神さん? 怒ってるのー!? あとまぁちゃんが着てた筈のドレスの成れの果ては一体どういうことおー!」

「ああん? それここで聞くか?」

「奥方様がーあ、知りたいんですって!」

「ほほう」


 離れた距離から、声だけ張り上げて応酬していましたが。

 鎧も盾も鎗も、武装を全部奪われた上に身に着けている装備がボロボロのドレス一枚では防御力という点でも最初から不利過ぎたのでしょう。

 そうこうする間に、気が付けば軍神様はまぁちゃんからアイアンクローを喰らっています。

 軍神様の図太い腕が必死にまぁちゃんの腕をタップしていますが、無尽蔵とも思える魔力で身体を強化しているまぁちゃんの腕はびくともしません。軍神様と比べて細いとも表現できる感じの腕ですが、込められている力は見た目に比例しませんよ?

 あ、すっごい食い込み……頭蓋骨、変形していませんかね?

 ああでも、時間経過で怪我とか治るんでしたっけ? じゃあ心配は無用ですよね?

 めきょっとかごりっとか不穏な音がしていますけど、放置していても問題ありませんね?

「俺もな、お袋さんの前でこんなことをするのは気が咎めなくもないようななくないような感じなんだけどな?」

「その割には遠慮のない締め付け(アイアンクロー)。いや待て、咎めなくもなくないようなのか? それ一周回って咎めないって言っているよな?」

「俺はただ美の女神をとっ捕まえて引きずり出そうと思っただけなんだがな? せっちゃんの身の安全の為に」

「俺は!? 俺の身の安全は!?」

「そうしたらよ、逃げる美の女神を庇って、このおっさんがしゃしゃり出てきやがった。美の女神の愛人か何か知らねえけどな、直接関係ない第三者が首突っ込んできて妨害行為とか。正直、俺も気分を侵害されてる」

「まぁちゃんは軍神さんの社会的立場を侵害しちゃってますけどね(女装)!」

「っつう訳で、俺の主張を要点で纏めるとこうだ。

一、元は俺と美の女神の問題だ。そこに首を突っ込んできたのはコイツ。二、コイツは美の女神の愛人だからって理由で、俺の敵側に回りやがった。三、俺は敵対する相手に優しくなれる程、心は広くねーんだよ。

そこは神だからか馬鹿みてぇな頑丈さとしぶとさで幾ら殴っても沈まないからさ、コイツ。だから心折っとくことにした」

「それで、ドレスを着せた……と」

「ボロ雑巾になりつつあるドレスを着せた上で、人目につきそうな場所の木に縛り付けて置き去りにした」

「まぁ殿……いくら何でも、容赦しないにも程があるんじゃ」

「だってちっとも諦めねえし、コイツ。途中から目的が美の女神を守る! じゃなくって俺を倒す! にすり替わってたっぽいしな」

「目的がすり替わるような何をやったの、まぁちゃん」

 以上が、まぁちゃんの主張な訳ですが。

 これってアウトですかね、セーフですかね。

 息子さんを酷い目に遭わされた奥方様はどう思うのでしょうか。

 果たして裁定は、と。

 奥方様に目をやると……何故か難しい顔で、何やら考え込んでおられる様子。

美の女神(オバウエ)が関与しているのか……」

 どうやら、そこが気になるようです。

 ……そういえば神様方の関係性って、よくわかりませんけど。

 美の女神の性格的に……なんか他の女神様方と友好的な関係を築けているような気が微塵もしないんですけど、それって私だけでしょうか?

「息子よ」

 奥方様が目を向けると、事情聴取の流れになって正座させられている息子さん(軍神)がビクッと肩を揺らしました。着替えることも出来ず、ドレス姿で所在がなさげです。

「は、母上……」

「事の経緯はこの際、捨て置こう」

 あ、捨て置いちゃうんですか。奥方様。

「美の女神が関係していることは、間違いないのだな?」

「それは……」

「間違い、ない、の、だな?」

「………………はい」

 お母様には頭が上がらないんですかね?

 軍神様が素直に認めて項垂れてしまうと、奥方様はうっすらと微笑み……


 軍神様の頭を、優しくやさしぃーく撫でました。


 摩擦で髪の毛が逆立ちそうな丁寧さで。


「美の女神とは手を切るよう、再三言っておいたであろうに……母は、浮気者に寛容とは言えぬ」

 そう言って、奥方様は。

 軍神様の頭を鷲掴みにしました。


 あれ? アイアンクロー第二弾ですか?





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