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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
49 仁東奔西走篇(3464年)
1817/4234

49-06 譲位の儀

「あと1つ、気になっていることがあるんだ」

「あなた、それは何?」

 双子をお昼寝させた後、仁とエルザは起こさないよう少し離れた場所で小声で話をしていた。

 念のため、双子のそばには礼子が付いてくれている。

「陛下のことさ。今年の……というか来月、5月1日に譲位の儀が行われるじゃないか」

「ん、確かに」

 仁が陛下、と呼ぶのはショウロ皇国皇帝であるゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロ陛下のことであるし、殿下というのは皇太子であるエルンスト・ショウロのことである。

 既に仁もエルザもエルンスト皇太子殿下とは何度も顔をあわせており、その為人ひととなりについては、次の皇帝として相応しい、と若干不敬ではあるが評価していた。

 そして昨年、女皇帝は位を譲る旨を内外に発表していた。


「まあ多分だけど、譲位された後も陛下はしばらくの間は補佐をなされると思うけどな」

 成人したとはいえ、まだ15歳という若年の甥にいきなり政治を全て任せるなどという無責任なことはしないだろうと仁は推測していた。

「ん、陛下なら、そうなさると思う」

 そしてエルザもまた、仁の推測に同意した。

「陛下には、それこそ返しきれないくらいの恩顧を受けているからなあ……」

 その分、他の誰にもできないような働きを仁はしているのだが、そのことについては意識すらしていないところが、彼らしい点である。

「陛下にも、おそば付きのゴーレムか自動人形(オートマタ)をお贈りしたいなあと思ってさ」

「ん、わかる。なら、陛下には自動人形(オートマタ)がいいと思う」

「そうか」

 『アヴァロン』では来訪者の従者を除き、原則として人間そっくりな自動人形(オートマタ)は置かないことになっており、働いているのは皆ゴーレムだ。なのでフリッツとグロリアに贈ろうとしているのはメイド『ゴーレム』である。

 だが、女皇帝に贈る上でそのような制約はない。

 皇帝という地位に就かなければならなかった女皇帝は子を持つことを許されず、56歳となってしまっていた。

「礼子のことも可愛いといってくれていたしなあ」

 やはり、少女型の自動人形(オートマタ)がいいだろうと、仁は考えたのであった。


*   *   *


 方針が決まれば、仁の行動は早い。

 メイドゴーレムは蓬莱島準拠とする。素材は主に軽銀を使い、軽くすると共に、外装の色を落ちついたあかがね色にした。

 一見すると青銅でできているように見える。

 以前仁が『アヴァロン』へ寄贈した『サフィ』と外見的にはあまり変わらない。

 身体能力は蓬莱島の5色ゴーレムメイドのおよそ4分の1。それでも一般ゴーレムの5倍以上の基本性能を持っていることになる。サフィと比べても倍くらいだ。

 目の色はサフィがサファイアブルーなので、区別できるよう赤紫色にした。なので名前は『マゼンタ』だ。


 そして、女皇帝に贈る自動人形(オートマタ)

 仁はいつも以上に丁寧な作業をする。そしてエルザも手伝った。

 大きさは礼子と同等とする。

 ただし、パワーはぐっと落として、最大でも人間の4倍くらいまで。素早さも同じ。人間並みにしないのはいざという時に女皇帝を守るためだ。

 その分……というか、日常レベルの技能はこれでもかとてんこ盛りにする。

 治癒魔法や医療知識、料理洗濯に掃除裁縫。

「でも押しつけがましい性格はまずいな。あくまで控えめがいいんだが……」

 最近は、僅かな性格付けなら初期設定でできるようになっていた。

「向こう200年くらいはメンテナンスフリーにしておきたいな」

 ハードな使い方をするわけではないので可能だろうと仁は考えている。


「ん……顔はこう、かな?」

 エルザは、女皇帝と皇太子の顔を参考に、少し似せた感じで顔の造型をしていった。

 多少なりとも自分に似ていると、より親しみが湧くだろうという考えからである。

 2人に似せて髪色は焦茶色、目は茶色とした。


「おお、いい出来だな」

「ん、頑張った」

 仁とエルザの合作となる女皇帝用自動人形(オートマタ)はこうして完成した。


*   *   *


 そして5月1日に、予定どおり譲位の儀が行われる。

 場所はもちろん首都ロイザート、宮城(きゅうじょう)式典の間である。


 式典の詳細を述べるとキリがないので、簡潔に説明すると、

 クライン王国、フランツ王国、エゲレア王国、エリアス王国、セルロア王国、ノルド連邦、ミツホからの代表が列席。

 もちろん各国の有力貴族も出席するという壮大な式となった。

 当然仁とエルザも出席している。それもかなり上の席次で……。


 式典は朝の9時に宰相の挨拶で始まった。

「これより、ショウロ皇国皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロ陛下から皇太子エルンスト・ショウロ殿下への皇帝位譲位式を執り行います」

 それに続き、各国代表の挨拶や市民代表の言葉などが、約3時間。

 その中で、仁も一言挨拶をする羽目になったのである。

 各国代表のように壇上へ登るようなことはなく、席で起立して30秒ほど述べるだけなので、仁としては助かっている。

 さらに、

 『激動の時代を乗り切り、平穏な世の中へと導かれた、偉大なる皇帝陛下に尊敬と感謝を』

 というセリフを述べてくれ、と式典官からあんちょこを渡されていたので苦労はしなかった。

 実はもう1枚あんちょこがあり、そちらはこの10倍くらいもある長い内容だったのだが、式典官の合図で短い方を読んだ仁なのである。

 多分、各国代表の挨拶が思った以上に長くなって、時間も押してきたためと推測できた。

 同時に、こうでもしないと時間どおりの進行が難しくなるんだろうな、とその苦労に思いを馳せた仁だった。


 そうした挨拶の締めくくりは、市民から選抜された代表……10歳ほどの少年少女からの花束贈呈だった。

「まあ、ありがとう、あなたたち。とっても嬉しいわ」

 と、花束を受け取る時の女皇帝は満面の笑みを浮かべていたのが仁の印象に残ったのであった。


 そしてメインとなる皇帝位の譲位が始まる。

 立会人は列席者全員だ。

 一際高い壇上に立つ女皇帝の元へ皇太子が歩いていく。

 7段という階段を上って皇太子が同じ壇上に立つと、女皇帝は手にした王笏おうしゃくいや皇笏こうしゃくを掲げた。

 その後、そのしゃくで皇太子の左肩、右肩に触れる。すると皇太子は女皇帝の前に跪いた。

 女皇帝はその頭をそっと笏で撫でるように触れたのち、傍らの台に置いてあった冠を皇太子の頭へと載せたのである。

 最後に皇笏こうしゃくを皇太子に手渡すことで、継承は完了した。

 皇太子が両手で押し頂くように皇笏こうしゃくを受け取ったその瞬間、盛大な拍手が巻き起こる。

「今ここに、ショウロ皇国新皇帝、ヴァイスベルグ・エルンスト・フォン・ショウロの誕生を宣言するものであります」

 それが女皇帝としての最後の言葉であった。

 以降は太上皇帝として、新皇帝が20歳になるまで補佐を務めることになるという。

「私、ヴァイスベルグ・エルンスト・フォン・ショウロは皇帝として、この国と国民を守り、さらなる高みへと導くことを誓う」

 そしてそれが新皇帝の最初の言葉であった。

 式場である大広間は割れんばかりの歓声に包まれたのである。


 その後、太上皇帝と新皇帝は宮城(きゅうじょう)のバルコニーに出、集まった民衆の前で手を振った。

 万に近い民衆が集まった宮城(きゅうじょう)中庭は、またしても歓声に包まれたのである。

 そして空には熱気球と飛行船が浮かび、最近商品化された金紙銀紙の紙吹雪を降らせていた。


 この時を狙っての襲撃も暴動もなく、譲位の儀は滞りなく終了したのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 本日、異世界シルクロード(Silk Lord)も更新しております。

 https://ncode.syosetu.com/n5250en/

 お楽しみいただけましたら幸いです。


 20180310 修正

(誤)10歳ほどの少年少女殻の花束贈呈だった。

(正)10歳ほどの少年少女からの花束贈呈だった。

 orz

(旧)既に仁もエルザもエルンスト皇太子殿下とは何度もお会いしており

(新)既に仁もエルザもエルンスト皇太子殿下とは何度も顔をあわせており

(旧)金紙銀紙の紙吹雪を降らせていた。

(新)最近商品化された金紙銀紙の紙吹雪を降らせていた。

(旧)今年の5月1日に譲位の儀が行われるじゃないか」

(新)今年の……というか来月、5月1日に譲位の儀が行われるじゃないか」


(誤)

 7段という階段を上って皇太子が同じ壇上に立つと、女皇帝は手にした王笏おうしゃくいや皇笏こうしゃくを手渡す。

 それも、そのしゃくで皇太子の左肩、右肩に触れる。すると皇太子は女皇帝の前に跪いた。

 女皇帝はその頭をそっと笏で撫でるように触れたのち、傍らの台に置いてあった冠を皇太子の頭へと載せたのである。

(正)

 7段という階段を上って皇太子が同じ壇上に立つと、女皇帝は手にした王笏おうしゃくいや皇笏こうしゃくを掲げた。

 その後、そのしゃくで皇太子の左肩、右肩に触れる。すると皇太子は女皇帝の前に跪いた。

(旧)

その瞬間、盛大な拍手が巻き起こる。

(新)

 最後に皇笏こうしゃくを皇太子に手渡すことで、継承は完了した。

 皇太子が両手で押し頂くように皇笏こうしゃくを受け取ったその瞬間、盛大な拍手が巻き起こる。

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