47-36 乱闘、混沌
[さあ、いよいよ先頭集団はバトルゾーンへ入りました! とはいえ、今の先頭集団同士でバトルをする意味はありません!]
むしろタイム的にはマイナスになるので、ゼッケン1、51、40はそのまま先を急いでいる。続くは追い上げてきた17。そして31、49、13。
ここでゼッケン51がスパートをかけた。
[おっ!? ゼッケン51、速い速い! ……今、ゼッケン1を抜いてトップに立ちました!]
* * *
「ほう、ここ一番のダッシュ力もありますね」
ロードトスが感心した声を上げる。
「だな」
中量級の利点が生きているといえる。
「だが……」
「だが? どうしたの? ジン様?」
煮え切らない仁の言葉に、ルビーナが反応した。
「え? ああ、うん。……このままいくと、5つめのマーカーを持って戻って来た頃に後続とぶつかるなあと思ってな」
「ああ、確かにそうですね。そうなると戦闘になって、中量級は不利かも……」
「シュウの言うとおりだ。まだ誰が優勝するか、わからないぞ」
* * *
[先頭集団は今、最後のマーカーを手にしました!]
紫色のマーカーを、次々に手に取るゴーレムたち。
そして同時に折り返し地点でもあるので、Uターンをし、来た道を戻っていくことになる。
まずすれ違ったのは単独4位のゼッケン17。ここでは何ごともなく互いにすれ違った。
次にすれ違ったのは第2集団、これもトラブルはない。
第3、第4集団までは、マーカーを全て手にしているのでバトルは却ってロスタイムとなるため、黙ってすれ違うのみ。
だが、第5集団は違った。
第5集団はゼッケン11、29、37、47の4体からなる。その4体がすれ違いざま、一斉に先頭集団の3体目掛け襲いかかったのである。
[おおっと! ここでついに戦闘が開始されました! トップを走っていたゼッケン51にはゼッケン11が。ゼッケン1には29が。40には37がそれぞれ襲いかかっています! 47だけは静観しております。何を考えているのでしょうか!]
3組の格闘が始まったその脇で、ゼッケン47はじっと成り行きを見守っていた。
* * *
「おそらく『漁夫の利』を狙っているんじゃないかな?」
画面を見ていた仁が呟いた。
「ジン様、『ぎょふのり』って?」
「……ああ、それはな、『故事成語』って言って、昔あった出来事を元に作られた格言……かな」
「へえ、どんな?」
ルビーナに聞かれた仁は、思い出しながら説明してやった。
「……漁師が船に乗って魚を捕っていたら、鳥が大きな魚を捕まえたんだ。だけど、魚が大きすぎて鳥は飛び上がれず水に落ちてしまった。そして魚も、鳥の爪が身体に食い込んで死んでしまったんだ。それで漁師は労せずして鳥と魚両方を手に入れることができた……という話だったと思う」
つまり労せずして利益を手に入れる、という意味だ、と仁は締めくくった。
「ふうん、ありそうな話ね。そして確かに今の状況を見ているとありそうだわ」
実際は、鳥はシギで、魚ではなくハマグリ(カラスガイとも)であり、爪ではなくクチバシを挟まれてしまう話であるが、意味としては通じている。
実際、ゼッケン40と37の争いで40の収納部から赤と黄色のマーカーが転がり出たのを、47がさっと掻っ攫ったのである。
「あっ!」
「ほらな」
ルビーナが声を上げ、仁はやはり、と頷いた。
マーカーを奪い取ったゼッケン47は、赤いマーカーには目もくれず、黄色いマーカーだけを持って、その場を離脱した。おそらく赤いマーカーは既に持っていたのであろう。
一方、ゼッケン1と29の戦いは、ゼッケン1に軍配が上がったようで、動かなくなったゼッケン29を尻目にゼッケン1は走り出した。だが、幾らかのダメージを受けたようで、そのペースは若干落ちている。
「……バトルはしない方がいいよな」
仁は顔を顰めた。
そのゼッケン1に、さらに後続であるゼッケン19が襲いかかった。
「まともにやり合ったら不利だぞ……」
という仁の呟きが聞こえたわけでもないだろうが、ゼッケン1はうまく体をかわし、ゼッケン19をやり過ごした。
ゼッケン19も、それ以上ゼッケン1を追うと、第5チェックポイントを通過していない以上、大きなタイムロスとなるので諦めたようだった。
続いてゼッケン51もゼッケン11との格闘を制し、再び走り始めていた。
だが、折から次々に後続がやってくる。そのほとんどはマーカーを一つも持っていないのだ。
故に全部のゴーレムが襲いかかってくることになった。
「これは厳しいな……」
50体のゴーレムに対してマーカーが20個というのは少なすぎるのではないかと仁は思った。
が、このエリアでのバトルも、この競技の目的なのである。
観客は大いに興奮し、大歓声を上げていた。
ついに乱闘が始まったのである。
「あまりスマートじゃないな」
「ですねえ……」
仁の呟きに、ロードトスも賛成の意を示した。
レース部分は見ていて面白かったが、バトルになった途端に混沌としてしまった。
もはや乱闘と言っていい状態である。
「なんだ、これは……?」
観客たちもざわつき始めた。
* * *
[おっと! 大乱闘だ! 皆、どうした!?]
アナウンスも戸惑っている。
[各ゴーレム、興奮状態かっ!? ゴーレムなのに、どうしたというのか!!]
* * *
「お父さま、少しおかしいです」
そこに、礼子の声が。
「何?」
「あそこで戦いを繰り広げているゴーレムたちですが、半ば意志をなくしています」
「何だって!?」
「距離があるので特定できませんが、ゴーレムの付近から、『隷属書き換え魔法』に似た波動を感じました」
「『隷属書き換え魔法』!?」
かつて『統一党』がエゲレア王国でのゴーレム園遊会時に使い、ほとんどのゴーレムを狂わせた魔法だ。
それと同じことを行った者がいる。
「……『魔法連盟』しかいないよな」
マルキタスが没した今、各地で勢力を削がれている『魔法連盟』。
「よりによって、今まで一番勢力が弱かったショウロ皇国に入り込んでいるとは……いや、それだからこそ入り込みやすかったのか」
警戒されていなかったからこそのこの暴挙なのだろうと仁は考えた。
「どうしますか?」
ロードトスに尋ねられたが、
「ショウロ皇国側は何か手を打っていないのか?」
と、仁はまず主催者であるショウロ皇国に対処をさせたいと思っていた。
* * *
そのショウロ皇国側では。
「うむ、これは少し……いや、かなりの異常事態だ。主催者権限で宣言する。競技は一時中断だ!」
と、魔法技術相レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアスは判断を下した。それは即座に部下の大会運営役員たちに伝えられる。
そしてゴーレムたちに対し、中止命令が出された。
大会規約により、ゴーレムの主人でなくとも、この指示にだけは従うようプログラムされているのである。
『中止! 停止せよ!!』
命令が響き渡った。だが。
[この異常な状態に終止符! 一時中断です!! ……ああっ!? 止まりませんっ!]
ゴーレムたちの乱闘は収まるどころかさらに激しさを増していったのである。
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