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第二十話:停戦協定

コミックガルド様にて、コミカライズスタートです。無料で読めるので是非読んでやってください

http://over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=ZG0019&vid=&cat=CGS&swrd=

 デュークたちが遠征に出かけて三日後、無事帰還してきた。

 彼らは、【虫】のダンジョンの魔物を駆逐し、水晶を壊すことに成功している。

 屋敷にて、その報告を受けていた。


「……デューク、報告書を読み終わったよ。さすがにAランクメダルを持つ魔王相手だと無傷とはいかないか」

「申し訳ございません。私の力不足です。我が君の戦力をいたずらに消耗してしまいました」

「いや、おまえは十分にやってくれた。アヴァロン・リッターを六機も破壊するような強敵に勝利した。褒めこそすれ、責めるつもりはない」


 報告書によると、こちらの被害はアヴァロン・リッター六機、数十体のゴーレムたち、デュークの力で【強化蘇生】した魔物と人間が約二百体。


 まさか、アヴァロン・リッターが六機も落とされるとは思わなかった。

 通常状態でAランクの魔物に匹敵する性能を持ち、短時間なら【バーストドライブ】によってSランクにも匹敵する。

 アヴァロン・リッターの自体も強いが、三騎士やデューク、クイナが戦線に投入されていたのだ。

 そんな中、これだけの被害を受けるのは、よほど相手が強かったということだろう。


「デューク、おまえ自身も相当暴れたみたいだな」

「……ええ、指揮官たる私が出なければ戦線が支えきれませんでした。敵の特級戦力については別途報告書を用意しています。アヴァロンを強化する参考になればと思います」


 俺も色々と工夫しているが、それは他の魔王も同じだ。

【虫】の魔王はAランクに生まれながらも、慢心せずにいろいろとやっているようだ。

【虫】の魔王から学ぶべきところは学ぼう。


「この報告が終われば、アウラに診察してもらえ。長時間、【狂気化】を解放して戦ったんだ。後遺症が出ているとまずい」

「かしこまりました」

「それから、破壊されたアヴァロン・リッターは持ち帰っているな?」

「もちろんです。すでにロロノ様のところへ届けました。ドワーフ・スミスたちの話によるとツインドライブコアが無事なので、ロロノ様なら復元可能であると」

「それは良かった。アヴァロン・リッターを六機も失うのは痛い。それに、失った【強化蘇生】の魔物たちの代わりも十分に手に入れたようだな」

「ええ、強い魔物が多く、失った以上の戦力アップになるでしょう。なにせ、あの激戦の中でアヴァロン・リッターを打ち倒す敵を強化して蘇生するのです。【強化蘇生】しきれなかった分の死体は冷凍保存して倉庫に移しておりますので、順次【強化蘇生】していきます」


 デュークは相変わらず抜け目がない。

 失った以上の戦力を得られたのなら、今回の被害もまったく問題ないと言える。


「改めて聞こう。デューク、俺の魔物たちは死亡していないんだな」

「はい、傷を負ったものは多いですが命を落としたものはいません。それが我が君の望み、最優先しました」


 俺は魔物の死を一番嫌う。

 だから、アヴァロンの基本戦術は、ゴーレムや【強化蘇生】した他人の魔物や人間どもを使い捨ての壁にすること。

 それゆえに、俺の魔物以外に被害がでるのはどうしようもない。

 他にも報告書の中で、気になる点があったので、あわせて確認しておこう。


「それにしても、敵の協力関係はずいぶんともろいな。まさか、【虫】のダンジョンに、外部の魔王の増援が現れないとは」

「もはや敵の同盟はほぼ機能していないものと思われます」


 もし、同盟が機能していれば、【虫】の魔王は防御に徹して時間を稼ぎ、同盟の増援を呼びこんで、挟み撃ちにしていただろう。

 これは単純だが効果的な手だ。

 あるいは【虫】を攻めるために手薄になったアヴァロンを狙うのもありだった。

 そのどちらもない、反プロケル同盟は【虫】を見殺しにした。

 これは同盟が機能していないことを意味する。


「ありがとう。現状が把握できた。デューク、家に帰ってゆっくりと体を休めてくれ」

「はっ、そうさせていただきます。と言いたいところですが、他の魔王を放置してもよろしいのでしょうか? 補給と戦力の補充をして、即座に別の魔王を襲撃することも可能です」

「たしかにな。敵の勢力で一番厄介なAランクの魔王を潰した。このまま続けざまに一人二人、潰したいところだし、そのつもりだった」


 消耗した戦力を補充し、即座に再出撃。

 それができるだけの力が俺の魔物たちにはある。


「我が君、何かできない理由が?」

「……今朝、反プロケル同盟の連中が和解を申し出てきた。それも、最強の三柱に次ぐ力を持つ魔王、【法】の魔王バアルに仲介を頼んでな。バアルからマルコに連絡がきた。力があるだけでなく、マルコとも親交が深い魔王だ。さすがに、無視するわけにはいかない」


 直接、反プロケル同盟から和解を申し出されても即座に蹴り飛ばしていたが、こんな大物を出されたら、受け入れるかはともかく話を聞くぐらいはしないといけない。


「我が君、その魔王たちにはプライドがないのでしょうか? 新人魔王である我が君相手に徒党を組んで、負けそうになれば大物を連れてきてとりなしてもらう。あまりにも無様すぎます」

「プライドより命が大事なのだろう。……まあ、悪い話ではない。仲介者である【法】の魔王バアルはどうやら中立のようだ。提示してきた条件は、有利な俺が和解してもおかしくないものだ。デュークも見てくれないか」


 デュークにマルコから渡された和解の条件が記された書類を渡す。

 この内容は和解というより、降伏し、慰謝料を払って命乞いをしているように見える。


 まず、反プロケル同盟を解体、参加していた魔王全員が、今後は俺に危害を加えないという【血の契約】をすること。

 ただの口約束ではなく、血の力と魔術によって魂を縛る契約だ。無理に破れば死ぬか廃人になってしまう。


 次に、俺に対する慰謝料として、来月から一年間の間、彼らが作るオリジナルメダルすべてを譲り受けることができる。

 仲介者によって、公開された反プロケル同盟の魔王は四人。

 映像から特定した魔王と一致する。

 俺の【創造】は他者のオリジナルメダルがないと効果を発揮しない。オリジナルメダルを五十枚近く得られるというのは願ってもないことだ。


「……一方的に我が君が得をするように見えます」

「だな。敵の魔王を殺して、水晶を砕いたところで、月に一度、砕いた相手のメダルを作る選択肢が増えるだけだ。メダルそのものをもらったほうがありがたい。それに、向こうは手を出さないと【契約】するが、俺のほうは手を出さないと宣言するだけでいい。よく、この条件を反プロケル同盟が呑んだとは思う……なにせ、俺のほうは約束を反故にして一方的に虐殺できる」


 もっとも、そのような卑劣な手を使えば魔王たちの中で悪評が広がり、孤立してしまう。

 それでも、そんなリスクがある【契約】を向こうから言い出すのが気になって仕方ない。


「僭越ながら意見させていただくと、我が君を油断させるため、あるいは時間稼ぎのための策略では?」

「そうだろうな。その場合、デュークはどうすればいいと思う?」

「あえて乗るべきでしょう。餌はしっかりといただき、油断させるのが目的であるのなら、警戒し続ける。時間稼ぎが目的であるのなら、稼がせた時間で向こう以上にこちらが力をつける」


 俺もそう考えていた。

 時間は俺の味方だ。潰すよりも利用してやろう。


「同感だ。俺はこの和解を受け入れよう。……これで反プロケル同盟との戦いはひと段落だな」

「ええ、ですが安心はできません」

「だな。新人魔王に徒党を組んだ歴戦の魔王が敗北したんだ。もっと怖い魔王にだって目を付けられるだろう。安心するには強くなるしかない」


 そうなれば、さらに恐れられるがそれはもうどうしようもないことだ。

 いっそ、行きつくところまで行ってしまえばいい。


「プロケル様、報告は以上です」

「ありがとう。今日は帰って休め。今回の戦いに参加した全員にボーナスを支給する。もちろんデュークにもだ。その金で家族を楽しませてやれ」

「そのつもりです。今日はとびっきり贅沢をしますよ」


 デュークが去っていく。

 ……彼にも言わなかった懸念が一つだけある。


 それは今回の黒幕が結局見つかっていないこと。

 普通に考えればAランクの【豪】の魔王か【虫】の魔王が反プロケル同盟を作り上げて、トップに立っていたと考えるべきだ。


 しかし、それはありえない。【豪】の魔王はそういうタイプではないし、【虫】の魔王はある程度抵抗したもののなすすべもなく水晶を砕かれた。


 黒幕がいると仮定すれば、今回の和解で向こうが開示した魔王の中には存在せずに、この状況でも隠れている狡猾な奴だ。

 ……むしろ、今回のことはその黒幕から目を逸らすための目くらましとすら思える。

 向こう側が出してきた、反プロケル同盟のリストをそのまま信じるわけにはいかない。


「デュークは、ちゃんと【虫】の魔王を持ち帰ってくれた。なにか情報を聞き出せるといいんだが」


【虫】の水晶を砕いたことで、ダンジョンは消失し、魔物も消滅したが、本人は殺していない。

 可能であれば生かして捕えるように指示し、その指示をデュークは守ってくれた。


 ありとあらゆる手段で【虫】の魔王から情報を吸い上げよう。

 そのための命令は下してある。

 ……今回の和解の条件、【虫】は死んだものとして扱われているため、和解を結ぶ魔王の中にリストアップされていない。

 いくら危害を加えても問題ではないのだ。


 あまり暴力的な手段は好きじゃないがアヴァロンのためには躊躇するつもりはない。

 敵に対する甘さは、大事な仲間の危険に繋がる。戦場で敵を見逃せば、次の日にはそいつに仲間を撃たれる。

 後になってから泣いて後悔するような愚か者にはなりたくない。


 ◇


 執務室から出る。

 すると、俺が出るのを待っていた子たちに囲まれた。


「おとーさん、クイナ、いっぱい活躍したの!」

「がうがう!」

「聖上、とってもとっても強くなったんだよ!」


【虫】のダンジョンに言った、クイナ、ティロ、ラフェの三人だ。

 クイナはキツネ尻尾をぶんぶん振り、ティロは舌を出して、ラフェはその翼を膨らませている。

 この子たちは俺の魔物たちの中でも、とりわけ考えていることがわかりやすい。


「おまえたちが無事に帰ってくれて何よりだ」


 俺がそう言うと、みんな一斉に話し始めて、何を言っているのか聞き取れない

 しょうがない子たちだ。


「……そうだな、甘い物でも食べに行こう。ケーキを食べながら、どう活躍したか聞かせてくれないか」

「クイナの活躍をたくさん聞かせてあげるの!」

「聖上、レベルが一気に20もあがった。だよ」


 デュークから、今回の戦いは詳細に報告を受けている。

 だが、それは全体を俯瞰したものだ。

 最前線で戦った者たちが肌で感じたことを聞きたい。

 何か、発見があるかもしれない。

 ……まあ、何より、この子たちが自慢したがっている。それを聞いてやるのも魔王としての役目だろう。


 ◇


 マルコのダンジョンに足を運んでいた。

 ここが和解を結ぶ際の、可能な限り中立な場として選ばれている。

【法】の魔王バアルか、【獣】の魔王マルコシアス。

 立会人のダンジョンを使うのが一番無難だ。

 二人の大魔王が見守るなか、俺と反プロケル同盟の面々との和解が執り行われた。


【法】の魔王バアルは、厳格さがにじみ出ている壮年の男性だ。

 見るからに堅物であり、マルコの話ではどの魔王よりも公平さを重視する魔王で、彼が意図的にどちらに加担することはないらしい。


 当初の予定通り、俺は彼らにこれ以上危害を加えないことを宣言し、彼らは俺に危害を加えないこと、そして一年の間、作成するオリジナルメダルを俺に捧げることを【血の契約】で誓った。

【法】の魔王バアルは要件が済むと自分の仕事は終わったと告げて去っていった。

 そして、反プロケル同盟の連中も逃げるように去っていく。

 マルコと二人きりになって、ようやく気を緩められた。

 疲れる。これなら、まだ戦っているほうがましだ。


「全部丸く収まってよかったね。これで、しばらく君に喧嘩を売ってくる魔王はいないさ」


 マルコが俺のもとへやってくる。


「そうだといいが、備えはしておくさ。どっちにしろ、もうすぐ卒業。それまでに力は必要だ」

「ほんとうに、君は手がかからない子だね。もう教えることがないよ」

「マルコには感謝している。今の俺があるのはマルコのおかげだ」

「そう言ってもらえると親冥利に尽きるけど、どうして急にそんなことを言うのかな?」

「なんとなく、そんな気分になった」


 和解のための会談が終わったことだし、これから、マルコとデートでもしたいところだが先客がいる。

【絶望】の魔王ベリアルだ。

 彼のダンジョンに向かい、二人きりで話す。


 その際に、彼の水晶の部屋に仕掛けた盗聴器を回収する。

 最後の最後の確認だ。

 魔王はダンジョンの様子が確認できる水晶の間にいる時間が一番長い。

 そして、水晶の間というのは絶対に外部の侵入を許さない、もっとも安全な場所。

 つまりは、もっとも気が緩んでしまう場所だ。

 彼のふとした瞬間に漏れた本音を確認する。

 名残惜しいが、マルコに別れを告げてベリアルのもとへ向かう。

 今日のためにいろいろと準備してあった。それもストラスとロノウェの力を借りてまで。

 これで疑うのは正真正銘最後だ。

 さあ、行こうか。ベリアルを信じるために。


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