50-02 機体紹介
3900年2月1日。
『お待たせしました! いよいよ『オノゴロ島第1回模型飛行機競技』が始まります!』
広場にアナウンスの声が響いた。
今回も司会はラックハルト・ランドルである。そして。
『今回の解説はステイハルト・ランドルさんです!』
『よろしくお願いします』
ステイハルト・ランドルはラインハルトに少し似たところのある壮年の男。ラックハルトとは又従兄弟に当たるらしい。
堅実な魔法技術者なので解説に呼ばれたようだ。
この日、200人座れる観客席は満員。この席に座った観客は採点も行う権利を持つとあって、前々から予約が殺到したという。
厳正なる抽選により当選者が決まったそうだ。
『会場は昨年の競技会からさらに進化! 超大型の魔導投影窓が4基、大型の魔導投影窓が4基設置され、より見やすいものとなっております!』
広い観客席の端からでもよく見えるよう、角度を調整してあるのだ。
『今回は飛行機競技ということで、上空には『力場発生器』を使い、『魔導監視眼』を設置してあります。操縦者への視覚情報を供給すると同時に、観客の皆様にお楽しみいただけるものであります』
拍手が巻き起こった。
そして。レギュレーション(参加規定)、競技種目の説明が行われた。
これらはパンフレットも作られており、希望者には無料で配布されている。
『それでは参加者とその機体の紹介にまいりましょう!』
ひときわ歓声が高くなった。
『まずはゼッケン1、ナタリア! 機体は三葉機、『ハルシオン』(カワセミ)号です!』
視認性をよくするため、オレンジ色に塗られた機体はよく目立つ。
『揚力を稼ぐための三葉機ですね。小回りも利くと思いますよ』
解説のステイハルト・ランドルも言葉を添える。
(ハルシオン……か……)
仁は、その命名を聞いて、以前老君に聞いたこと……かつてナタリアの先祖、マルシアが作った三胴船『ハルシオン』……を思い出した。
マルシアの血は『3』に絡んで『ハルシオン』が思い浮かぶのだろうか? などとちょっとだけ思った仁であった。
『ゼッケン2はシュウ・ニドー、機体は後退翼機『電光』号!』
こちらは軽銀の色のまま、銀色の機体である。
『速度重視ですね。低速時にどんな対策がしてあるのか、外観からではわかりませんが、その分楽しみです』
仁も、シュウが低速競技を捨ててかかっているとは思っていない。なので本番を楽しみにするのであった。
『ゼッケン3はユージン・フォウル、機体はオーソドックスなテーパー翼。特に命名はされておりません!』
ある意味、プロペラ機らしい形式だ。色は白に青と赤のラインが胴体と主翼に引かれていていいアクセントになっている。
『オーソドックスではありますが、バランスはよさそうです。全競技で上位に食い込めば総合優勝も夢ではありませんしね』
仁も、そうしたバランスのいい堅実な考えは嫌いではない。なかなか強敵だと思っていた。
『ゼッケン4はグリーナ・クズマ、機体はこれもオーソドックスですが、楕円翼機です! 愛称は『テンペスト』!』
視認性のよい赤紫に塗られ、白いラインが入っている機体である。
『楕円翼ですか。どんな効果があるんでしょうね』
(……確かスピットファイアが楕円翼にしたのって、翼端渦に起因する誘導抵抗は楕円翼で最小……だったっけ?)
仁はあやふやな知識を引っ張り出してみる。
(でもきっと、デザイン的な面を優先したんだろうな……)
確かに楕円翼のシルエットは優雅である。仁は、グリーナが性能はもちろんだが、デザイン的に楕円翼を優先したのだろうと考えていた。
『ゼッケン5はシーリーン・エッシェンバッハ、複葉機です! こちらも特に命名はされておりません!』
鮮やかな黄色に塗られた複葉機。その主翼にはわずかにテーパーが付いており、精悍さが加えられていた。
『これもまた、なかなかバランスのよさそうな機体ですね』
仁もそれには賛成だ。運動性もよさそうである。
『ゼッケン6はシドニー・マレク。矩形翼機ですが、主翼が折りたたみ式になっています!』
赤色の機体で、特に愛称はないようだ。
折りたたみ式といっても、完全にたたみ込まれて一体化する。
『低速時にはめいっぱい延ばした主翼で、高速時には半分に折りたたんで、ということでしょうね』
仁は面白い、と感じた。
主翼の断面型、いわゆる『翼型』は下面が平ら、上面が凸、『クラークY』という型にごく近い。
そんな主翼を下に、つまり平面側同士を合わせるように折りたたむと上下対称の涙滴型の翼型となり、高速向きになるのだ。
『ゼッケン7はヴェルナー・ランドル! テーパー翼機で、主翼は伸び縮みするようです!』
愛称はなし。主翼は望遠鏡のように入れ子になって伸び縮みする。機体色はグレー。
伸びきれば低速、縮めれば高速、その途中での使用は考慮されていないようだ。
『なかなか考えられていますね。楽しみです』
仁も同感だ。伸び縮みというより2段変形だな、と思いながら。
『ゼッケン8はフローレンス・ファールハイト! 後退翼機、『ブルースカイ』号です!』
上面は銀色、下面は青に塗られた機体である。
『丁寧な仕上がりですね。上位に食い込めそうです』
仁にもその機体は、かなりの性能を持つことが見て取れた。最優秀は無理でも、上位に食い込めるだろう。
『ゼッケン9はエルヴィス・アルコット! 複葉機、『ダブル・ウイング』号です!』
明るい緑色に白い線が入った塗りの機体である。
『かなり翼幅が短いですね。運動性を重視したものと思われます』
確かに、規定では最大で1.5メートルまでであるが、その機体の全幅は90センチくらいであった。
「うーん、かなり重量が軽いんだろうな。無風の条件下だからこその発想かもな」
『ゼッケン10、ルビーナ・ギャレット! デルタ翼機、『ナイル』です!』
昨日仁が見た時と違い、金色になっていた。
それにしても、デルタ翼なのにプロペラ推進というデザインは、仁から見たら違和感ありまくりである。
『ほう、面白い機体ですね。彼女らしい』
仁としても、柔軟な発想をするルビーナが気に入っている。競技が楽しみであった。
『ゼッケン11。ゲスト出場のジン様! 可変翼機『ゼロ』です!』
ダークグリーンの機体に、赤で入れた丸に二つ引きの家紋。誰も突っ込む者がいないのは残念である。
『ジン様の機体ですか、これはやはり一番の優勝候補でしょうね』
呼称『ゼロ』というのは、仁がネーミングを焦った結果であった。
『ゼッケン12、同じくゲスト出場のロードトス様! テーパー翼機『スワロー』です!』
紺色に赤いラインが入った機体はスマートである。
『こちらも重量は軽そうですね。競技エリアが無風なので、重量が軽いことはあまりデメリットになりませんからね』
無風であれば、風によって姿勢を乱されることはないので、軽く作ればいろいろとメリットが出てくる。
だが仁としては、
「レースの時は他の機体が起こす風があるから、どうなるかな……」
と思っていた。
『最後はゼッケン13、マリッカ様です! テーパー翼機『イーグル』ですが、これは……』
司会のラックハルトが口籠もったのも無理はない。『イーグル』の全幅は1.5メートル以上あったのだ。黄色に青いラインが目立つ。
『えー、レギュレーション違反ではないかということですが』
解説のステイハルトが説明を行う。
『規定は一辺が1.5メートルの立方体の中に入る大きさ、ということでした。そしてこの機体は、ちゃんと入ったのであります』
そう、先日仁も確認した。
「まさか、対角線をうまく使うとはなあ」
そう、マリッカは立方体の各面に平行に機体を入れるのではなく、対角線上にもっとも幅のある主翼が入るように入れたのだ。
その全幅は2メートル。
「違反じゃないよな……」
次回からは全長・全幅・全高をきちんと規定するか、と思った仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20180423 修正
(旧)仁は、その命名を聞いて、かつてナタリアの先祖、マルシアが作った三胴船『ハルシオン』を思い出した。
(新)仁は、その命名を聞いて、以前老君に聞いたこと……かつてナタリアの先祖、マルシアが作った三胴船『ハルシオン』……を思い出した。
(誤)主翼の断面系、いわゆる『翼型』は下面が平ら、正面が上に凸、『クラークY』という型にごく近い。
(正)主翼の断面型、いわゆる『翼型』は下面が平ら、上面が上に凸、『クラークY』という型にごく近い。
(旧)上面が上に凸、『クラークY』という型にごく近い。
(新)上面が凸、『クラークY』という型にごく近い。
(旧)、つまり平面側同士を合わせるように折りたたむと上下対称の翼型となり、高速向きになるのだ。
(新)、つまり平面側同士を合わせるように折りたたむと上下対称の涙滴型の翼型となり、高速向きになるのだ。
20210504 修正
(誤)この日、1000人座れる観客席は満員。
(正)この日、200人座れる観客席は満員。
オノゴロ島の人口は248人でした……(+オートマタ)