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第二十一話:友情

【絶望】の魔王ベリアルのダンジョンに向かう。

 もともと、このタイミングで二人きりで話したいと告げていた。

 すると、ベリアルは自分のダンジョンで会おう、それも水晶の部屋がいいと提案してきた。

 盗聴器を確保したい俺としては都合がいい。

 もっとも、ベリアルが俺を水晶の部屋に呼びたい理由があるのだろうが。


「最近、おとーさんとの旅行が多くてうれしいの! 今回もおとーさんはクイナが守るの」

「クイナがいれば安心だな」


 クイナには悪いが、今回だけはクイナに守ってもらう必要がない。

 そういう準備をしている。

 だが、クイナは顔に出やすい。そして、クイナが何も知らないほうが策の成功率が上がるため、あえて何も知らせていない。


「さあ、そろそろベリアルのダンジョンに着くぞ」

「やー!」


 暗黒竜グラフロスに降下を指示する。

 もうすぐすべてが判明するだろう。


 ◇


 ベリアルのダンジョンについた俺たちはすんなりと彼の水晶の部屋へと案内された。


「さあ、どうぞプロケル様。此度の和解交渉の件を聞いていますよ。さすがですね。完全勝利ですよ。あれだけの魔王たちからあの条件を引き出すなんて。他の魔王には絶対にできないですね」

「引き出したわけじゃない。向こうが勝手に提示してきたんだ。何はともあれ、戦いが終わって良かったよ。あのまま戦いを続けていても勝てただろうが、どこかでアヴァロンや俺の魔物たちに被害が出ていた」


 実のところ、それがあの条件を受けた一番の理由だ。

 俺はアヴァロンという街と魔物たちを大事に思っている。

 愛しいものたちを傷つけてまで得たいものなど存在しない。


「プロケル様はご立派ですね。憧れます。誰もが思うでしょう。プロケル様のように強力な能力を得て強くなり、自由に振る舞いと。一切の妥協をせず、胸を張って生きたい。……だけど、それは強い魔王だけの特権です。ほとんどの魔王、特にBランクメダルを与えられて生まれた魔王は、生まれたときから強い魔王の顔色をうかがって生きるしかない」

「それは真実だろう。だが、策を駆使してAランク魔王の水晶を一つでも砕けば、毎月Aランクメダルを作れるようになる。仮に、俺の【創造】が羨ましいなら俺の水晶を砕けばいい。生まれもった力なんて絶対視するものではない。すぐにひっくり返る」


 戦いは強いものが必ず勝つというわけではない。

 策を用いれば、あるいはうまく騙せば、低ランクの魔王でも強い魔王を殺せる。

 そして、水晶を壊せば、その魔王の能力とメダルを得られてしまう。


「あはは、たしかにそうですね」

「第一、ベリアルの【絶望】はAランクだろう。まるで、元々はBランクのメダルの持ち主だったみたいなセリフだな」


 ベリアルは何も言わずに微笑む。

 その微笑みには、まるで感情がなく、まるで何かを覆い隠すような仮面のように思えた。


「それで、プロケル様。わざわざ二人きりで話したいという要件はなんでしょう」

「いきなり、本題に入るのは野暮だろう。しばらく、こうして雑談をしながら、お互いの近況報告をしよう」

「かしこまりました。お茶とお菓子を楽しみながら、雑談でもするとしましょう。プロケル様のお言葉の一つ一つが勉強になります。最近、僕は紅茶に凝っていましてね。知っていますか? アヴァロンには百を超える紅茶が世界中から集まってくる。それの飲み比べや、ブレンド。いくら試しても、試しきれない。日々、新しい味の発見に満ちている」


 彼の人間臭いところは嫌いじゃない。

 むしろ好きだと言える。


「それはいい趣味だ。ぜひ、ベリアルのとっておきの紅茶を飲ませてほしい」

「では、さっそく紅茶を用意しますね」


 そう言いつつ、俺は作業をする。

 この部屋に仕掛けた盗聴器は無事だが、回収するところを見られるのはまずい。

 だから、データリンク機能でデータを受け取る。

 さらに骨伝導型のイヤホンでベリアルに悟られることなく内容を確認する。


 ロロノの作った端末は、情報の取捨選択を自動かつ高速で行う。そして選りすぐられた音声情報を十六倍速で流す。

 俺は訓練によって、十六倍速までなら認識できるようになっていた。


 ……魔王というのは、魔術的な監視や侵入者には病的なまで警戒するというのに科学的なものには一切警戒がない。

 なぜなら、そういうものが存在するということすら認識していないからだ。

 この文明レベルでは、盗聴、録音、データリンク、それらすべてが魔法よりも何倍も神秘なのだ。


「この紅茶はうまいな」

「ええ、僕もお気に入りです」


 紅茶を入れてくれたベリアルの話に相打ちを打ちながら、ベリアルの水晶の部屋での音声情報を確認していく。

 数か月分の情報だが、AIによる取捨選択と十六倍速の再生故に三十分もしないうちに再生が終わる。


 いくつかの真実がわかった。

 その中には、いい情報と悪い情報があった。

 いい情報としては、ベリアルは裏切りものではなかったこと。

 悪い情報としては、目の前にいる存在は裏切りものであり、俺が予想していた最悪のケースに近い真相であったこと。


「さて、そろそろ本題に入ろう。ずっと、ベリアルに渡したかったものがある」

「まさか、それは」

「俺の【創造】のメダルだ。【絶望】のメダルをもらったお礼に渡したかった。だが、俺はベリアルのことを疑い続けていた。だけど、反プロケル同盟の連中の全貌を掴め、そして戦いが終わった今、もうベリアルを疑う必要もない」


 微笑んで、【創造】のメダルを手渡す。

 それは、彼に受け取ってもらうためにあえて温存していたもの。


「ありがたくいただきます。これで最高の魔物を作り、これからもプロケル様のために」

「俺のために作る必要はないが、一刻も早く作ってくれ。Sランクの魔物を生み出せばBランクの魔物の渦が作れる。それがどれだけの戦力増加になるかわかるだろう? ……このメダルは、真の仲間になった証だ」


 ベリアルがこくりと頷く。

 彼の【絶望】を使ったSランクの魔物の力は、堕天使ラフェロウで証明済み。

 仮に【絶望】の特性を知り尽くした彼が、さらに別のAランクメダルと組み合わせればラフェよりも強い魔物を作れるかもしれない。


「わざわざ、このために来ていただくなんて」

「……ずっと疑い続けて悪かったな。その謝罪もここに来た理由だ。要件は済んだ。今日は帰るよ」


 俺は立ち上がり、彼に背を向ける。

 抱き着きたいのかベリアルが走ってくる。

 そして……。冷たく硬い感触が体内に入り込み、灼熱の痛みと熱い血が流れ込んでくる。

 ベリアルが背後から俺を突き刺した。

 新人魔王を殺したペナルティは発生しない。なぜなら、虫の魔王のダンジョンを襲撃した際、迎撃に現れた魔物の中には【虫】からベリアルが譲れた魔物がいて、俺は彼を攻撃しているからだ。

 元【虫】の魔物だ。映像で見ても気付けるはずがない。

 そのことは【虫】を拷問して、聞き出していた。


「おとーさん! よくも!」


 クイナが、炎の弾丸でベリアルを貫き、ベリアルの体が壁に叩きつけられる。

 その顔は怖いほどの無表情だ。

 声が響く、頭の中から。


『ひひひひひひ、もう、その器はいらない。もっと、強い器が手に入るのだから』


 聞いたことがある声。

 なぜなら、それは俺自身の声だからだ。


「その口調、ずいぶんと印象が変わったな【黒】の魔王。そっちがおまえの素か」


 このタイミングで仕掛けてくるのは予想済み。

 あの俺に有利すぎる条件での和解は【黒】の魔王の指示だ。なにせ、俺を乗っ取るのだから、どれだけ俺に不利な条件でも構わず、油断させさえすればいいのだから。


『なんだ。俺がいると気付いていたのか、なのにこんな隙を晒すなんて間抜けだ。……なあに、心配するな。貴様は俺になるだけだ。死にはしない。その最強の能力、おまえが作り上げたアヴァロンも、魔物たちも今まで通り、いや、今まで以上にうまく使ってやる』


【黒】の魔王とは敵対していたが、尊敬はしていた。

 それゆえに、こんな小物臭いことを言われると、悔しさ以上に失望がまさる。


「ベリアルも、こうやって支配したのか」

『貴様と違って、同意の上だ。昔、そういう契約をした。貴様は俺の操り人形と仲良く、友達ごっこをしていたのさ。笑いをこらえるのに必死だったぜ。楽しかったかよ。友達ごっこはよぅ』


 口角を吊り上げる。


『貴様、何を笑っている』

「おまえは気付いていなかったんだと思ってな。ベリアルは俺にメッセージを送り続けてくれた。あえて、わざとらしい演技をし続け、俺に警戒心を持たせ続けた。他にもいろんなヒントを出し続けていたんだ。わかるか? 俺がおまえに食い物にされないようにだ。ベリアルはおまえに逆らっていた。そうしてくれたから、俺は彼にメダルを渡した」


 ベリアルはずっとそうだった。

【黒】の魔王は、ベリアルを乗っ取ったことを気付かせないため、あえてベリアルに行動させるという形をとった。


 ベリアルは直接的に【黒】の魔王に逆らえなかったのだろう。だから、ずっと俺にサインを送り続けていた。

 それが確信に変わったのは、この盗聴器の情報を聞いたからだ。

 あえて言おう。彼は友だと。


『うるさい、黙れ。貴様はもうすぐ俺になる。貴様の体で、最強の能力で、最強の魔王に。俺ならもっとうまく【創造】を使える。さっき言っていただろう。力のないものは騙して奪えと。だからそうする。今までもそうしてきた』

「……そうか、それはいい。だけどな、疑問に思わないか? ここまでわかっていた俺が、これだけ無防備に背中を晒したことを」

『強がりを』

「もう一つわかったことがあるんだ。馬鹿は死ななきゃ治らないって言葉があるだろ? あれって嘘なんだなって。なにせ、”バカは死んでも治らない”」


 ようやくネタ晴らしができる。

 初めから、黒の魔王の存在を疑っていた。

 そして、ベリアルの出し続けたヒントに気付いていた。その俺がなんの準備もしていないはずがない。


『うそだ、貴様、消えて』

「覚えていないか、おまえの聖都でも使った手だ。同じ手に二度もかかるとはな。まあ、ありていに言って、この体は偽物だよ」


 俺が消えていく。

 そして、俺がアウラと共に現れる。

 もともと、この部屋に俺は二人いた。

 一人は俺、そして、もう一つはストラスの【偏在】。

 本物の俺は、アウラの風の力で姿と気配を隠していた。


「さて、【黒】の魔王の能力、【黒】の能力は心の黒い部分に潜り込む能力だったな。確実に潜り込むためには、前段階で相手の怒りや、恨みを買い、死の恐怖に陥れて、心を黒くする。残念ながら、俺にとって貴様は滑稽でしかない。心は黒く染まらない。それでもチャレンジしてみるか?」

『貴様あああああああああああ』


 奴の思念が、こちらへと向かってくる。

 今のあいつは必至だ。

 もとの体であるベリアルの体には大きな穴が開き、遠からず死に至る。

 かと言って、クイナやアウラに入ったところで俺の命令に従わないといけなくなる。


 奴の能力は【刻】の魔王から聞いている。

 体を失った状態では、十秒程度しかもたない。

 俺の【偏在】が消滅した今、あいつの寿命の秒読みが始まっていた。


『プロケルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』


 奴の思念が襲いかかってくる。

 そこで、もう一つの切り札を使う。

 それは、かつて【刻】の魔王の試練を乗り越えた景品として、ダンより授けられた銀時計。


 その能力は、【刻】による自らの時間操作。

 たった十秒の効果時間、それも使い捨て。

 だが、たった一度だけでも【刻】の魔王の力を使役できる。


 奴の思念が触れる直前、銀時計のスイッチに触れる。

 望む能力は時間停止。

 時間停止は強力な能力だ。なにせ、時間が止まっていれば絶対不変。

 いかなる、物理、魔術、精神、すべての干渉を遮断できる。

 わずかな可能性で成功する【黒】も時間がとまった状態では成功率がゼロになる。

 俺にとっての一瞬、世界にとっての十秒が終わる。


「アウラ、周囲に奴の思念の気配はあるか?」

「いいえ、ご主人様。この私が消滅の瞬間まで見届けました」


 そうか、これでようやく長かった。【黒】の魔王との戦いに終止符が打てたのか。


「すぐにベリアルの治療を頼む」

「助かるかは五分五分です」

「それでもやってくれ。彼は俺の恩人だ」


 ベリアルがずっとサインを出し続けてくれたから真相に気付けた。

【黒】の魔王に操られていても、それでもあがき続けた。


 そんな彼を見殺しにできない。

 アウラが、ロノウェの粘液でぽっかりと空いた穴を塞ぐ。

 いろいろと調べて、ロノウェの粘液は高い治癒能力があるとわかった。

 その粘液をアウラの力によってさらに機能を強化したものだ。

 応急処置としては最善だろう。


「むう、おとーさん。なんで、クイナに秘密にしてたの」

「敵を欺くには味方からだ。クイナが本気で怒ったから、あいつは俺たちの思惑に気付かなかった」

「……わかったの。でも、ちょっぴり悔しい」


 膨れるクイナの頭を撫でてやる。


「ご主人様、なんとか一命をとりとめましたが、危ない状況です。本格的な治療にはアヴァロンの設備が必要です」

「わかった。ここから、アヴァロンに【転移】しよう」


 まずは、ベリアルの治療が最優先だ。

 彼の魔物たちへの説明は後する。

 起きたら、改めて彼に礼を言おう。

 彼はもう仲間なのだから。

いつも応援ありがとう。面白いと思っていただければ画面下部の評価をしていただけると嬉しいです

そして、3/15(金)にGAノベル様から発売されました!

書き下ろしを含めて頑張っているので、ぜひ読んでください

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