49-13 遺跡に向かって
『始祖』の系譜は複雑だ。
まず、へールに残った『残留派』とアルスに移住した『移住派』に分かれる。
『残留派』は『自然回帰派』と『隠遁派』に分かれるのだが、すでに滅んでしまっている。
そして『移住派』は、ゴンドア大陸を拠点としたあと、『穏健派』と『急進派』に分かれ、『穏健派』は『共存派』と『融合派』、『独立派』に分かれた。
これらのうち『共存派』は現在のミツホやフソーに行き、また『融合派』は現在の小群国へ棲み着いた。
『独立派』はゴンドア大陸で『北方民族』の祖先となった。
さて、『急進派』はどうしたか。
『開拓派』と『侵略派』に分かれたと言われており、『開拓派』は600012号に代表されるように、アルスで独自に発展しようとし……失敗した。
では『侵略派』は?
今のところ、それに該当する遺跡は見つかっていないのである。
* * *
5月11日朝、蓬莱島。
研究所前に、『ノルド連邦』に向かう『仁ファミリー』メンバーが集合していた。
仁、ハンナ、サキ、グース。お供として礼子、職人1、そして治癒要員として看護用自動人形のナースアルファ。
シオンは転移門で一旦『ノルド連邦』に帰っている。
「準備はいいか?」
足りない物は転移門や転送機で取り寄せられるので、あくまでも念のために仁は尋ねた。
「大丈夫だよ」
「うん、大丈夫」
肯定の答えしか返ってこなかったので、仁は今回の足、『コンロン3』に乗り込んだ。全員、それに続く。
エドガーは留守番のエルザと双子についているので今回の操縦士はスカイ10だ。
「行ってらっしゃい」
「いってらっちゃーい」
「いてらっしゃーい」
エルザと双子に見送られて、『コンロン3』はふわりと浮かび上がった。
そして十分に高度を上げると、北を目指して飛んでいく。
エルザとユウ、ミオは、飛行船が見えなくなるまで手を振っていた。
* * *
「……やっと着いたのか……」
空を飛ぶのが苦手なグースは、ずっと目を閉じてシートにもたれたままだった。
『力場発生器』も使って飛んだので、1時間ほどで『コンロン3』は目的地に到着。
『森羅』の氏族領前にある広場ではシオンが出迎えてくれていた。
そのそばには、シオンの父ラデオゥス、母ロロナ、それに友人のマリッカも見える。
音もなく『コンロン3』は着陸した。
「ジン、みんな! いらっしゃい!!」
「やあシオン、昨日ぶり」
「早速で悪いけど、遺跡へ向かえるかしら?」
仁は頷いた。
「ああ。『コンロン3』が着陸できるスペースはあるんだったよな?」
「ええ、大丈夫よ」
「そっちは誰が行くんだ?」
との仁の問いには、シオンとマリッカが同行するとのこと。
また、現地には『森羅』の研究者が2名詰めているそうだ。
「ジンさん、シオンのことよろしくお願いしますね」
「マリッカ、しっかり調べてくるんですよ」
などの声に送られ、シオンとマリッカを加えた仁一行は再び『コンロン3』で飛び立った。
「ええと、このまま北に向かって50キロくらい」
シオンがルートを指示するが、それを聞いたサキは、
「ええと、ルガーダ川にぶつかるあたりかな?」
と地図を見ながら尋ねた。
「ええ、まさにそうなの。川から400メートルくらい離れた場所よ」
「ふうん。水の便を考えるならもう少し川の近くにすればよかったのにな」
とグース。
ハンナはサキと共に地図を見ながら、
「でもそこって、長い間に川の流れが変わっているかも」
と言った。
川の中流域で屈曲(蛇行)した部分があると、外側は浸食作用が強く内側は堆積作用が強い。
つまり外側は削られていき、内側は土砂で埋め立てられていくわけだ。その結果、蛇行は大きくなっていく。
蛇行が大きくなりすぎると屈曲部の上流と下流部がくっついてしまうことになる。そうなると川は流れやすい状態、つまりまっすぐ流れることになって蛇行部は取り残されることになる。
これを三日月湖という。
ハンナが指摘した川のそばには三日月湖が見られたのである。
「なるほど、『始祖』の時代からは大分経っているだろうからな。その可能性は高いな」
グースも前言を撤回し、ハンナの意見に賛成した。
そうこうするうちに『コンロン3』は遺跡近くまで来た。
広い平野が広がっており、見通しはいい。
そんな平野の一部にぽつんと天幕が張られていた。
「あ、あそこよ」
「なるほど、これならよくわかる」
天幕がいい目印になっていた。
『コンロン3』は天幕から50メートルほど離れた場所に着陸した。
男が1人駆け寄ってくる。研究者の1人らしい。
「ジン殿のご一行ですね? ようこそ。助かります」
「彼はレコナウス。考古学者よ」
シオンが紹介した。
「シオン、助かるよ」
レコナウスは『森羅』氏族特有の銀髪に水色の目をした、真面目そうな男だった。
「ちなみに、もう1人はトネリウスといって弟さんなの」
「あいつはまだ遺跡の中なんですよ」
「じゃあ、あたしたちも行きましょう」
そのつもりで来たのだから、とシオン。
仁たちも、早く遺跡を見たくてたまらないので反対はしない。
必要な装備はルックザックに入れて背負っているので、そのまま出発できた。
「じゃあ行ってくる。留守番は頼むぞ」
仁はスカイ10に声を掛けて出発した。
「ご主人様、行ってらっしゃいませ。皆様、お気をつけて」
「こちらです」
遺跡は天幕からさらに30メートルほどの場所にあった。
そこには、高さ5メートルほどの岩がテーブルのように盛り上がっている。
岩の基部には一部亀裂の入った場所があり、その中を覗くと小広い部屋のような空間があった。どうやらそこが今回発見された遺跡への入口らしい。
魔導ランプに照らされたその部屋の床部分には、よく見ると四角く扉のような形に切れ目が入っている。
「ここが出入り口です。おそらく非常口のようなものだったのでしょう」
レコナウスはそう言って扉を持ち上げるようにして開いて見せた。
「おお……」
そこには垂直の縦坑が口を開けていた。
穴の壁には梯子が架かっている。確かに見た感じ、非常口のような感じだ。
「20メートルほど下りますと小さなホールになっていましてね。今のところそこまでしか入ってはいません」
皆さんがいらしてくださったのでいよいよその先へ進めます、と言ってレコナウスは期待に満ちた笑みを浮かべたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/ となります。
お楽しみいただけたら幸いです。
20180317 修正
(誤)また『共存派』は現在の小群国へ棲み着いた。
(正)また『融合派』は現在の小群国へ棲み着いた。
面目ないです