48-03 ノルド連邦とアヴァロンと
「ああ、よく寝た」
充実した時間を過ごした仁は夢も見ずにぐっすりと眠り、おかげで爽やかな目覚めを迎えていた。
『御主人様、安全性その他の試験は全部クリアしました』
顔を洗った仁に、老君が報告してくれた。
「お、そりゃあよかった」
少々急いで作ったので見落としがあると危険だから、安全性については厳重な試験が必要だった。
老君が保証してくれるなら大丈夫だろう。
『併せて最高速度での試験も行いました。通常は時速800キロ、非常時はマッハ2まで出せます』
「そ、そうか」
念の入った試験飛行をしてくれたようだ。
『それから、空いたスペースに『タウベ』を積めるように致しました』
「お、それはいいな」
『タウベ』は仁が作った『風力式浮揚機』。垂直離着陸機としても使えるので、狭い場所でも着陸できるのだ。
『森羅』の氏族領と蓬莱島の時差は2時間半くらい。
蓬莱島時間で9時過ぎに、仁は『ハリケーン』で飛び立った。
「おお、これは快適だな」
『コンロン3』とは視界が違う。また、『タウベ』とは安定度が違う。
「風避けの結界も十分効いているな」
マッハ3まで対応できる結界なので、時速800キロなら余裕である。
ホープは『森羅』氏族領に午前9時に到着するよううまく速度を調整しつつ飛んでいった。
* * *
「何これ。凄いの作ったわね!」
「ジ、ジン様、凄いでしゅ」
「さすがジンさんですね……」
『森羅』氏族領では、3人が仁を待っていた。
『ハリケーン』が空港に着陸すると、大勢の人々が集まってきた。
「ジン様の新型飛行船ですね?」
「……でも、これって飛行船なのかしら?」
「風力式浮揚機みたいね」
姦しいのはマリッカの弟子たちだ。
「はあああ……これが最新の『風力式浮揚機』ということになりますか……」
空港関係者も、手が空いている者たちは皆寄ってきて『ハリケーン』を見上げている。
「この発想は、さすがですね!」
ロードトスが仁を讃えた。
「ええ、これなら『アヴァロン』へ行っても軽く見られることはないでしょうね」
『魔法工学師』を名乗るなら、それ相応の実力を見せないと侮られる、とシオンは言った。
「それだけ2代目が尊敬されているのよ」
「2代目も俺なんだけどな……」
仁は苦笑いを浮かべた。
「それはわかるけどね。でもわかってるのって私たちだけだからね……」
「ジンしゃまが軽く見られるのは許せないです」
「ジンさんとしては不本意でしょうけれど……」
「……ありがとう」
シオンたちの心遣いを嬉しく思った仁であった。
* * *
一方、時間は1日戻って『アヴァロン』では。
「デ、デウス・エクス・マキナ3世が来ると!?」
「な、なんで、い、今頃!?」
「この前来たばかりではないか!?」
デウス・エクス・マキナ3世来訪の報せにより、上を下への大騒ぎ中であった。
いや、実際にはまだ来訪していない。1時間後に来訪するという連絡が入っただけだ。とはいうものの、重要人物……いや、最重要人物の来訪を迎えるには時間がなさ過ぎる。
それで『アヴァロン』内はてんてこ舞いしているというわけであった。
「まず間違いなく本物でしょう。なにしろ専用回線での連絡ですから」
デウス・エクス・マキナ専用回線。本人もしくは従騎士レイ以外には使えない(はずの)回線である。
100年以上使われていなかったそれを使って連絡が入ったのだ。
前回の来訪時にはマリッカが事前に教えてくれていたのだが、今回は専用回線での連絡である。
「と、とにかく、手空きの者、非番の者全部に連絡を入れろ!」
『アヴァロン』最高管理官トマックス・バートマンは、部下たちに命令を下した。
「……そのうち連絡が入るだろうと思ってはいたが」
そして溜め息をついたのである。
そしてそこへ、さらなる混沌を呼び寄せる連絡が入った。
「最高管理官、『懐古党』なる組織より連絡です!」
「何だと? こちらへ回せ」
通信担当は最高管理官へと回線を繋いだ。
「……『アヴァロン』最高管理官トマックス・バートマンだ」
『こちらは『懐古党』名誉顧問エレナと申します』
「何用か、お伺いしたい。……失礼とは思うが、現在こちらは多忙なので、できうるなら後日ご連絡いただきたいのだが」
『お忙しいのは想像付きますわ。……デウス・エクス・マキナ様がおいでになるのでしょう?』
「な、なぜそれを?」
『マキナ様ご本人からご連絡いただきましたの。それで私どももご挨拶に伺いたく、ご連絡差し上げたわけですわ』
「……」
最高管理官トマックス・バートマンは胃が痛くなる思いであった。
「了解した。マキナ殿はおよそ1時間後に到着するそうだ」
『それでしたら、私どもは5時間後、ということに致したいのですが』
「……了解した。何人で来られる?」
『私エレナと2名ほどで』
「了解した」
通話を切ったトマックス・バートマンは溜め息をついた。
そこにまた連絡が入る。
「何だ、いったい!」
『最高管理官、今度は『森羅』のマリッカ様から連絡が入っております!』
「……何! 繋げ!!」
『突然の連絡、失礼します』
「おお、マリッカ先生! お久しぶりでございます!!」
『久しぶりですね、トマックス。元気そうで何より。……忙しいでしょうから単刀直入に言うわね。明日、ショウロ皇国で認証された『3代目魔法工学師』、ジン・ニドー殿と共に、そちらへご挨拶に伺います。ロードトスとシオンも一緒に』
トマックス・バートマンは胃が痛む思いであった。
「は、はい、先生とそのご一行でしたらいつでも歓迎いたします。ですが本日、デウス・エクス・マキナ3世を名乗る方と、『懐古党』のご一行がお見えになる予定でして……」
できれば日延べしてもらえれば、と思っていたのだが、マリッカの言葉は期待を裏切るものであった。
『ええ、知ってますよ。ですので私たちも伺おうと思ったのです』
「……そうですか」
『今日はいろいろと大変でしょうから、明日そちらの時間で正午に』
「わかりました。お待ち申し上げます」
通信は切れた。
『アヴァロン』最高管理官トマックス・バートマンは深く深く溜め息をついたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20180808 修正
(旧)『今日はいろいろと大変でしょうから、明日そちらの時間で午前10時に』
(新)『今日はいろいろと大変でしょうから、明日そちらの時間で正午に』
このあと、48-06 で11時50分に到着してます……
20180829 修正
(旧)『最高速度の時速800キロでアルスを1周してきましたから』
(新)『併せて最高速度での試験も行いました。通常は時速800キロ、非常時はマッハ2まで出せます』