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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
47 オノゴロ島の子孫篇
1768/4235

47-49 遠隔操縦自動車レース 中盤

 レースは、10周を終えたところである。

 今の順位は、ゼッケン12、11、9、10、8、2、6、3、7、5、1、4、13。


『あらら、やっぱりマリッカはこういうの苦手そうね。車の性能は高そうなのに』

 残念そうにシオンが呟いた。

 一方、ロードトスは単独首位を守り続けている。それを追うのは約3秒差で仁。

 ルビーナも4位まで追い上げてきていた。

『さあ、11周目、レースも中盤に差し掛かりました!』

 ラックハルトの実況も勢いが増している。

『トップはやや独走気味のロードトス様、ゼッケン12。それを追うようにジン様ゼッケン11。そのすぐ後ろにゼッケン9、10、8がひしめいております!』

 仁もまた、3位以下に2秒ほどの差を付けていた。そしてロードトスの車をペースメーカー代わりにしていたのだ。

(意外と楽だな……)

 そう、車の性能が近いので、後ろを付いて走る方が楽なのである。逃げ切り型の仁としては初めて知ったことであった。

 ロードトスの操縦はうまい。仁よりも。

 そして仁は、その後ろに付いて走ることで、何となくではあるが、走らせ方のコツのようなものをつかみ始めていた。

 ロードトスもそれは薄々勘付いているが、だからといって仁を突き放せるほど速く走るのは難しい。少なくとも、今のところは。

(残り10周を切ったら全力全開にできるのですがね)

 そう思いながら自車を走らせるロードトスであった。

 もっとも、北方民族であるロードトスにとって、今のペースで走らせることは負担ではない。20周どころか100周しても大丈夫だろう。


 一方、マリッカはそうではなかった。

(あ、あわわわ……)

 若い頃から運動能力は人並み以下だった。

 その分、工学魔法の才能に溢れ、ノルド連邦における仁の一番弟子として、その分野では一族の頂点に立っている彼女。

 だが、歳を重ねた分、思慮深さを深めてはいたが、運動能力は衰えていたのである。


*   *   *


『ゼッケン13、マリッカ様、健闘しておりますが依然順位は変わらず! 残念ながら最下位であります!』

『あの子としては健闘してるわよね』

 シオンにとってマリッカは、幾つになっても『あの子』なのである。

 だが。

『……ふうん』

 何かに気が付いたように、シオンは含み笑いを漏らした。


*   *   *


 最後尾から2番目を走っているのはゼッケン4、グリーナ・クズマの車である。

 中盤に差し掛かった今、男性参加者の方が上位となり、女性の参加者が下位になる傾向が見られていた。

 単純に『運転能力の差』である。普段は自分で乗り物を運転しないので、こうした競技は不得手なのだった。

 グリーナとしては最下位でないのが救いであったが、それが敬愛するマリッカ様だということに少々引け目を感じてはいた。

 だが。

「あれ?」

 そのマリッカのゼッケン13が、少し追い上げてきているようなのだ。


*   *   *


『おおっ!? ゼッケン13、少しペースが上がったようです!』

『やっぱりね』

 シオンは自分の予想が当たった、と笑みを漏らした。

『シオン様、どういうことでしょうか?』

 そんなシオンに気が付いたラックハルトが質問をした。

『簡単なことよ。マリッカの車が走っているコースをよく見てごらんなさい』

『はい? ……ああ、なるほど』


 マリッカは、特に意識してライン取りをしていなかった。インコースの方が少しでも走る距離が短い、という計算すらしていない。

 おおよそ、コースの真ん中を走っているのである。

 そしてそのあたりは、ほとんど他の車は走っていない。つまり路面が荒れておらず、走りやすいのである。

 加えて、マリッカの車は特性がマイルド。つまり『走らせやすさ』に重点を置いて作られているので、強大なトルクでタイヤを空転させることもなく、従って路面を抉ることもない。

 ゆえに、マリッカはマイペースで車を走らせることができていて、それゆえに少しずつ……僅かずつではあるが、ラップタイムも上がってきているのであった。

 さらに、マリッカもロードトスと同じく、生粋の『北方民族』である。肉体的にこの程度の負荷で疲れを感じたりはしない。

 そして、不慣れな操縦ということを除けば、マリッカの集中力は人並み外れているのだ。だからこそ工学魔法の第一人者なのである。


『マリッカ様のラップタイムは、周を追うごとに速くなっております! 1周目は41秒台でしたが、12周目は39秒2!』

 観客がどよめいた。

「マリッカ様、頑張れー!」

 声援も送られる。

 今のマリッカは、その声援も耳に入らないほど集中していた。


*   *   *


 15周目になると、幾つかのグループができてくる。

 先頭は相変わらず12、11、10、9が1秒から3秒差で順になって走っている。

 第2集団はそれより5秒遅れで8、2、6、3。

 第3集団はさらに4秒遅れて7、5、1、4、13である。

 いや、13は1人マイペースで走っているので集団とは言えないかもしれないが……。


「ううん、ジン様を抜けないよう!」

 ゼッケン12のロードトスがトップ、ゼッケン11の仁が2位。それを追うようにしてゼッケン10のルビーナが3位を走っている。僅かに遅れてゼッケン9、エルヴィス・アルコット。

 今、仁とルビーナはテール・トゥ・ノーズで競り合っていた。

 競り合いはやはり見ていて面白い。観客の多くはこの2位争いに注目していた。


 仁は自分的にベストと思われるラインで走っている。

 ルビーナはそれを追う形で、必然的に仁と似たライン取りになる。だが、それが間違いだった。

 車の性能も、特性もまったく異なる仁の車と似たライン取りをしているルビーナの車は、その特性を生かし切れていなかった。

 金属製スパイク付きタイヤ、有り余るトルク。

 これを生かすなら、鋭角にコーナーへと突っ込み、急減速後に後輪をホイルスピンさせて一気に方向転換し、その後ホイルスピンを収めてグリップさせ、堅実な加速。

 そういった鋭角的コーナリングが向いているのである。

「だけど、それに気が付くにはまだルビーナは経験不足だよな」

 だからこそ、こういった競い合いは彼女に多くのものをもたらすだろう、と仁は思っている。そしてそれは、参加している他の者たちも同じだ。


 仁の車はゴムタイヤであるから、確実なグリップ走行をしている。コーナリングもスローインファーストアウトのセオリーを守っている。まあ、この辺はかつて読んだマンガからの受け売りであるが。


 そして最後尾では、ついにマリッカがゼッケン4を抜いて12位に浮上していた。

「マ、マリッカ様、間違いなく少しずつ速くなってる!」

 18周目にしてマリッカは37秒7と、予選でいえば3位相当のタイムを出すまでに至っていた。

 だが、トップグループのラップタイムは35秒台に突入している。


*   *   *


『いよいよ19周目! おっ、ジン様、勝負を掛けたか!? ゼッケン11、猛然とスパート! ゼッケン12に迫っていきます!!』

『ジンも本気中の本気を出すようね』

 歓声が高まる中、12と11はテール・トゥ・ノーズ。ここへきて、仁はベストラインで走ることをマスターしたようだった。

(ううん、ジン様はやはり侮れませんね。ここはスパートをかけないと……!)

 ロードトスもさらにやる気を出していた。

 いよいよ終盤戦である。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180120 修正

(誤)健闘しておりますが以前順位は変わらず!

(正)健闘しておりますが依然順位は変わらず!


(誤)『簡単なことよ。シオンの車が走っているコースをよく見てごらんなさい』

(正)『簡単なことよ。マリッカの車が走っているコースをよく見てごらんなさい』


20180301 修正

(誤)トライハルト

(正)ラックハルト

 二箇所修正。……orz

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